36 / 50
第三章 馬鹿王子、師を得る
第36話 馬鹿王子、師を得る その八
しおりを挟む
ソレルフィールドの村は、ファルナから北へ徒歩で半日ほどの距離にある。
ケビンたち衛兵隊の面々と、スティーブと伯爵家配下の騎士たちは馬に跨り、グラハムさん、ベルナーさんらファルナの冒険者たちは徒歩で、目的地へと向かう。
もちろん僕とレニーも徒歩だ。ケビンは申し訳なさそうな表情を浮かべていたが、今の僕は一介の冒険者だからな。
ケビンの部下である衛兵たちの中にも、見知った顔は少なくないが、おそらくケビンが口止めしてくれているのだろう。全員知らないふりをしてくれている。
伯爵家の騎士たちも十人あまり。
王都の衛兵ほど練度は高くなさそうだが、戦力としてまったくあてにできないということはないだろう。
そして、ファルナの町の冒険者たち。
一応、ファルナ伯からギルドを通じての正式な依頼という形になっているのだそうだ。
ベルナーさんがグラハムさんにだいぶ礼を言っていたようだが、彼がスティーブかあるいは伯爵本人に働きかけたということなのだろうか。
やはりなかなかの影響力を持っているようだ。
メンバーは、グラハムさんとベルナーさん、それにベテランの戦士が二人。
それにグラハムさんの奥さんのデボラさんも、治癒術士として参加している。
あと、マークとバネッサもついて来ているが、さすがにグラハムさんも、彼らに危険な役割を担わせるつもりはないだろう。
そして、僕とレニーという顔ぶれだ。
建前上、今回の吸血鬼討伐は、伯爵家が主体ということになっているのだが、さてどんなものだろうか。
スティーブも一応王立魔法学校を卒業しているそうだが、マークの話を聞くに、貴族の子弟が箔付けのためだけに在籍・卒業したという典型例のようだ。
実際のところ、そういう輩は僕たちの同級生にも少なくなかったのだが。
あらためて考えてみると、フィリップは結構真面目に勉強していた部類なんだよな。
ただ、騎士たちのリーダー格らしいロイという男は、なかなか強そうだし、他の者たちからも信頼されている様子が窺える。
ソレルフィールドに到着した僕たちは、いきなり村人たちに取り囲まれた。
村の男たちが数人、スティーブに食ってかかる。
「旦那様がたを討伐するなど、冗談じゃない! あの方たちはこの村の守り神なのですよ!」
「そうだそうだ! 凶暴な魔物を退治してくださったことは数えきれないほどだし、この間だって、山賊どもにさらわれたうちの娘を助け出してくださったんだ!」
そのようなことを口々に訴える。
どうやら、吸血鬼は村人たちから「旦那様」、「奥様」と呼ばれているらしい。
「な、何なのだ、お前たちは! 邪魔立てするなら容赦はせんぞ!」
スティーブも頭に血が上っているようだ。
まずいな。このままだと流血沙汰になりかねないぞ。
「――聖なる光、悪しきを祓い穢れを清めよ。解呪光陣」
村人たちと、ついでにスティーブを、優しい光が包み込む。
魔法を唱えたのはデボラさんだ。
「な、何だこれ!?」「あ、でもなんかすっきりした気分」
「気分を落ち着かせる魔法です。少し冷静に話をしましょう」
しれっと言い放つデボラさん。
本当は悪しき呪縛を祓う魔法なんだけどな。さすがはグラハムさんの奥さん、なかなかにしたたか者のようだ。
「ぶ、無礼者! 俺まで巻き込みおって!」
「坊ちゃまも落ち着いてください。こんなところで人間同士争っていては、吸血鬼の思う壺ですよ」
「ぐっ……」
激高しかけたスティーブも、デボラさんに丸め込まれる。
すっとデボラさんの背後に回ったケビンに、窘めるような眼差しを向けられたせいもあるだろうが。
ついでに言うと、グラハムさんもさりげなく妻の側に寄り添っている。
「デボラさん、なかなかやるね。光魔法使いとしてはかなりのもんだよ」
レニーが感心している。
たしかに、術式の洗練度が高いな。たいしたものだ。
魔法使いと一口に言っても、それぞれ得手不得手はある。
ことに光魔法は、持って生まれた資質に左右される部分が大きいと言われており、レニーですらこの分野に限っては並みの神官と大差ない。正直、僕の方が少し上なくらいだ。
その一方で、リエッタのような天才も存在する。
それにしても……。
ソレルフィールドの村人たち、吸血鬼に魅了されて操られているわけではなく、本当に彼らのことを慕っているようだ。
「でもさ、あんたたちもその『旦那様』だっけ? そいつらに血を吸われているんじゃないの?」
バネッサが口を挟むと、男たちの背後に隠れるようにしていた若い娘が進み出た。
「何か勘違いされてるみたいだけど、血を吸われると言っても大したことじゃないよ。あたしも、八ツ目猪に襲われかけたところを旦那様に助けていただいて、お礼に血を差し上げたけど、ほら、牙の痕も残らないよう治してくださったし」
そう言って左腕を捲って見せる。
なるほど、確かに傷跡は残ってないな。
