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第2話 コンビニエンスソード!!
しおりを挟む「さっさと金を出せ。ーーさもないと刺すぞ」
ーー初めてやってきた客は包丁片手に金を集ろうとするクソヤロウことコンビニ強盗だった。ーーそんなに欲しけりゃくれてやるよ、ペイントボール、バーン!!
ーーなんて出来れば良いんだけどね。俺にはそんな勇気はないからやらないけども。
さて、どうしよう。
のっけからこんな目に合うとは、俺の不運も捨てたもんじゃない。いや、捨ててしまえそんなもの。
コンビニでバイトを初めて最初に現れた客がコンビニ強盗って、どれほどの不運だ。俺は上◯当麻じゃないぞ。
しかしそんな事を考えている暇は無い。相手は刃物を持っている。怒らせたりしたらザクッといかれてしまうかもしれない。
ーー確か岩隈さん曰く、強盗が来たときは「適当にお金渡して、そっから警察に連絡すれば良いんじゃない?」とのことだった。それと「扉に描かれたラインと身長を見比べて、履いてる靴を覚えておくと犯人を捕まえやすいって店長が言ってた。知らないけど」らしい。ありがとう岩隈さん、そしてまだ見ぬ店長。
「おい、早くしろ」
強盗犯は低い声で脅し文句を口にする。俺はマニュアル通りレジから一万円札を数枚引き抜いて強盗犯に手渡す。
「ーーど、どうぞ」
これで帰ってくれれば嬉しいんだがーー、
コンビニ強盗の殆どは生活に困窮している中高年代の人らしく、刑務所の方が衣食住が整っているから逮捕されて快適に暮らそうなんて考えの犯行が多いらしい。
この犯人もその内の一人であることを祈り札束に描かれた諭吉の言葉を思い出す。「天は人の上に人を造らず人の下に人を造らず」ーー本当にそんな世の中なら良いのにな。
「ーーこれで足りると思ってるのか?もっとあるだろう」
しかし強欲にも強盗犯はこれ以上を要求してきた。コンビニレジに入ってるお金なんてたかが知れてるだろうに、金が欲しいなら銀行を襲え。いや、襲えって言うのも可笑しな話だけどね。
「ーーあの、いくら払えばよろしいでしょうか?」
丁重に必要コストをディスカッションしてベストなパフォーマンスを発揮すべく、ーーつまりはいくら払えば満足するんだコノヤローってこと。
「100億円だ」
「ひゃ、100億ってーー」
馬ッ鹿じゃねぇの!!と言いかけて踏みとどまる。言ってたら逝ってただろう。お陀仏だ。
「ーー100億っていうのは、中々難しいと思うんですが」
というか相当無理な数字だ。コンビニレジから100億円がポンと出てくるわけねーだろ。銀行でも、そんなにあるか分からないのに。
「うるせぇ!さっさと出せ!!」
しかし強盗犯は聞く耳を持たない。さっさと100億円が出せるのはビル・ゲイツくらいだろうよ。ーーもうコイツには何を言っても無駄だろうという事を察した俺は適当に返事をすることにした。
「ーーじゃあレジのお金は好きに取って行って下さい。僕は奥の方にお金が無いか見てくるんで」
そう言って俺はレジ奥へ尻尾巻いて向かう。そしたら110番に電話して事なきを得よう。グッバイ強盗犯。
「おい待て」
しかし強盗犯に俺は手を掴まれた。ーーこれはマズイ。
相手は俺を掴んでいるのとは逆の手に包丁を持っており、包丁を持つ手をちょいと振り下ろせば俺の腕が鄭切られてしまうという位置関係が完成してしまった。
抵抗しなければ俺の腕は手羽先に仕上げられてしまう。非常にピンチだ。
「お前警察に連絡するつもりだろ?なめた真似してると本気で刺すぞ」
この強盗犯にもそこそこの知能はあったようで、逃げようとしていた俺の意図を読まれた。ーーどうしよう、危急存亡の秋だ。下手すれば死んでしまう危機的状況下、俺は強盗犯を追いやるべく何か武器になったりするものはないかと辺りを見渡す。
