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其之八 ルディコ、十四歳
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ルディコ、十四歳――女の子の成長は早いというが、この歳で、ここまでの気品が漂うものだろうか。
誰もが目を奪われる程に、気高く、高貴な雰囲気に満ち溢れている。
御伽噺のお姫様がそのまま現世に召されたような、いや、それ以上の存在をも思わせる。
それは、嘗ての親しみを通り越して、森の者たちを少なからず動揺させた。
何故、こんなにも、人間のようなのだ、と。
明らかにエルフ離れした顔立ち、その匂い、精気もまるで違う者のように感じられた。
森の間で密かに囁かれ始めた、あの子は、人間の子なのではないか――。
十四歳になっても、ルディコの性格は男の子のようだった。
さすがに力では男の子に敵わないらしく、泣いて帰ってくることもしばしばあった。
その悔しさからか、技術のいる遊びにはとても熱心だった。
木剣を使った決闘では、もはや負けなしだった。どんなに怪力な男の子でも、スピードと技に長けたルディコには敵わず、あいつは蛇だ、と、「蛇女」というあだ名をつけられていた。
「ふっふっふ、この私に剣で敵う相手なんて、いないのよ!」
「くそ、こいつ、剣はかなりの腕だからな、蛇みたいに素早いしよ」
「だから、こいつは蛇女だろ!」
「なんですって!」
「逃げろ! 蛇女! 蛇女!」
「こら、待ちなさいよ!」
走り抜ける森の中で、膨よかで温和なオバサンとすれ違った。面倒見が良くて評判だ。
「森の奥の方まで行くんじゃないよ! まったく、元気な子らだねえ」
「うん、分かってる!」
密林の森といえども、隅々まで木々が生い茂っているわけではない。小さな空き地ほどの開けた場所も幾らか点在する。
そこは、枝や草木が密に絡み合い、その様子は子どもたちにとってはまさに秘密基地であった。格好の遊び場となっている。
「剣士ルディコよ、今日こそは勝たせてもらうぞ」
「望むところよ、アルバニスタ、さあ、来なさい、それとも、私から?」
「ま、待て、やっぱりこうしよう、悪の剣士ルディコが城に攻め入るという設定に変えよう」
「なんで私が悪の剣士なのよ! 斬るわよ!」
「わ、分かった、聖騎士ルディコが悪魔城に攻めることにしよう、い、いいよな? ガウタ、ザルケン、ポグロ」
「チェッ、しょうがねーな」
「まあ、四対一なら、勝てるしな」
「あ、そうよ、四対一なんてズルじゃない!」
「うるせえ! 悪魔が卑怯なことして、何が悪い! みんな、一斉に掛かれええええっ!」
「うおおおおっ!」
次々と襲い掛かってくる四人の攻撃を、ルディコはいとも簡単に退けた。
この四人の動きが悪いのではない、ルディコの運動神経がずば抜けて良いのだ。
だが、多勢に無勢、そう綺麗に全てを退けられるわけではない。
「あー痛っ! やったわね、ポグロ!」
「よし! 一撃やってやったぞ、一気に掛かれ!」
「ここはひとまず、退いて……」
ルディコは後ろに跳ね飛び、頭上にあった太い枝から猿のように伝わって森の奥へと入っていった。
慌てて四人も後を追う。
普段、森の中で遊んでいるだけあって、子どもたちはひょいひょいと木から木へと飛び跳ねていく。
いつの間にか、見慣れぬ場所まで来てしまったことに、ルディコは気がついた。
こんなことは子供たちにとっては日常茶飯事だ。特にうろたえることもなく、ルディコもまた同じであった。
「この辺り、見たことないわね、どこかしら、ちょっと遠くに来過ぎたかな……それにしても、四人もいるくせに、まだ追いつかないのかしら」
ルディコは木に寄り掛かりながら四人を待った。
ルディコは欠伸をした。
気持ちがいい……ふわふわする。
