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新人魔導師、発表会に参加する
同日、魔導元年の真実
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今から12年前のこと。
まだ、夏希が小学生だったころのことだ。
「あの日、妙な石を拾ったんだ。何かが彫ってあるような、不思議な模様がついた石を」
今から思うと、あれは魔導文字だった。
夏希はそうこぼした。
「それに触った途端……あたしは固有魔導が使えるようになった」
夏希の固有魔導、それは――
「……あらゆる魔法や魔導を破壊する、それがあたしの固有魔導だ」
最後の発掘調査のときに、すぐに封印を解いたのも。未来の固有魔導が全員に効かなかったのも。夏希の固有魔導によるものだった。
「今でこそコントロールできちゃいるが、当時は発現したてで何もできなかった」
「それはどういう……まさか」
「そう、あたしは世界中の遺跡にかけられてた封印を解いちまった。まぁ、当時のあたしは魔力の使い方がわかってなかったから、解けてねぇトコも少しあるけどな」
不可視の魔法や封印の魔法。そういったものが破壊され、西沢健一は「魔法は実在した」と知ることができたのだ。
「副所長が何をしたのか、ということはわかりました。けれど、知ったことってなんですか?」
天音は手を挙げて質問した。正直、スケールが大きすぎて理解が追い付いていないというか、現実味を帯びていないように感じてしまう話ではあったが、続きが気になってしまった。
「……昔の魔法使いたちは、魔女狩りや科学技術の進歩で居場所を失った。だから人のいないような場所に移り住んだんだ。そんで、魔法を封印することにした」
「それが、夏希が破壊した封印?」
「戻した方がいいの?」
双子が心配そうに聞いた。魔法、魔導がなくなった世界でどう生きればいいのかわからないのだ。
「……いや。魔法使いたちは、封印の中に記憶を残していた。その中に、『またいつの日か、魔法を使える人もそうでない人も、手を取り合って過ごせる世界でありますように』っていう願いが込められてたんだ」
魔法使いたちはそれを願って、封印の術をかけた。時と共に封印はゆっくりと解けていき、零のように魔法の力を持った人間も産まれるようになった。
そして、夏希もまた、魔力を持って産まれ、12歳のときにその才能が開花した。世界中の魔法使いたちがかけた封印を破壊し、魔法が存在したことを証明するきっかけを作ったのだ。
「ただ、なんでも破壊できたワケじゃねぇ。完璧に発動させることはできなかったから、中途半端に封印が解けた。魔導探知が人によって耳や目、鼻でしかできないのも、あたしから魔力の匂いや音がしないのも、魔導文字の発音方法がわからねぇのもそのせいだ」
「じゃあ、夏希がもう1回固有魔導を使えば、オレも目で魔力が見えるし魔導文字の発音方法もわかるってコトか」
「期待してるトコ悪ぃが。今んとこ使う気はねぇぞ」
「……魔導考古学省を敵に回すことになるから、ですか?」
魔法が一気に復活すると、地位や権力を失う。一花の言葉を思い出した由紀奈が、おずおずと言った。
「それも一理あるけどな。それよりも今は、『白の十一天』を刺激するのは避けてぇ」
「確かに……あっちにも魔導師がいるんですもんね」
和馬はうんうんと頷いた。敵が非魔導師だけならば、魔導文字の発音方法がわかることはこちらにとって有利になる。だが、現状、『白の十一天』には多くの魔導師がいるのだ。相手に武器を与えるような真似はしたくない。
「天音が完全に魔法を復活させられねぇのも、あたしが封印を完全に破壊してねぇからだ」
「そういうことだったんですか!」
「あぁ……」
ここまで話すと、夏希は零を見つめた。唇を噛み締め、大きな瞳にうっすらと涙を浮かべている。
「零……お前の両親が死んだのも、妹があんな組織を作ったのも。全部全部、あたしのせいなんだ。そのくせ、あたしはそれを黙ってた」
