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新人魔導師、発表会に参加する
同日、発表の瞬間
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聞き逃してしまった恭平の発表は、なかなかに好評だったようだ。休憩時間になっても、彼の周りで話を聞こうとしている魔導師たちがいて、真子にやんわりと止められていた。
葵はとにかく我が道を行く発表スタイルだった。普段どおりの口調で話すものだから、隣の透が壇上まで止めに行きそうになっていて、全力で押さえつけた。とは言え、彼女の発表は一部の人間に絶大な人気を誇り、葵は満足そうに席に戻った。
双子は交互に話していたせいで、少し周囲を混乱させた。慣れないと見分けがつかないものだ。それでも、質疑応答の際には、時間が足りないほどに手が挙がった。
和馬の発表はやや異色で、魔導考古学省大臣はお気に召さなかったらしい。発表の最中に欠伸をされて泣きそうになっていた。夏希が大臣を睨みつけ、小さく舌打ちをしていたのを聞いてしまった。
「では、最後の発表に移ります」
司会者がそう言ったので立ち上がる。壇上へ向かおうとしたとき、聞き覚えのある、けれど場にふさわしくない音がした。
「きゃあああああああ!」
悲鳴を上げたのは誰だろう。他人事のように考えてしまった。
「天音! おい、天音!」
夏希が猫をかぶるのも忘れて叫んでいる。何があったんですか、そう問おうとしても何故か声が出ない。それもそのはず。
天音の胸元からは、どくどくと血が流れていた。
「どういうつもりだ、かなた!」
銃を構え、こちらに向けているかなたを、夏希は睨みつけている。彼女の手は魔導文字を書く準備をしていて、かなたに対して攻撃しようとしていた。
「確保!」
第2研究所の魔導衣を纏った研究員――先日輝夜を呼びに来た女性――が捕縛の術を使った。さらに男性の研究員が銃を取り上げてかなたの両手を封じる。
「なんでだよ、かなた……」
裏切られた哀しさ、辛さ。夏希は涙を流していた。雅の固有魔導でも、天音は助からない。もう、天音は息をしていなかった。
「清水夏希魔導復元師、松野かなた魔導解読師を魔導考古学省に連行します。よろしいですね?」
「あぁ……」
力が抜けてしまったのか、夏希はその場に座り込んだ。自身の推理は外れていて、美織は本当に裏切っていたのだ。そして、かなたまでも――
「と言うとでも思ったか?」
「……は?」
「ホントはお前が犯人だろ、林未来さんよ。ずーっと天音を見てたの、気づいてなかったとでも?」
第2研究所、第4発表者の林未来。それが彼女の名だった。夏希は彼女の発表にそこまで興味はなかったが、名前はよく覚えていた。
彼女こそが、美織に罪を着せ、さらにはかなたに天音を殺させた人物なのだから。
「美織は確かにウチのコトをバラしたし、占った結果を『白の十一天』に伝えたよ。でも、それはお前がそうさせたからだ」
「……何をおっしゃっているのやら。やはり弱小研究所の人間は碌なことを言いませんね」
「1つずつ話してやろうか。あたしは最初っからお前が怪しいと思ってたんだ」
「こんな状況で何を。今は松野かなた魔導解読師を捕縛し、魔導考古学省に送ることが最優先でしょう」
夏希は未来の話を無視し、喋り続ける。
「なぁ、なんでお前は天音が新人だって一目見ただけでわかったんだ?」
「……今まで見たことがない顔でしたので」
「何言ってんだ、第5研究所は今までこんな場に出たコトがねぇんだから、全員見たコトねぇ顔だろうが」
その瞬間、ピタリと未来の動きが止まった。夏希がそれを見逃すはずもなく、いつもの悪役じみた笑顔で彼女を追い詰める。
「お前の固有魔導な、輝夜が教えてくれたぞ」
