134 / 140
新人魔導師、発表会に参加する
同日、女王陛下の仰せのままに
しおりを挟む
零は夏希の手を引いて食堂へと戻っていく。
「僕は妹と……一花と、戦わなくてはいけません。貴女が死ぬなんて、僕は耐えられない」
「……あたしだってそうだ。戦う」
「他の子を巻き込むわけにはいきませんから。安全な場所に逃げてもらいましょう」
「そうだな……国外なら安全だろ」
「は? 何言ってんの」
様子を見に来ていたのだろう。壁にもたれかかっていた恭平が、心底馬鹿にした口調で言った。
「オレらだって戦うに決まってる」
「2人が死ぬなんておかしい」
「天音が捕まるのもおかしい」
扉から顔を覗かせた双子が恭平に続いた。背後では、何やら怪しげな機械を準備している葵と、それを止めない透が見える。和馬は厨房に籠り、食事を作っていた。雅と由紀奈は大量の包帯やガーゼを用意し、天音はあちこち本をひっくり返して魔導の復習をしている。
「皆、戦う気マンマンッスよ!」
「逃げたりなんてしません」
「2人で背負わないでください」
「わらわを除け者にしようなど、1000年早いわ!」
「私を置いていくのもっ、1000年早いです……っ!」
「皆、お2人の味方です」
皆の声を聞くなり、夏希は凄まじい勢いで目を瞑って俯いた。そうしないと、また涙がこぼれそうだったから。
「お前ら……バカじゃねぇの……」
「バカでもいい」
「いいから、死のうとしないで」
双子が零と夏希、それぞれを押して、食堂の席に座らせた。
「まずは、体力と魔力を回復させましょう。戦うのは、それからでいいはずです」
全員の好物を用意した和馬が、テーブルいっぱいに皿を並べていく。それぞれが定位置に座って、「いただきます」の号令と共にあちこちから箸が伸ばされた。
「……僕たちも、食べましょうか」
「……あぁ」
少し遅れて、2人も箸を取った。
テーブルに置かれた皿が全て空になり、片付けられたころ。魔力回復効果のあるハーブティーを飲みながら、一同は作戦会議を行っていた。
「ここ以外の国立研究所はもうダメだな」
「ですね……」
輝夜以外の所長と副所長が裏切ったとなると、研究所は「白の十一天」に支配されていてもおかしくない。
「私設の研究所はどうでしょう?」
「多分、そこは狙われてる」
「どこにいるんでしょうね……」
首を傾げながら天音がうんうん唸っていると、夏希がポツリと呟いた。
「第1研究所」
「え?」
「第1だ、いるならそこしかねぇ」
「なんで断言できるんですか?」
「あそこなら魔導考古学省とも近い。それに、研究発表会の会場から瞬間移動の術で着く」
瞬間移動は便利だが、移動できる範囲が狭いという欠点がある。もちろん、近くにいると見せかけて遠くまで逃げたという可能性もあるが、地方には博物館も私設の研究所も少ないので、正しいように思えた。
「それに、あそこは……」
「僕たちにとって始まりの場所であり、忌まわしき場所でもあります。一花が選んでもおかしくない」
「つ、つまり、私たちは第1研究所の防御魔導を突破しないといけないんですか!?」
由紀奈が絶叫した。この国の最高峰、第1研究所には、ありとあらゆる防御魔導がかけられている。侵入することは不可能だと言われているほどだ。
「忘れたのか? あたしは『破壊の星の子』、そんなモン、3秒ありゃ壊せる」
「よっ、さすが『純白の破壊者』!」
「葵、お前よくも!」
「いやあ、よく似合ってるッスよ!」
けらけら笑う葵の脇腹に、透の肘鉄が入った。手加減はされているとは思うが痛そうだ。
「うぐっ……」
「お話、続けてください」
「おう……」
若干引いた顔をした夏希が、静かに返事をした。軽く息をついて切り替える。
「問題は人数の少なさだな」
「僕たちは11人。相手は100人以上。劣勢ですね」
「これから敵側につくヤツもいるだろうしな」
敗色濃厚な魔導師側を見て、「白の十一天」に味方する者は確実にいるだろう。そうすれば、ただえさえ人数の少ない第5研究所は勝ち目がなくなってしまう。
「なら奇襲ですかね。あえて二手に分かれるとか……」
人数が少ないのに、さらに少なくなるような真似は普通ならしないはず。天音はそう考えて提案してみた。
「分けるとして、お前ならどうする?」
「あ、え、ええと……」
はるかとかなたは離れられない。固有魔導を使うことを考えると恭平と由紀奈は同じチームにいないといけない。由紀奈はあくまで看護師なので、医師である雅が共にいる必要がある。零と夏希、天音は狙われているのでできれば分散させたい。
「む、難しいですね……」
「あぁ。だからいっそ、奇襲してくるだろうっつう相手の考えの裏をかいて、正面突破する」
「正面突破!?」
「んで、そっからは各自戦闘だ。作戦らしい作戦とは言えねぇが、この人数じゃできるコトも少ねぇからな」
「なら、夏希が防御魔導を破壊後、順に乗り込みましょう。僕は殿を務めます」
「だな。ひとまず、魔導考古学省がどう動くか見ようぜ。それまで仮眠とっとけ。万全の状態で戦えるようにしとけよ」
そう言うと、夏希は立ち上がった。つられて、全員が立つ。
「こういうとき言うのはやっぱあれッスよね?」
「そうですね」
葵と透が笑い、皆が頷く。そのまま夏希以外の全員が胸に手を当てて一礼し、あの台詞を口にする。
「女王陛下の仰せのままに!」
ぴったりと揃った声が、食堂に響いた。
「僕は妹と……一花と、戦わなくてはいけません。貴女が死ぬなんて、僕は耐えられない」
