ヤンデレ姫と一途な星

七井 望月

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死に神

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 ……もし、幽霊や妖怪等といった物の怪の類がこの世の何処かに潜んで要るかも知れないのならば、人々が盲信する神という存在もまた、この世の何処かに潜伏しているのかも知れない。

 ……俺はふと考えていた。とある日の深夜丑三つ時、物の怪やUMAに心底怯えた、有栖と出会った日の時の事を。

 突如としてそいつは俺の家に現れ、そして消えた。金髪碧眼のフランス人形の霊、所謂ポルターガイストだと俺は疑っていたのだが、実際の所その正体は人畜無害な可憐な少女であった。

 とはいえ、住居浸入罪のストーカーだ。いくら見てくれの良い美人だからといって、第一印象は最悪だった。

 こいつとは絶対に分かり合えないだろう。そう当初の俺は思っていた。

 だが、意外も意外。俺は有栖と共に日々を過ごしていく中で、何時しか彼女にだんだんと心惹かれる様になっていったのだ!

 ……これはもしや運命の相手というヤツでは無いのか?

 珍妙な二人の馴れ初めはもしかして神様が暇潰しの悪戯で、赤い糸を俺達にくくりつけたのが原因なのでは無いか。神様も、ありふれた王道ラブコメディにはもう飽きたのかもしれない。

 メイド・イン・神!!これからも続く、俺と有栖のラブロマンス。Forever,そう、永遠に、永久に……

「……なんてな」

 ……と、夢見る乙女も鼻で笑うような、有りもしないようなどうでも良い事を考えながら、俺は家の玄関で彼女の支度が終わるのを待っていた。

 彼女は儀式の様に箪笥の開け閉めを繰り返したり、四つん這いになって机の下を覗いたりと、何やら探し物をしている様子だった。

「……あっれー?可笑しいな。昨日の宿題、しっかりとファイルに入れておいた筈なのに……」

 ……どうやら先日出された宿題のプリントを探しているらしい。

 彼女は血眼になってテレビの裏やソファーの下、最早紙類が有る筈の無い風呂場まで徹底的に探し回り、早朝登校前にも関わらず額に汗を滴らせていた。

「……別に無理に探さなくてもいいんじゃないのか?」

「ダメよ!せっかくの昨晩の努力が全ておじゃんになっちゃうじゃない!出来る限りに、時間の許す限りに、ギリギリまで探すわッ……!」

 柄にも無く、有栖は眼を見開いて、鼠を追い掛ける飢えたアメリカンショートヘアの如く部屋を駆け回る。つーかいつの間にか当たり前の様に家に居るなコイツ。

 そんな有栖はうーうーと唸りながら一頻り部屋を物色した後、溜め息を一つ吐いて俺の方へ向き直って言った。

「……星くん、私のせいで遅刻したら申し訳ないから、先に学校行ってていいよ。大丈夫、直ぐに追い付くから!」

「……そうか?ならそうするよ」

 ……死にそうな台詞を吐きながらに、サムズアップをこちらに向けるイエネコ有栖。

 ……殆んど関係はないが、背景に溶鉱炉の景色が一瞬フラッシュバックして見えた。

「……じゃあ、行ってくるよ。遅刻するなよ?」

「うん!分かった!行ってらっしゃい♪」

「……ああ、いってきます」



 ※




 ……行ってらっしゃいと、出宅の際に言われる朝の、何と気持ちの良いことか。

 毎度、俺と彼女は二人揃って通学している為、お互いに“行ってきます”“行ってらっしゃい”と言葉を投げ掛けられることが無い。

 なので有栖の“行ってらっしゃい”は凄まじく新鮮。初競りのマグロくらいに新鮮だった。

「……行ってらっしゃい、か……」

 俺はそんな新婚夫婦の様な感慨を胸に、いつも以上に清々しい風を一身に浴びながら、俺はいつもとはうって変わって見える通学路を一人歩いていた。

 ……そんな時だった。

「……あの、ちょっといいかな?」

「ん?」

 突如背後から投げ掛けられた声。

 ……俺が声が聞こえた方へと振り替えると、そこに居たのはクラスで一度は見かけたことがある、スクールカースト中位くらいの若干地味目の女子生徒だった。

 地味な女子生徒は両手の指を絡ませて上目遣いでこちらを見る。もじもじと体を捩らせて、とても緊張している様子だ。

「……何か用か?」

「……少し、話があるんだ。あの子、黒薔薇有栖ちゃんの事」

 名前も知らない女子生徒だ。無論、話したことも無い。そんな彼女に声を掛けられ、若干緊張しながら俺は彼女の話に受け答える。

「……黒薔薇有栖が、どうしたんだ?」

「……う、うん。それがね、……ちょっと言いにくいんだけど……」

「……?」

 彼女は何に怯えているのか、まるで断崖絶壁に立っているかの如く恐怖で震えながら、酷く掠れた声で言った。

 コイツの目には死神や背後霊でも写っているのか?……少し、気味が悪いな。

 常軌を逸した驚愕ぶりに俺が圧倒されていると、彼女は震えた唇からふっと声を吐いた。

「……えと、その……黒薔薇有栖ちゃんとは、別れたほうが良いって話で……」


「…………は?」


 ……いきなり何を言い出すんだコイツは。

 俺は怒りに満ちた低い声を口から吐き出すと、彼女は狼狽え、か細い悲鳴を上げた。

「……何ふざけた事抜かしてんだ?」

「え、いや、違くてっ、彼女は、余り良い噂を聞かないっていうか、だから付き合うのは止めたほうが良いっていうか……」

 彼女は銃口を額に向けられている訳でもないのに、今でも卒倒してしまいそうな程青ざめていた。

 ……何なんだコイツは本当に、誰かに脅されでもしているのか?

 ……毒気が抜かれる。これじゃあ俺が悪いみたいじゃないか。

「……もういい、面倒臭い。お前が何と言おうが俺には関係無いし、有栖と別れるつもりもない。二度と俺達の関係に口出しするな」

「……い、いやっ……ちょっと、待ってください!」

「……なんだよ」

「…………いや……や、やっぱり……何でも、無いです……」

「……ならもう話しかけるな」

 ……終始、魑魅魍魎の類と相対したかの如く恐れ戦く彼女に、俺は言葉を投げ掛けこの場を立ち去る。



 ……あーあ、せっかくの気分の良い朝が台無しだ。




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