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新人魔導師、発表会に参加する
9月11日、最終確認
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発表会前日。夏希は研究員が集まった食堂で最終確認をしていた。彼女の後ろには、いつものように零が控えている。
「全員、リストは持ってるな?」
ぐるりと周囲を見渡し、手元を見る。全員が頷いて応えた。その反応を見てから、夏希は話し始める。
「発表会は明日の12日から5日間。第1研究所から順番に発表していく。人数と時間の関係で、第1研究所は2日間使う。んで、残りの3日間で第2から第5までの発表を詰め込む。間の土日も出勤ってコトになるが、代休はあるから安心しろ。で、肝心の発表だが、大体1人につき15分の質疑応答の時間がある」
「うわ、長っ」
恭平が面倒くさそうにこぼした。その時間の長さに、天音も驚いているところだった。
「大抵長ぇ質問が来るんだよ。議論が始まるって言ってもいい。んで、15分休憩とって、次の発表に移る」
「え、質問がなかった場合はどうなるんですか?」
「そんなコトはねぇよ」
「俺の発表なんて聞く価値もない、みたいに質問されないことだってあるかもしれないじゃないですか……」
ネガティブな発言をし出す和馬に、夏希は安心しろと繰り返している。ネガティブ仲間の由紀奈は気持ちがわかるらしく、そうですよね、不安ですよね……と言っていた。
「あー、次の話に移るぞ」
話の流れを変えようと、夏希は早口に言ってホワイトボードにマグネットを貼りだした。
「発表の順番はこれな。リストのとおり、恭平、葵、双子、和馬、最後に透と天音。発表の順に並んで座る必要があるから忘れずにな」
「さ、最後なんですか……」
第5研究所の研究員としても、発表者としても最後。最初も嫌だが最後も緊張する。1番他の人の記憶に残りそうで怖かった。
「あたしらは最終日だ。それまで好きに発表聞いとけ」
「聞かなくてもいいんですか?」
「……例年、間に合わねぇヤツがギリギリまで原稿作業してたりするらしい……」
あー……という、心の底からの声があちこちから聞こえた。幸いにも第5研究所のメンバーは全員完成しているが、それまで相当な時間がかかった。終わらない者の気持ちが痛いほどわかる。
「間に合っている場合は?」
「興味あるのだけ聞いてていい?」
「あぁ、好きにしろ」
双子は頷くと、配られたリストに印をつけ始めた。聞きたいものにチェックを入れている。
「あの、これ、会場が書かれていないんですが……」
リストを読み込んでいた由紀奈が、不安そうに手を挙げた。確かに、リストには時間などは書かれているが、会場については触れられていなかった。
「それは所長と副所長しか知らないことになってる。全研究所の研究員が集まるからな。『白の十一天』に襲われちゃ困る」
「あ、なるほど……」
「大丈夫だ。ちゃんとあたしらが移動させるから」
発掘調査のときのように、瞬間移動の術を使って会場まで行くらしい。由紀奈はほっとしたように手を下げた。
「あと、他に質問は?」
「特にないです」
天音は代表して答えた。皆、明日に向けて色々と考え始めているせいで、反応が鈍いのだ。
「よし、いいか……あぁ、そうだ。幻像魔導でスライドショーみたいにできるけど、してぇヤツいるか? 真子がやってくれるぞ。アイツの得意な術だから」
「あ、スライドショーはいらないですけど、衣装がよく見えるようにはして欲しいですね」
今まで特に何も発言しなかった透が、急に熱くなって言った。自身の作品をしっかりと見て欲しいのだろう。拳を握って、照明の当て方などを語り始めた。それをある程度流しつつ、夏希はメモをとる。
「わかったわかった」
「それと、このタイミングで刺繍を拡大して見えるようにしてください!」
「はいはい」
興奮した透が夏希に詰め寄った。すると、さりげなく零が間に入る。
「落ち着いてください」
「あ、すみません」
優しく、けれどもしっかりと透を押し返す零の瞳は、笑っているようで笑っていない。嫉妬深い夫を持つと大変だな、と天音は1人小さく溜息を吐いた。
「他にはないな? よし、じゃあ解散。明日に備えろよー」
夏希の一言で、全員が席を立つ。
「行くぞ由紀奈、発表会の前に復習じゃ」
「は、はい!」
医療班は医務室で最後の復習をするらしく、由紀奈は背筋を伸ばして雅の後に着いていった。
「やっと終わったんで寝るッス!」
「明日はちゃんとした髪型で来てくださいよ!」
葵は今から眠るようだ。透に注意されているが、きっと明日も寝癖をつけたままやってくるだろう。容易く想像できた。
「練習しとこう」
「そうだね」
原稿を手に自室に向かう双子。恭平と和馬も何やらブツブツと独り言を言いながら去っていく。
そうして、零と夏希、天音だけが食堂に残った。
「……天音。お前ばっかり、大変な目に遭わせてごめんな」
「いえ。その……覚悟はできてます!」
「おや、頼もしい」