「夏希……」
「本当に、ごめんな」
ついに涙が頬を伝う。夏希はそれを拭いもせずに走り出した。
「なーにぼさっとしてんスか! 追いかけるべきッスよ!」
「ほら、行った行った!」
技術班が零を蹴とばす勢いで食堂から追い出した。慌てて零が走り出す。
身体強化の術を使っていなくても夏希は足が速かった。零はどうにか追いついて、背後から抱きしめる。
「放してくれっ! あたしはお前の傍にいられるような人間じゃねぇんだよ!」
手袋が外されている。かけられた呪いを破壊できるかどうか試していたことがわかった。夏希は呪いを解いて、自分だけ死のうとしていたのだ。
「貴女は何も悪くありませんよ」
「あたしがっ、あたしが封印を壊したから! だから零の父様はっ!」
「貴女が封印を解いてくれなければ、僕は変な力を持った嫌われ者でした。友達もいなかった。けれど、夏希が封印を解いてくれたから、僕は『魔導師』という職を得たんです」
「けどっ!」
「ねえ、愛しい人。どうか僕の話を聞いて」
零は力強く夏希を抱きしめた。彼女が逃げないように、1人で死のうとしないように。
「さっきの話、聞いていたでしょう? 天音さんはなんて言ってました?」
「……恨むべきは、犯人だって」
「そうです。本当にそうだって、貴女も言ったでしょう。悪いのは父を殺した魔導考古学省や第1研究所です。貴女じゃない」
少しずつ、夏希の体から力が抜けていく。小さな体を支えながら、零はいつもの笑みを浮かべていた。
「僕が貴女を嫌うことなんてあり得ませんよ」
迷ったふりをしてこっそり研究所の部屋から抜け出したあの日。一目見ただけで恋に落ちた。小さくて、強くて、誰よりも努力家で、口が悪いけれど優しい人。
「愛しています、夏希。一緒に地獄まで行きましょう」
「……そこは天国って言えよ」
「そっちこそ。お前とならどこへでも、と言って欲しかったですね」
「あー……クソッ! 死んでも離してやらねぇからな!」
「……それは僕の台詞では?」
そこらの男よりもカッコいい妻に、零は思わず笑ってしまう。
夏希の頬は、もう濡れてはいなかった。
まだ、夏希が小学生だったころのことだ。
「あの日、妙な石を拾ったんだ。何かが彫ってあるような、不思議な模様がついた石を」
今から思うと、あれは魔導文字だった。
夏希はそうこぼした。
「それに触った途端……あたしは固有魔導が使えるようになった」
夏希の固有魔導、それは――
「……あらゆる魔法や魔導を破壊する、それがあたしの固有魔導だ」
最後の発掘調査のときに、すぐに封印を解いたのも。未来の固有魔導が全員に効かなかったのも。夏希の固有魔導によるものだった。
「今でこそコントロールできちゃいるが、当時は発現したてで何もできなかった」
「それはどういう……まさか」
「そう、あたしは世界中の遺跡にかけられてた封印を解いちまった。まぁ、当時のあたしは魔力の使い方がわかってなかったから、解けてねぇトコも少しあるけどな」
不可視の魔法や封印の魔法。そういったものが破壊され、西沢健一は「魔法は実在した」と知ることができたのだ。
「副所長が何をしたのか、ということはわかりました。けれど、知ったことってなんですか?」
天音は手を挙げて質問した。正直、スケールが大きすぎて理解が追い付いていないというか、現実味を帯びていないように感じてしまう話ではあったが、続きが気になってしまった。
「……昔の魔法使いたちは、魔女狩りや科学技術の進歩で居場所を失った。だから人のいないような場所に移り住んだんだ。そんで、魔法を封印することにした」
「それが、夏希が破壊した封印?」
「戻した方がいいの?」
双子が心配そうに聞いた。魔法、魔導がなくなった世界でどう生きればいいのかわからないのだ。
「……いや。魔法使いたちは、封印の中に記憶を残していた。その中に、『またいつの日か、魔法を使える人もそうでない人も、手を取り合って過ごせる世界でありますように』っていう願いが込められてたんだ」