「それが、なんだというのです? ただ、私は少しだけ過去が視える、それだけの固有魔導しか持っていません」
「表向きはそうしてんのか。でも輝夜は知ってたぞ。お前の固有魔導は、『絶対に逆らえない命令を出す』モンだってな。おまけにそうして命令された間のコトは忘れちまうんだって。おかげで色々やりづらかったわ。天音に命令されたらと思うとギリギリまで説明もできねぇし」
未来は美織に命令し、知っていることを全て話させたうえに予言もさせた。彼女が裏切り者について占った際によく視えなかったのは、自身も関係していたからだ。
だが、第三者である輝夜ならばそれを視ることができた。
「……馬鹿な! 口外するなと命じたはず……っ!?」
「証言サンキュ。一言だけアドバイスな。ホントに教えられたくないんなら、『口外するな』じゃなくて『教えるな』にするべきだったと思うぜ」
輝夜に会ったあの日。握られた手には、未来の固有魔導について書かれていた。かなり細かい字で何行も書かれたそれは、彼女が以前から未来について気づいていたことを示していた。
そして、口外できなかった輝夜は、文章にして夏希に伝えたのである。
「握った手にメモ、っていうヒントを真子から天音に出したんだけどな……気づかなかったみたいだ」
「伊藤天音は死んだ。それが全てでしょう。私が『白の十一天』であると気づいたところで無駄です。この会場にいる全員、私に従うようになっている。何故貴女が私の支配下にないのかはわかりませんが……貴女の負けです。彼女たちは私にとって有利な証言しかしない」
「ホントにそう思うか?」
「は?」
「あたしが真実を知って、何の対策もナシにここに来るバカに見えんのか。そりゃ驚きだ」
おい、もう起きていいぜ。
夏希は天音の方に向かってそう言った。まるで、彼女が生きているかのように。
「部下が死んで気がおかしくなったようですね。伊藤天音は胸を撃たれて死にました。死者は生き返りません。どんな術を使ってもね」
「『死者は』な。死んでなけりゃ起きるぜ」
天音の体が、夏希の声に反応したように、ピクリと動いた。
葵はとにかく我が道を行く発表スタイルだった。普段どおりの口調で話すものだから、隣の透が壇上まで止めに行きそうになっていて、全力で押さえつけた。とは言え、彼女の発表は一部の人間に絶大な人気を誇り、葵は満足そうに席に戻った。
双子は交互に話していたせいで、少し周囲を混乱させた。慣れないと見分けがつかないものだ。それでも、質疑応答の際には、時間が足りないほどに手が挙がった。
和馬の発表はやや異色で、魔導考古学省大臣はお気に召さなかったらしい。発表の最中に欠伸をされて泣きそうになっていた。夏希が大臣を睨みつけ、小さく舌打ちをしていたのを聞いてしまった。
「では、最後の発表に移ります」
司会者がそう言ったので立ち上がる。壇上へ向かおうとしたとき、聞き覚えのある、けれど場にふさわしくない音がした。
「きゃあああああああ!」
悲鳴を上げたのは誰だろう。他人事のように考えてしまった。
「天音! おい、天音!」
夏希が猫をかぶるのも忘れて叫んでいる。何があったんですか、そう問おうとしても何故か声が出ない。それもそのはず。
天音の胸元からは、どくどくと血が流れていた。
「どういうつもりだ、かなた!」
銃を構え、こちらに向けているかなたを、夏希は睨みつけている。彼女の手は魔導文字を書く準備をしていて、かなたに対して攻撃しようとしていた。
「確保!」
第2研究所の魔導衣を纏った研究員――先日輝夜を呼びに来た女性――が捕縛の術を使った。さらに男性の研究員が銃を取り上げてかなたの両手を封じる。
「なんでだよ、かなた……」
裏切られた哀しさ、辛さ。夏希は涙を流していた。雅の固有魔導でも、天音は助からない。もう、天音は息をしていなかった。