揶揄うように零が笑った。それを夏希がたしなめている。普段とは逆の光景だ。思わず笑ってしまう天音に、夏希は「意外と本番に強いタイプだな」と口にした。
明日、ついに本番である。
「全員、リストは持ってるな?」
ぐるりと周囲を見渡し、手元を見る。全員が頷いて応えた。その反応を見てから、夏希は話し始める。
「発表会は明日の12日から5日間。第1研究所から順番に発表していく。人数と時間の関係で、第1研究所は2日間使う。んで、残りの3日間で第2から第5までの発表を詰め込む。間の土日も出勤ってコトになるが、代休はあるから安心しろ。で、肝心の発表だが、大体1人につき15分の質疑応答の時間がある」
「うわ、長っ」
恭平が面倒くさそうにこぼした。その時間の長さに、天音も驚いているところだった。
「大抵長ぇ質問が来るんだよ。議論が始まるって言ってもいい。んで、15分休憩とって、次の発表に移る」
「え、質問がなかった場合はどうなるんですか?」
「そんなコトはねぇよ」
「俺の発表なんて聞く価値もない、みたいに質問されないことだってあるかもしれないじゃないですか……」
ネガティブな発言をし出す和馬に、夏希は安心しろと繰り返している。ネガティブ仲間の由紀奈は気持ちがわかるらしく、そうですよね、不安ですよね……と言っていた。
「あー、次の話に移るぞ」
話の流れを変えようと、夏希は早口に言ってホワイトボードにマグネットを貼りだした。
「発表の順番はこれな。リストのとおり、恭平、葵、双子、和馬、最後に透と天音。発表の順に並んで座る必要があるから忘れずにな」
「さ、最後なんですか……」
第5研究所の研究員としても、発表者としても最後。最初も嫌だが最後も緊張する。1番他の人の記憶に残りそうで怖かった。
「あたしらは最終日だ。それまで好きに発表聞いとけ」
「聞かなくてもいいんですか?」
「……例年、間に合わねぇヤツがギリギリまで原稿作業してたりするらしい……」
あー……という、心の底からの声があちこちから聞こえた。幸いにも第5研究所のメンバーは全員完成しているが、それまで相当な時間がかかった。終わらない者の気持ちが痛いほどわかる。
「間に合っている場合は?」
「興味あるのだけ聞いてていい?」
「あぁ、好きにしろ」
双子は頷くと、配られたリストに印をつけ始めた。聞きたいものにチェックを入れている。
「あの、これ、会場が書かれていないんですが……」
リストを読み込んでいた由紀奈が、不安そうに手を挙げた。確かに、リストには時間などは書かれているが、会場については触れられていなかった。
「それは所長と副所長しか知らないことになってる。全研究所の研究員が集まるからな。『白の十一天』に襲われちゃ困る」
「あ、なるほど……」
「大丈夫だ。ちゃんとあたしらが移動させるから」
発掘調査のときのように、瞬間移動の術を使って会場まで行くらしい。由紀奈はほっとしたように手を下げた。
「あと、他に質問は?」
「特にないです」
天音は代表して答えた。皆、明日に向けて色々と考え始めているせいで、反応が鈍いのだ。
「よし、いいか……あぁ、そうだ。幻像魔導でスライドショーみたいにできるけど、してぇヤツいるか? 真子がやってくれるぞ。アイツの得意な術だから」
「あ、スライドショーはいらないですけど、衣装がよく見えるようにはして欲しいですね」
今まで特に何も発言しなかった透が、急に熱くなって言った。自身の作品をしっかりと見て欲しいのだろう。拳を握って、照明の当て方などを語り始めた。それをある程度流しつつ、夏希はメモをとる。
「わかったわかった」
「それと、このタイミングで刺繍を拡大して見えるようにしてください!」
「はいはい」
興奮した透が夏希に詰め寄った。すると、さりげなく零が間に入る。
「落ち着いてください」
「あ、すみません」
優しく、けれどもしっかりと透を押し返す零の瞳は、笑っているようで笑っていない。嫉妬深い夫を持つと大変だな、と天音は1人小さく溜息を吐いた。
「他にはないな? よし、じゃあ解散。明日に備えろよー」
夏希の一言で、全員が席を立つ。
「行くぞ由紀奈、発表会の前に復習じゃ」
「は、はい!」
医療班は医務室で最後の復習をするらしく、由紀奈は背筋を伸ばして雅の後に着いていった。
「やっと終わったんで寝るッス!」
「明日はちゃんとした髪型で来てくださいよ!」
葵は今から眠るようだ。透に注意されているが、きっと明日も寝癖をつけたままやってくるだろう。容易く想像できた。
「練習しとこう」
「そうだね」
原稿を手に自室に向かう双子。恭平と和馬も何やらブツブツと独り言を言いながら去っていく。
そうして、零と夏希、天音だけが食堂に残った。
「……天音。お前ばっかり、大変な目に遭わせてごめんな」
「いえ。その……覚悟はできてます!」
「おや、頼もしい」
揶揄うように零が笑った。それを夏希がたしなめている。普段とは逆の光景だ。思わず笑ってしまう天音に、夏希は「意外と本番に強いタイプだな」と口にした。
明日、ついに本番である。
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