「……あたしだってそうだ。戦う」
「他の子を巻き込むわけにはいきませんから。安全な場所に逃げてもらいましょう」
「そうだな……国外なら安全だろ」
「は? 何言ってんの」
様子を見に来ていたのだろう。壁にもたれかかっていた恭平が、心底馬鹿にした口調で言った。
「オレらだって戦うに決まってる」
「2人が死ぬなんておかしい」
「天音が捕まるのもおかしい」
扉から顔を覗かせた双子が恭平に続いた。背後では、何やら怪しげな機械を準備している葵と、それを止めない透が見える。和馬は厨房に籠り、食事を作っていた。雅と由紀奈は大量の包帯やガーゼを用意し、天音はあちこち本をひっくり返して魔導の復習をしている。
「皆、戦う気マンマンッスよ!」
「逃げたりなんてしません」
「2人で背負わないでください」
「わらわを除け者にしようなど、1000年早いわ!」
「私を置いていくのもっ、1000年早いです……っ!」
「皆、お2人の味方です」
皆の声を聞くなり、夏希は凄まじい勢いで目を瞑って俯いた。そうしないと、また涙がこぼれそうだったから。
「お前ら……バカじゃねぇの……」
「バカでもいい」
「いいから、死のうとしないで」
双子が零と夏希、それぞれを押して、食堂の席に座らせた。
「まずは、体力と魔力を回復させましょう。戦うのは、それからでいいはずです」
全員の好物を用意した和馬が、テーブルいっぱいに皿を並べていく。それぞれが定位置に座って、「いただきます」の号令と共にあちこちから箸が伸ばされた。
「……僕たちも、食べましょうか」
「……あぁ」
少し遅れて、2人も箸を取った。
テーブルに置かれた皿が全て空になり、片付けられたころ。魔力回復効果のあるハーブティーを飲みながら、一同は作戦会議を行っていた。
「ここ以外の国立研究所はもうダメだな」
「ですね……」
輝夜以外の所長と副所長が裏切ったとなると、研究所は「白の十一天」に支配されていてもおかしくない。
「私設の研究所はどうでしょう?」
「多分、そこは狙われてる」
「どこにいるんでしょうね……」
首を傾げながら天音がうんうん唸っていると、夏希がポツリと呟いた。
「第1研究所」
「え?」
「第1だ、いるならそこしかねぇ」
「なんで断言できるんですか?」
「あそこなら魔導考古学省とも近い。それに、研究発表会の会場から瞬間移動の術で着く」
瞬間移動は便利だが、移動できる範囲が狭いという欠点がある。もちろん、近くにいると見せかけて遠くまで逃げたという可能性もあるが、地方には博物館も私設の研究所も少ないので、正しいように思えた。
「それに、あそこは……」
「僕たちにとって始まりの場所であり、忌まわしき場所でもあります。一花が選んでもおかしくない」
「つ、つまり、私たちは第1研究所の防御魔導を突破しないといけないんですか!?」
由紀奈が絶叫した。この国の最高峰、第1研究所には、ありとあらゆる防御魔導がかけられている。侵入することは不可能だと言われているほどだ。
「忘れたのか? あたしは『破壊の星の子』、そんなモン、3秒ありゃ壊せる」
「よっ、さすが『純白の破壊者』!」
「葵、お前よくも!」
「いやあ、よく似合ってるッスよ!」
けらけら笑う葵の脇腹に、透の肘鉄が入った。手加減はされているとは思うが痛そうだ。
「うぐっ……」
「お話、続けてください」
「おう……」
若干引いた顔をした夏希が、静かに返事をした。軽く息をついて切り替える。
「問題は人数の少なさだな」
「僕たちは11人。相手は100人以上。劣勢ですね」
「これから敵側につくヤツもいるだろうしな」
敗色濃厚な魔導師側を見て、「白の十一天」に味方する者は確実にいるだろう。そうすれば、ただえさえ人数の少ない第5研究所は勝ち目がなくなってしまう。
「なら奇襲ですかね。あえて二手に分かれるとか……」
人数が少ないのに、さらに少なくなるような真似は普通ならしないはず。天音はそう考えて提案してみた。
「分けるとして、お前ならどうする?」
「あ、え、ええと……」
はるかとかなたは離れられない。固有魔導を使うことを考えると恭平と由紀奈は同じチームにいないといけない。由紀奈はあくまで看護師なので、医師である雅が共にいる必要がある。零と夏希、天音は狙われているのでできれば分散させたい。
「む、難しいですね……」
「あぁ。だからいっそ、奇襲してくるだろうっつう相手の考えの裏をかいて、正面突破する」
「正面突破!?」
「んで、そっからは各自戦闘だ。作戦らしい作戦とは言えねぇが、この人数じゃできるコトも少ねぇからな」
「なら、夏希が防御魔導を破壊後、順に乗り込みましょう。僕は殿を務めます」
「だな。ひとまず、魔導考古学省がどう動くか見ようぜ。それまで仮眠とっとけ。万全の状態で戦えるようにしとけよ」
そう言うと、夏希は立ち上がった。つられて、全員が立つ。
「こういうとき言うのはやっぱあれッスよね?」
「そうですね」
葵と透が笑い、皆が頷く。そのまま夏希以外の全員が胸に手を当てて一礼し、あの台詞を口にする。
「女王陛下の仰せのままに!」
ぴったりと揃った声が、食堂に響いた。
0
あなたにおすすめの小説
人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―
ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」
前世、15歳で人生を終えたぼく。
目が覚めたら異世界の、5歳の王子様!