魔法使いたちはそれを願って、封印の術をかけた。時と共に封印はゆっくりと解けていき、零のように魔法の力を持った人間も産まれるようになった。
そして、夏希もまた、魔力を持って産まれ、12歳のときにその才能が開花した。世界中の魔法使いたちがかけた封印を破壊し、魔法が存在したことを証明するきっかけを作ったのだ。
「ただ、なんでも破壊できたワケじゃねぇ。完璧に発動させることはできなかったから、中途半端に封印が解けた。魔導探知が人によって耳や目、鼻でしかできないのも、あたしから魔力の匂いや音がしないのも、魔導文字の発音方法がわからねぇのもそのせいだ」
「じゃあ、夏希がもう1回固有魔導を使えば、オレも目で魔力が見えるし魔導文字の発音方法もわかるってコトか」
「期待してるトコ悪ぃが。今んとこ使う気はねぇぞ」
「……魔導考古学省を敵に回すことになるから、ですか?」
魔法が一気に復活すると、地位や権力を失う。一花の言葉を思い出した由紀奈が、おずおずと言った。
「それも一理あるけどな。それよりも今は、『白の十一天』を刺激するのは避けてぇ」
「確かに……あっちにも魔導師がいるんですもんね」
和馬はうんうんと頷いた。敵が非魔導師だけならば、魔導文字の発音方法がわかることはこちらにとって有利になる。だが、現状、『白の十一天』には多くの魔導師がいるのだ。相手に武器を与えるような真似はしたくない。
「天音が完全に魔法を復活させられねぇのも、あたしが封印を完全に破壊してねぇからだ」
「そういうことだったんですか!」
「あぁ……」
ここまで話すと、夏希は零を見つめた。唇を噛み締め、大きな瞳にうっすらと涙を浮かべている。
「零……お前の両親が死んだのも、妹があんな組織を作ったのも。全部全部、あたしのせいなんだ。そのくせ、あたしはそれを黙ってた」
「夏希……」
「本当に、ごめんな」
ついに涙が頬を伝う。夏希はそれを拭いもせずに走り出した。
「なーにぼさっとしてんスか! 追いかけるべきッスよ!」
「ほら、行った行った!」
技術班が零を蹴とばす勢いで食堂から追い出した。慌てて零が走り出す。
身体強化の術を使っていなくても夏希は足が速かった。零はどうにか追いついて、背後から抱きしめる。
「放してくれっ! あたしはお前の傍にいられるような人間じゃねぇんだよ!」
手袋が外されている。かけられた呪いを破壊できるかどうか試していたことがわかった。夏希は呪いを解いて、自分だけ死のうとしていたのだ。
「貴女は何も悪くありませんよ」
「あたしがっ、あたしが封印を壊したから! だから零の父様はっ!」
「貴女が封印を解いてくれなければ、僕は変な力を持った嫌われ者でした。友達もいなかった。けれど、夏希が封印を解いてくれたから、僕は『魔導師』という職を得たんです」
「けどっ!」
「ねえ、愛しい人。どうか僕の話を聞いて」
零は力強く夏希を抱きしめた。彼女が逃げないように、1人で死のうとしないように。
「さっきの話、聞いていたでしょう? 天音さんはなんて言ってました?」
「……恨むべきは、犯人だって」
「そうです。本当にそうだって、貴女も言ったでしょう。悪いのは父を殺した魔導考古学省や第1研究所です。貴女じゃない」
少しずつ、夏希の体から力が抜けていく。小さな体を支えながら、零はいつもの笑みを浮かべていた。
「僕が貴女を嫌うことなんてあり得ませんよ」
迷ったふりをしてこっそり研究所の部屋から抜け出したあの日。一目見ただけで恋に落ちた。小さくて、強くて、誰よりも努力家で、口が悪いけれど優しい人。
「愛しています、夏希。一緒に地獄まで行きましょう」
「……そこは天国って言えよ」
「そっちこそ。お前とならどこへでも、と言って欲しかったですね」
「あー……クソッ! 死んでも離してやらねぇからな!」
「……それは僕の台詞では?」
そこらの男よりもカッコいい妻に、零は思わず笑ってしまう。
夏希の頬は、もう濡れてはいなかった。
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