「清水夏希魔導復元師、松野かなた魔導解読師を魔導考古学省に連行します。よろしいですね?」
「あぁ……」
力が抜けてしまったのか、夏希はその場に座り込んだ。自身の推理は外れていて、美織は本当に裏切っていたのだ。そして、かなたまでも――
「と言うとでも思ったか?」
「……は?」
「ホントはお前が犯人だろ、林未来さんよ。ずーっと天音を見てたの、気づいてなかったとでも?」
第2研究所、第4発表者の林未来。それが彼女の名だった。夏希は彼女の発表にそこまで興味はなかったが、名前はよく覚えていた。
彼女こそが、美織に罪を着せ、さらにはかなたに天音を殺させた人物なのだから。
「美織は確かにウチのコトをバラしたし、占った結果を『白の十一天』に伝えたよ。でも、それはお前がそうさせたからだ」
「……何をおっしゃっているのやら。やはり弱小研究所の人間は碌なことを言いませんね」
「1つずつ話してやろうか。あたしは最初っからお前が怪しいと思ってたんだ」
「こんな状況で何を。今は松野かなた魔導解読師を捕縛し、魔導考古学省に送ることが最優先でしょう」
夏希は未来の話を無視し、喋り続ける。
「なぁ、なんでお前は天音が新人だって一目見ただけでわかったんだ?」
「……今まで見たことがない顔でしたので」
「何言ってんだ、第5研究所は今までこんな場に出たコトがねぇんだから、全員見たコトねぇ顔だろうが」
その瞬間、ピタリと未来の動きが止まった。夏希がそれを見逃すはずもなく、いつもの悪役じみた笑顔で彼女を追い詰める。
「お前の固有魔導な、輝夜が教えてくれたぞ」
「それが、なんだというのです? ただ、私は少しだけ過去が視える、それだけの固有魔導しか持っていません」
「表向きはそうしてんのか。でも輝夜は知ってたぞ。お前の固有魔導は、『絶対に逆らえない命令を出す』モンだってな。おまけにそうして命令された間のコトは忘れちまうんだって。おかげで色々やりづらかったわ。天音に命令されたらと思うとギリギリまで説明もできねぇし」
未来は美織に命令し、知っていることを全て話させたうえに予言もさせた。彼女が裏切り者について占った際によく視えなかったのは、自身も関係していたからだ。
だが、第三者である輝夜ならばそれを視ることができた。
「……馬鹿な! 口外するなと命じたはず……っ!?」
「証言サンキュ。一言だけアドバイスな。ホントに教えられたくないんなら、『口外するな』じゃなくて『教えるな』にするべきだったと思うぜ」
輝夜に会ったあの日。握られた手には、未来の固有魔導について書かれていた。かなり細かい字で何行も書かれたそれは、彼女が以前から未来について気づいていたことを示していた。
そして、口外できなかった輝夜は、文章にして夏希に伝えたのである。
「握った手にメモ、っていうヒントを真子から天音に出したんだけどな……気づかなかったみたいだ」
「伊藤天音は死んだ。それが全てでしょう。私が『白の十一天』であると気づいたところで無駄です。この会場にいる全員、私に従うようになっている。何故貴女が私の支配下にないのかはわかりませんが……貴女の負けです。彼女たちは私にとって有利な証言しかしない」
「ホントにそう思うか?」
「は?」
「あたしが真実を知って、何の対策もナシにここに来るバカに見えんのか。そりゃ驚きだ」
おい、もう起きていいぜ。
夏希は天音の方に向かってそう言った。まるで、彼女が生きているかのように。
「部下が死んで気がおかしくなったようですね。伊藤天音は胸を撃たれて死にました。死者は生き返りません。どんな術を使ってもね」
「『死者は』な。死んでなけりゃ起きるぜ」
天音の体が、夏希の声に反応したように、ピクリと動いた。
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