けど、人質として大国に送られた危ない身分。
そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。
「ぼく、このお話知ってる!!」
生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!?
このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!!
「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」
生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。
とにかく周りに気を使いまくって!
王子様たちは全力尊重!
侍女さんたちには迷惑かけない!
ひたすら頑張れ、ぼく!
――猶予は後10年。
原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない!
お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。
それでも、ぼくは諦めない。
だって、絶対の絶対に死にたくないからっ!
原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。
健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。
どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。
(全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)
現代知識と木魔法で辺境貴族が成り上がる! ~もふもふ相棒と最強開拓スローライフ~
はぶさん
ファンタジー
木造建築の設計士だった主人公は、不慮の事故で異世界のド貧乏男爵家の次男アークに転生する。「自然と共生する持続可能な生活圏を自らの手で築きたい」という前世の夢を胸に、彼は規格外の「木魔法」と現代知識を駆使して、貧しい村の開拓を始める。
病に倒れた最愛の母を救うため、彼は建築・農業の知識で生活環境を改善し、やがて森で出会ったもふもふの相棒ウルと共に、村を、そして辺境を豊かにしていく。
これは、温かい家族と仲間に支えられ、無自覚なチート能力で無理解な世界を見返していく、一人の青年の最強開拓物語である。
別作品も掲載してます!よかったら応援してください。
おっさん転生、相棒はもふもふ白熊。100均キャンプでスローライフはじめました。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
聖女は王子たちを完全スルーして、呪われ大公に強引求婚します!
葵 すみれ
恋愛
今宵の舞踏会は、聖女シルヴィアが二人の王子のどちらに薔薇を捧げるのかで盛り上がっていた。
薔薇を捧げるのは求婚の証。彼女が選んだ王子が、王位争いの勝者となるだろうと人々は囁き交わす。
しかし、シルヴィアは薔薇を持ったまま、自信満々な第一王子も、気取った第二王子も素通りしてしまう。
彼女が薔薇を捧げたのは、呪われ大公と恐れられ、蔑まれるマテウスだった。
拒絶されるも、シルヴィアはめげない。
壁ドンで追い詰めると、強引に薔薇を握らせて宣言する。
「わたくし、絶対にあなたさまを幸せにしてみせますわ! 絶対に、絶対にです!」
ぐいぐい押していくシルヴィアと、たじたじなマテウス。
二人のラブコメディが始まる。
※他サイトにも投稿しています
望まぬ結婚をさせられた私のもとに、死んだはずの護衛騎士が帰ってきました~不遇令嬢が世界一幸せな花嫁になるまで
越智屋ノマ
恋愛
「君を愛することはない」で始まった不遇な結婚――。
国王の命令でクラーヴァル公爵家へと嫁いだ伯爵令嬢ヴィオラ。しかし夫のルシウスに愛されることはなく、毎日つらい仕打ちを受けていた。
孤独に耐えるヴィオラにとって唯一の救いは、護衛騎士エデン・アーヴィスと過ごした日々の思い出だった。エデンは強くて誠実で、いつもヴィオラを守ってくれた……でも、彼はもういない。この国を襲った『災禍の竜』と相打ちになって、3年前に戦死してしまったのだから。
ある日、参加した夜会の席でヴィオラは窮地に立たされる。その夜会は夫の愛人が主催するもので、夫と結託してヴィオラを陥れようとしていたのだ。誰に救いを求めることもできず、絶体絶命の彼女を救ったのは――?
(……私の体が、勝手に動いている!?)
「地獄で悔いろ、下郎が。このエデン・アーヴィスの目の黒いうちは、ヴィオラ様に指一本触れさせはしない!」
死んだはずのエデンの魂が、ヴィオラの体に乗り移っていた!?
――これは、望まぬ結婚をさせられた伯爵令嬢ヴィオラと、死んだはずの護衛騎士エデンのふしぎな恋の物語。理不尽な夫になんて、もう絶対に負けません!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる