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まるでアダムとイヴみたいね
しおりを挟む……勉強をしていると、つくづく思う。
「……作者の気持ちなんて、分かるわけねーじゃん」
さんざっぱら長ったらしい長文をつらつらと読まされた挙げ句、読心術をしろ!だなんて、何て無理難題をだしやがる。こんなサイコパス診断ならぬサイコメトラー診断、解けようはずがない。
元はといえばこの問題形式は、憲法や民法といった法の解釈を子供向けに落としこんだものだという説があるが、作者の気持ちが分かったところで法が分かるか?いや、分からない。
むしろ弁護士なんて人の心を持ってない奴ばかりであって(偏見)、やはり『作者の心情として正しいものを選べ』なんて問題は無駄なのだ。
こんな問題は超能力学科の大問1で出されるべきであって、義務教育、ひいては高等教育で出されるべき問題ではない。……学校教育が超能力者でも生み出そうとしているのでなければ。
「……本当に、心が読めるならそれより楽な事は無いんだけどな」
……俺がそんな魔法じみた心情を述べていると、部屋の扉がコン、コン、コン、コン、と、4回鳴った。
……それだけで、俺はいつもとは違う来客が来たということを悟る。
海外では格式高い場では4回のノックを行う事が多いという。3回だと一般的なノック、2回だとトイレのノックといった具合でランク分けがなされている。
しかし日本では4回のノックは死を連想するためまず使わない。つまり、自然なノックが四つ打ちなのは海外で過ごす格式の高い人物であり……
「……何の用だ、」
「ピンポーン!ご名答。流石、天才(笑)」
「……茶化すな」
現れたのは予想通り、元海外勤務のサイエンティスト、芳山理子で、理子は俺の呼び掛けに扉を開けて答える。
「おやおや相変わらず勉強なんてして、自分を磨き上げるのは大層な事だけど、私はすっかりしっぽり自分を慰めているものだとばかり……」
「……ところでお前、テストの件はどうなったんだよ」
こんな夜更けにいきなり凸って来た理子に俺は苛立ちを覚えるも、理子とは今日のテストの一件以来だ。
こんな常識外れな時間にやって来たのも、緊急を要する報告があるからだろうと俺は納得し、理子に話の続きを急かす。
「……そんなことよりさ、種の起源って何だと思う?」
「…………は?」
しかし理子の口から出たのはそんなすっとんきょうな一言で、虚をつかれた俺は一瞬宇宙に放り出されたかの様な放心状態であったが、直後に怒りが湧いてきた。
「お前、こんな時間に来たと思ったらいきなり何だ?ふざけるならとっとと帰れ。……俺とお前はまだ決着がついていない。お前の結果が出るまで俺達は敵同士だ」
俺は敵愾心をむき出しに理子を追い出そうと冷たい言葉をかける。
俺は理子から完全にそっぽを向き、改めて勉強机に向き直った。
対して理子はフッと鼻を鳴らした。
「そんな釣れない事言わないでよ。さっきの話の続き。私達はさ、元々一つだったのよ。一つの種から生まれたの。それが「種の起源」。なのにどうして、近親姦では劣勢遺伝が現れやすいのかしらね?」
「それは進化の過程で身に付けたものだろ。近親相姦を繰り返すと遺伝子の多様性が失われていくから、遺伝子の自然淘汰に会いやすくなる。だからその対抗策として近親相姦に対するペナルティを進化の過程で身に付けた」
「それでもさ、人間が元々一つの種であった以上、どうしても何処で遺伝子の劣化が起きているわよね。……だから、もう一度始めましょうよ、天才の貴方と、私で。まるでアダムとイヴみたいに」
「……おい、論点がすり変わってるぞ。だいたいお前は何しに来た……」
……そう言い、俺が振り替えると、理子は一糸纏わぬ、生まれたままの姿でそこに立っていた。
「お、おい!何の冗談だよッ!」
慌てて俺は視線を逸らす。熱を帯びた下半身を押さえつけようと必死こいて前のめりになりながら。
「あらあら、どうしたのかしら。はーちゃん」
「お前……こっちの台詞だよ。こんな夜中に、夜這いでもしに来たってのかよ」
「あれ?聞いてなかったのかしら。アダムとイヴになるのよ、これから」
「全くもって意味が分からねぇっての!」
今にも鼻血が吹き出しそうなくらいに顔に熱がこもる。すると理子は俺の体にその柔肌を密着させて、横から少し火照った妖艶な顔を覗かせる。やべぇ、ちょっと出た。
「ねぇ、例えばの話。公園でよく遊んでいるような小さな男の子が、次の日急に大人の男性になっていたら、貴方だったら恋をする?例えそれが許されない恋だったとしても」
「……は?さっきから一体何の話をしてるんだ……」
「……分かった、もういいわ。……しよう」
そう言い、理子は俺を後ろから抱きしめ、椅子と俺をひっぺがす。
「おい!待てッ……!」
「そこまでですッ!!!」
……突如、部屋に声高々と響いた荘厳な声。
その声の主は颯爽と俺と理子の間に入って言葉を続ける。
「……私は彼、妙本箱根くんのガールフレンドですッ!!貴女に、ダーリンは絶対に渡しませんッ!!!」
……言問文夏が、耳を真っ赤にしながらそう声高に宣言した。
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