ーーふと視界に入ったのは煙草棚の下に掛けてあったコンビニくじの景品の女児向けアニメのやたらプリティな修飾が施されたマジックアイテム的な武器で、ーー使えるかは分からないが丁度良い場所にあるのはこのプラスチック剣くらいしかないので、俺はそれを手にとって強盗の手首をペチンと叩く。
「ていっ」
「ーーッァ!!テメェ!!」
意外にも結構なダメージが入ったようで強盗犯は掴んでいた俺の手を離した。ーー赤くなった手首をまるで猫を撫でるみたいに擦っているがそんなに痛かったのか?このプリティでキュアキュアなプラスチック剣が。
「野郎、ぶっ殺してやる!!!」
突如激昂したベ◯ットは包丁を握りしめて向かってくる。それを俺はプリキュア剣を構えて迎え撃つ姿勢を取る。
ーーどこで習ったかこの護身術、このプリティな剣は幸いにも強盗犯の持つ包丁よりリーチが長い。体重を乗せて襲いかかってくる強盗の攻撃を半身で避け、俺は両手に掴むプリティ剣を強盗犯に向け突き出してーー
ーー鳩尾を、一閃した。
「ぐほぉ!!」
強盗はタンを吐き出す爺さんみたいな苦しそうな音を口から発して悶絶した。ーー踞る強盗犯行が再度襲いかかってくる事の無いよう、俺はプリティ剣の鎬の部分でペチペチと叩いて止めを刺した。おんどりゃあ!!
「ーー畜生、覚えてやがれ」
驚く位ベッタベタな捨て台詞だな。ーーだが忘れることは無いだろうよ。なんせ始めての客がアンタだったんだから。それがこんなベッタベタなコンビニ強盗だったなんて話は後々の語り草になるだろう。俺の武勇伝のな。
ーーその後来た警察官によって男は無事連行されたのであった。めでたしめでたし。
◇◆◇
「ーーはぁ、随分あっさりしてるっスね」
「そ、そうですかね?」
現在俺はコンビニ店内のバックヤードにて磯城と名乗る女性警察官から事情聴取を受けている最中である。事実をありのまま伝えたと思うのだが、何がいけなかったのだろうか。
「凶器を持った強盗犯をプラスチック剣でワンパンって、それマジすか?何か良いカッコしようとしてません?」
「いやいや、そんな事無いです。マジで」
「マジすか?」
「マジっす」
磯城さんはジトーっとした目でこちらを見つめる。疑いの目付きのまま顔を近付けて、ーー机に突っ伏し前傾姿勢になるとその胸の大きさがよく分かるな、机とぶつかり潰れた乳が妙にHだ。なんて雑念だらけの俺の頭の中を覗きこむように目を凝らしている。
吸い込むような隻眼とコントラストの緑の髪の、ミステリアスな雰囲気の女性である。年齢は恐らく俺より2、3個上で岩隈さんと同じくらいだろうか、随分と大人びた印象を受ける。
「ーーそうすか。それじゃあ質問は以上ッス、お疲れさまッした」
「は、はい。ありがとうございました」
磯城さんは調書を脇に挟んで伸びをし、ーー胸が揺れ、立ち上がり様にこちらへ会釈をして扉の方へ向かう。
「うおっ!?」
ーー磯城さんが調度ドアノブに手を掛けようと手を伸ばしたタイミングで、バックヤードの外から扉が開かれた。ーーそこにいたのは茶髪のチャラ男のバイトリーダー、岩隈さんだった。
二人はじっと目を合わせる。磯城さんの表情はこちらからは伺えないが岩隈さんは相当驚いているように見えた。
「ーーお勤めご苦労様ですお巡りさん。もうお帰りで?」
「ーーはい、こちらこそご協力感謝ッス」
他愛もないそんな会話を二人は交わすと、ペコリとお辞儀しせっせとすれ違い去っていく。磯城さんの後ろ姿を岩隈さんは眺めつつ、なにやらニマニマとしていたが、こちらへ振り返って放った第一声でその訳はすぐに分かった。
「ーーさっきの娘、めちゃくちゃ美人じゃ無かった?」
ーーはい、すごく分かります。
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