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其之七 ルディコ、十歳

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 ルディコは十歳になっていた。
 ダルは、毎日が穏やかではなかった。
 ルディコのその顔立ちと容姿は、どことなく気高く、気品があり、貴族の令嬢であると紹介されても、違和感を覚えないほどのものであった。母から受け継いだ銀色の長髪が、より一層にルディコの魅力を際立たせた。
 だが、まるで、いや、ほぼ、その姿は、人間、そのものであった。
 耳の変形だけではない。顔立ちも、雰囲気も、精気も、純粋なウッドエルフには持ち得ない、別の何かを孕んでいた。
 母親の面影はある、だが、父親の面影は皆無だった。
 森の者には評判が良かった。
 天使だ、女神だ、神の子だと、未だにお婆の奇跡だと、飽きもせず、来る日も来る日も、もてはやす。
 そのことが、ダルを心の呪縛に追い込んだ。
 一年ほど前から、ダルは食事をほとんど摂らなくなっていた。体重も半分近くになってしまい、人並みの生活ができなくなった。ほとんど寝たきりの状態だった。
 だが、ルディコの前ではダルは嘘をついた。外で一緒に遊んでやっていた。
「あなた、無理しないで……」
「大丈夫だ……まだ、大丈夫……動けるうちは、遊んでやりたいんだ」
 ルディコはその容姿とは裏腹に、生傷の絶えない、かなり活発な少女だった。
 いつの頃からか男の子とばかり遊ぶようになり、木登りや、棒切れでの決闘、取っ組み合いの喧嘩も日常茶飯事だった。
 ダルもエリザも初めは戸惑ったが、女の子らしくないのも、それはそれで楽しい日々だった。
「お父さん、無理ならいいよ、やっぱり友達と遊ぶから」
 そう告げると、ルディコはぴゅんっと走り去ってしまった。
「はあ……」
 ダルは同時に虚しかった。
 いつから、こんなになってしまったのか。
 何故だ、一体、何故なんだ……。
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