自然と世界は廻る

已己已巳己

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第二十七話 時を超えた絆

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~宿屋~
宿主 どうも、遠いところからよくいらっしゃいましたね。ここの宿主をやらせてもらってますぅ。
 宿屋についた8人は、落ち着いた宿主さんと出会った。
桜木 数日間、お世話になります。
宿主 正直、私の宿に宿泊者なんて、もう2度とこないものだと思っていたわ。だから、最後のお客さんとして、ゆっくりしていってくださいねー。
葉月 ありがとうございます!
相馬 じゃあさっそく部屋行こうぜー!
錫谷 そう言えば、部屋割りってどうなってるんですか?
村の人 もちろん、それぞれが好きな部屋を使っていいわよ。
 その言葉を聞いたその時、瞬く間に瞬太はどこかに消えていった。
百鬼 やったー!!じゃあ私こっち行くねー!
萩原 私も急がなきゃ!!いいとこ見つけないとー!!
岩田 あんまはしゃぎすぎるなよー。
灰白 俺は彩里の行った上の階に行っちゃおーっと!
岩田 じゃあ一緒に行くかー。
桜木 …
 全員がそれぞれ行動をしていく中、鈴音はその場所へ1人留まった。
宿主 おや、どうしたんだい?
桜木 1つ、聞きたいことがあったのですけど、いいですか?
宿主 おお、どうしたんだい?
桜木 1対1になってからでなんなのですが、どうして私達を無料で泊めてくれたんですか。
宿主 そりゃあ、最後のお客様へのサービスに決まっているでしょう。私も老い先短いし、そんなに食料に困ってないからね…
 その謙虚な言葉とは裏腹に、やせ細った体から放たれる弱弱しい一言一言が、鈴音の心には深く響いていた。
桜井 …本当は、この宿屋を栄えさせたい気持ちが残っているんじゃないんですか。
宿主 そうね…できるなら、そうしていたものよ。でもね、客足を呼ぶのはもう奇跡が起きない限りないのよ。あなたたちのような旅人がこれから先に現れることは限りなくゼロに近いわ。少なくとも私が生きている間ならなおさらね。
桜木 …
宿主 あなたは優しい子なのはすぐにわかるわ。きっと何かできることを頼みに来たのでしょう。
桜木 …!
宿主 いいのよ。ここも戦争が起きるよりも昔には、よく名を馳せていた有名な宿屋だったのよ?当時の私には十分すぎるほどの名誉をもらえたわ。
 宿主の放った言葉は思い出にひたったなつかしさの中に、どこか悲しく聞こえた。
桜木 できればもう1度だけ、かつてのような盛況せいきょうぶりが見られたらよかったのだけれどね…
宿主 …!?
桜木 あなたは自分をさげすもうとする人なのは、これまでの話ですぐにわかりました。…今言った言葉、当たりですよね。
 キョトンとする宿主に向けて、鈴音はさきほど自分にやられたように、宿主に向けてそう言った。
宿主 …お名前を聞いてもいい?あなたとは仲良くできそうね。
桜木 桜木鈴音といいます。私からは、宿主さんとそのまま呼んでもいいですか?
宿主 構わないわ。おそらくだけど、私の人生で最後の友達はあなたかもしれないわね。
 宿主は自分を残して先だったかつての仲間と重ねるように鈴音を見て、優しく微笑んだ。
桜木 させませんよ。友達の悩みは解決するのが友達の使命ですからね!
宿主 …!

((宿主 速く立って!!
??? ごめん、完全に足がやられちゃった。これは、もう無理…だから、あなただけでも逃げて頂戴。
宿主 そんな諦めたような口調やめて!
??? 思い出話なんてものをしてる暇はないけど…
宿主 聞いてるの!?
??? ねえ聞いて?
宿主 …!?
??? 私のたった1人の仲間であり、一生の友達よ。
宿主 何それ変!やめて!
??? だからこんな私からの最後のお願いを聞いて?
宿主 違う…最後とか…
??? 私のことを見捨ててほしい。
宿主 …!!!
??? これがね、最後の、私からの使命よ。そうね…あなたさえ逃げ切ってくれれば、この使命は終了することにするわ。
宿主 こんなときまで、そうやって使命がどうのって…
??? えへへ、友達の最後の悩みは、解決してくれな!ほら行った行った!
宿主 (15年ほど前、全人類をおびやかす事態にまで規模が拡大した大戦争の僻地へきちでは、何の罪のない命が知らずに散っていく。私の唯一の仲間であり、友達と呼べる彼女は、約束事が大好きだった。そんな友達の最後の頼み事は、私がこの戦争から生き残ることだった。私は笑顔の友達にいつのまにか背を向け、そこから振り返ることなく走り去っていた。そのあと、私の姿が見えなくなっていく様を、笑顔で見送った彼女にはどのような仕打ちが待ち受けていたのだろうか。今でも考えるだけで精神がおかしくなりそうになる。でも、あの時見送ってくれた彼女の笑顔は、今こうして生きている私に、生きている意味を与えてくれる。私にとって彼女とは、軸であり、不可欠な存在だったのだ。)))

宿主 …そうだね。そうだったね。
 その時、忘れてかけていたかつての仲間から発せられた言葉を、宿主は鈴音に思い出してもらった。
桜木 …?
宿主 1つお願いしてもいい?
桜木 なんでしょうか。
宿主 どうしても、あなたを子供として見れないの。だから、もしよかったら、あなたも、鈴音も。敬語をやめて話してほしいの。おこがましいけれど…
桜木 分かった。
 何かを理解した鈴音は、戸惑うことなくそういった。
宿主 …!
桜木 じゃあ、私たちは今日から立派な友達ね!
宿主 …!!ええ!
桜木 それじゃあ…
宿主 ?
桜木 友達として、一肌脱ぎましょうか!ってことで…
宿主 どういうこと…?
桜木 ここの宿屋を私が再び盛況させることを誓うわ。
宿主 でも、いったいどうやって…
 鈴音から突如として言われた言葉に、宿主は驚きが隠せなかった。
桜木 もちろんすぐにできることじゃないけど、大前提として私たちは旅人よ?これから先訪れる様々な場所でこの町と、この宿の魅力を広めてくるわ。そうすれば少しずつできることも増えてくるはずよ!
宿主 鈴音…
桜木 経営については、ノウハウは持っているのでしょう?なら大丈夫よ!あなたのできない部分を、私が足になって補うわ!
宿主 本当に、ありがとう…
 ほぼ初対面の鈴音にこれほどまでにないほどをしてもらい、宿主は感謝の言葉以外の言葉が見つからなかった。
桜木 そのためには、私も頑張らなきゃだね!
宿主 鈴音にできないことがもしあるのなら、私にできることをすべて使ってあなたを助けたいわ。
桜木 じゃあ、その時はよろしくね。
宿主 ええ、約束ね。
 こうして2人は、初対面にして約束を誓った。
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