ルディコは目を閉じた。
なんだろう、この感じ……暖かいなあ。
ルディコは微睡みに身を委ねて、眠り込んでしまった。
誰もが目を奪われる程に、気高く、高貴な雰囲気に満ち溢れている。
御伽噺のお姫様がそのまま現世に召されたような、いや、それ以上の存在をも思わせる。
それは、嘗ての親しみを通り越して、森の者たちを少なからず動揺させた。
何故、こんなにも、人間のようなのだ、と。
明らかにエルフ離れした顔立ち、その匂い、精気もまるで違う者のように感じられた。
森の間で密かに囁かれ始めた、あの子は、人間の子なのではないか――。
十四歳になっても、ルディコの性格は男の子のようだった。
さすがに力では男の子に敵わないらしく、泣いて帰ってくることもしばしばあった。
その悔しさからか、技術のいる遊びにはとても熱心だった。
木剣を使った決闘では、もはや負けなしだった。どんなに怪力な男の子でも、スピードと技に長けたルディコには敵わず、あいつは蛇だ、と、「蛇女」というあだ名をつけられていた。
「ふっふっふ、この私に剣で敵う相手なんて、いないのよ!」
「くそ、こいつ、剣はかなりの腕だからな、蛇みたいに素早いしよ」
「だから、こいつは蛇女だろ!」
「なんですって!」
「逃げろ! 蛇女! 蛇女!」
「こら、待ちなさいよ!」
走り抜ける森の中で、膨よかで温和なオバサンとすれ違った。面倒見が良くて評判だ。
「森の奥の方まで行くんじゃないよ! まったく、元気な子らだねえ」
「うん、分かってる!」
密林の森といえども、隅々まで木々が生い茂っているわけではない。小さな空き地ほどの開けた場所も幾らか点在する。
そこは、枝や草木が密に絡み合い、その様子は子どもたちにとってはまさに秘密基地であった。格好の遊び場となっている。
「剣士ルディコよ、今日こそは勝たせてもらうぞ」
「望むところよ、アルバニスタ、さあ、来なさい、それとも、私から?」
「ま、待て、やっぱりこうしよう、悪の剣士ルディコが城に攻め入るという設定に変えよう」
「なんで私が悪の剣士なのよ! 斬るわよ!」
「わ、分かった、聖騎士ルディコが悪魔城に攻めることにしよう、い、いいよな? ガウタ、ザルケン、ポグロ」
「チェッ、しょうがねーな」
「まあ、四対一なら、勝てるしな」
「あ、そうよ、四対一なんてズルじゃない!」
「うるせえ! 悪魔が卑怯なことして、何が悪い! みんな、一斉に掛かれええええっ!」
「うおおおおっ!」
次々と襲い掛かってくる四人の攻撃を、ルディコはいとも簡単に退けた。
この四人の動きが悪いのではない、ルディコの運動神経がずば抜けて良いのだ。
だが、多勢に無勢、そう綺麗に全てを退けられるわけではない。
「あー痛っ! やったわね、ポグロ!」
「よし! 一撃やってやったぞ、一気に掛かれ!」
「ここはひとまず、退いて……」
ルディコは後ろに跳ね飛び、頭上にあった太い枝から猿のように伝わって森の奥へと入っていった。
慌てて四人も後を追う。
普段、森の中で遊んでいるだけあって、子どもたちはひょいひょいと木から木へと飛び跳ねていく。
いつの間にか、見慣れぬ場所まで来てしまったことに、ルディコは気がついた。
こんなことは子供たちにとっては日常茶飯事だ。特にうろたえることもなく、ルディコもまた同じであった。
「この辺り、見たことないわね、どこかしら、ちょっと遠くに来過ぎたかな……それにしても、四人もいるくせに、まだ追いつかないのかしら」
ルディコは木に寄り掛かりながら四人を待った。
ルディコは欠伸をした。
気持ちがいい……ふわふわする。
ルディコは目を閉じた。
なんだろう、この感じ……暖かいなあ。
ルディコは微睡みに身を委ねて、眠り込んでしまった。
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