ヤンデレ姫と一途な星

七井 望月

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嘘つきは人間の始まり

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 ……まるでエンジェルフォールの様な機嫌の落差を体感した今日の朝。

 腹の虫はジェットコースターにでも乗っているのか、最高の一日になると得意になっていた矢先、通学路にて出会った一人の女子生徒によって俺の晴れ晴れ愉快な心意気は大地に強く叩き落とされてしまった。

 つまり本日は最低で不愉快で面白くない日だ。ちくしょう、呪ってやる。

 さらには出宅の際は有頂天だった事を考えるとなまじ趣味が悪い。まあ、誰が悪いわけでもないのだが、趣味が悪いとすれば神様だ。

 そういえば、今日の朝見たテレビの占いでは最下位だったな。関係ないけども。

 たとえ神がいたとしても占い師は信じない。本日のラッキーパーソンが金髪の美少女じゃ無かったからだ。

 ちなみに本日のラッキーパーソンは「嘘をついたことがない人」だった。

 ……いや、いねーわそんな奴、いたとしても赤子くらいだわ。人は物心と同時に人を騙す心を身に付けるんだよ。覚えとけ、馬鹿。

 ……と、俺がけたたましく心の中で絶叫をしていると、授業開始を知らせるチャイムもまたけたたましく鳴った。

「……はーい、それでは授業を始めます」

 チャイムと同時に、担当教師が気だるげに教科書を開く。

 ……ところで有栖はまだ学校へ来ていない。

 結局宿題は見つからなかったのか、彼女がアイルビーバックする事は無かった。残念ながら。

 俺は登校のみならず授業も俺一人で受けることになってしまった。まあ有栖とはクラスが違うしさしたる問題じゃ無いのだけれども。

 ただ休み時間は憂鬱だ。絶賛ぼっちで友達もいない。そんな俺にどうしろと言うのだ。

 一瞬が五億年にも感じる。胡散臭いボタンも押していないのにどうしてこんな目に遭わなきゃならんのだ。

 同情するなら金をくれ、100万円くれ。いや、1億だ。それなら異空間ワープの怪しいボタンを押すことも考えなくも無くも無くも無い。

 ……ただ、押すとは言ってない。




 ※




 ……もしも五億年ボタンに一つ条件を付け加えられるならどうすれば一番幸せか?という考察を俺は延々としていた。

 結局思い付いたのは好きなものを一つだけ異空間に持っていくことが出来るという陳腐な物だった。

 だが俺は“世界”を持っていくことに決めた。世界とは広い定義で銀河系も含めたこの世の全て。そうすれば五億年もの間死ぬことも老いることもなく人類の進化をこの目で見ることが出来る。

 新世界の神にでもなったような気分を味わえて、衣食住にも困らない、夢のような世界。逆に帰るのが嫌になりそうなのが欠点だ。

 ……まあ、結局全ては俺の妄想だけれど。

 ただ考えることは十二分の暇潰しになる。元々妄想癖というか思い込みの激しい俺にとって、自身の世界を造り上げることは最高の娯楽になり得るのだ。

 そんな訳で、家に帰ってから何をしようかと考え込む学校からの帰り道。……デジャヴというヤツか、もしくは第六感みたいなものが反応しているのか、どちらか定かではないが分かったのだ。

 ……後ろを振り返れば誰か居ることが。

「……何の用だ」

「ひっ!!」

「……お前かよ」

 ……俺が振り返ると、そこにいたのは今朝出会った女子生徒だった。相も変わらず化け物を見るような目で俺を見ている。おいおい、勘弁してくれ。

「……いい加減出会うたびに殺人気を見るような目で俺を見るのを止めてくれ。流石に傷つく」

「あっ!ごめんなさい」

「で、何だ?何か言いたいことがあったんじゃないのか?」

「あっ!そうですね」

 語頭にいちいち“あっ!”ってつけるのは何なんだ。小林製薬か。

「えっと、朝も言った通り有栖ちゃんと付き合うのは止めた方がいいって……」

「……またそれか。言っておくがお前らは有栖を誤解している。お前らが思ってるほど有栖は悪い奴じゃない。それは付き合ってる俺が一番分かっている事だ」

「うん、確かに有栖ちゃんはいい子だけど……」

「……?それなら何も問題無いじゃないか」

「え!ああ、うん。まあ、確かにそうなんだけど……」

「……?」

 要領を得ない彼女の受け答えに俺は疑心感を覚える。結局コイツは何がしたいのか。その真意が全くもって読めない。

「なあ、特に言いたいことが無いなら帰るぞ?俺だってそこまで暇じゃないんだ」

「え、いや……」

 煮え切らない態度の彼女に俺は痺れを切らし、一瞥して帰り道に踵を返そうとする。

 ただでさえ今日一日殆んど有栖と会ってないのだ。だったらこんなところで道草を食っている場合じゃない。

 有栖は何故学校に来なかったのか、ずっと家で何をしていたのか、その辺を問い詰めなければならない。早く家に帰ろう。

「ま、待って!!!!」

 刹那、彼女は今まで出したことが無かった程の大きな声を上げて俺を引き止めた。

「言いたいことがあるの!!有栖ちゃんとは付き合わない方がいいって理由!!嘘でも戯言でもない!!私、生まれてから一度も嘘をついたことが無いの!!」

「…………」

 彼女が知っている有栖の秘密。そして一度も嘘はついたことが無いという彼女の証言。

 ……絶対に嘘だ!!その証言がまず嘘!!そんな人間いる筈がない!!おべっかだってぶりっこだって嘘なのだから、まともな人間は誰だって嘘をつく。嘘をつかないことは人に媚び諂わない事。こんな臆病に出来る筈が無い。

 だが、“嘘をついたことがない”。その言葉に俺はどうにも思うところがあった。

 ……決して、朝の占いを信じたわけではない。断じて、絶対に、無い。

「まあ、いいよ。少し話聞く位なら全然。帰ってすることも多くないし」

「本当ですか!!」

 ……俺はただ、有栖の秘密ってヤツを知りたかっただけだ。




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