吸血鬼の闇魔法でも、光魔法と同じようなことができる、というのは初めて聞いたよ。
「お前たちは騙されているのだ! 平民どもは知らぬかもしれんが、吸血鬼というのはな、その昔、魔王メディアーチェの走狗として人々を苦しめたのだぞ!」
スティーブが説得を試みるが、村人たちは動じることなく反論してくる。
「いえいえ。旦那様方がおっしゃるには、あれは『夜を統べる者』とはまったくの別物で、魔王の操り人形だったんだそうですよ」
村人たちは、「吸血鬼」という言葉を絶対に口にしない。
「夜を統べる者」という彼らの自称を用いるのを徹底しているあたりにも、村人たちの心酔っぷりがよく表れている。
「な、何が『夜を統べる者』だ! 大体、領主である我が伯爵家を差し置いて、旦那様だの何だのと! 無礼にも程があろう!」
いかんな。スティーブのやつ、また頭に血が上ってきたようだ。
ケビンが間に入ろうとするも、伯爵家の騎士たちも動き出し、村人たちを威圧する。
結局、村長が村人たちを説得して、何とか解散してくれたのだが……。
「大丈夫だ、旦那様方がお強いのは皆知っているだろう、とか何とか言ってたよね」
彼らのひそひそ会話を風魔法で拾っていたレニーが呟く。
いや、さすがにこれだけの面子で不覚を取ることはないだろうが……。
どうも穏やかじゃないな。
正直なところ、僕も「善良な吸血鬼」なんていう話を信じる気にはなれない。
村人たちを助けているのは事実としても、それはあくまでも彼らを懐柔して盾とするためで、陰で悪事を働いているのではないか、という疑念はぬぐえない。
村人たちには悪いが、やはり討伐はやむを得ないだろう。
吸血鬼のねぐらは、ソレルフィールドの村外れにあった。
そのあたりには、さほどの広さではないものの森が広がっており、鬱蒼たる木立の中に少し足を踏み入れたところに、丸太を組み合わせた小屋が建っている。
そこに吸血鬼が棲みついたのがいつ頃のことなのか、もう知る人はいないという。
火炎魔法で小屋ごと焼き払ってしまおうか、などという案も出て、スティーブもその気になりかけていたようだが、ケビンが止めた。
「そりゃそうでしょ、中にいるのが吸血鬼だけだって断言できないもの」
レニーが呟く。
たしかに、やつらの餌として人間が連れ込まれている可能性もありえるのだが、ケビンとしてはむしろ、吸血鬼が火に巻かれたくらいでどうにかなるとは限らない、かえって炎に紛れて逃げられてしまうのではないか、ということを懸念しているようだ。
結局、話し合いの末に、突入部隊を編成して小屋に踏み込むことになった。
伯爵家からはリーダー格であるロイと他二名、衛兵隊からケビンの部下が二名、冒険者勢からはグラハムさんとベルナーさん。計七名が選ばれた。
うん、このメンバーなら、吸血鬼二体に後れを取ることはないだろうし、さほど大きくない小屋にこれ以上の人数は突入できないだろう。
スティーブは外で全体の指揮、という体裁だが、伯爵家配下の騎士たちも含め、誰も彼に期待はしていない。くれぐれも邪魔だけはしないでくれよ、という空気が漂っている。
実質的な指揮官はケビンで、後方支援向きの人材を各所に配置し、小屋を包囲する布陣を取った。
僕やレニーもその中に含まれており、小屋の正面、入り口が視認できる位置で、森の木に隠れて待機する。
小屋への侵入は、入り口の他に大きめの窓が一箇所。
他に小さな明り取りの窓も設けられているが、人が出入りするのは無理だ。
そして、突入部隊が小屋に踏み込み、五分ほどの時間が流れた。
おかしいな。誰一人出て来る様子がない。
事前の打ち合わせでは、万が一の場合は第二陣が突入することになっていたのだが、ケビンも明らかに様子がおかしいと判断したようだ。
彼自らが率いる第二陣、今回も七名が小屋に突入する。
そこからさらに五分。
やはり誰も出て来ない。
吸血鬼に返り討ちにされた? 一人残らず? いや、そんな馬鹿な!
「こら、止しなさい、マーク!」
デボラさんの悲壮な叫び声が響き渡る。
彼らは南に向いた窓の方で待機していたはずだが、あの馬鹿、小屋に飛び込むつもりか?
馬鹿! グラハムさんたちが返り討ちにされたのだとしたら、お前が行ってどうなるものでもないだろうが!
「馬鹿マーク! ちょっと待ちなさいよ!」
バネッサが慌てて追いかけるのが目に入った。
ええい、しょうのないやつらだな!
突入部隊計十四名をことごとく返り討ちにするような吸血鬼を倒すなんて不可能だろうけど、あの二人まで犠牲になってしまうのはなんとか回避したい。
僕もすぐさま駆け出したが、入り口から踏み込む寸前に、「ぎゃあ」というマークの苦鳴が聞こえてきた。
くそっ! なんてことだ!
バネッサはまだ無事だろうか。
小屋に踏み込み、そこで僕が目にしたものは、壁と言わず天井と言わず、いたるところを真紅に染めた血しぶきの痕。
累々と横たわる突入部隊の面々。
そして、血塗られたカタナを引っ提げて静かに佇む中年男――の姿をした吸血鬼だった。
ケビンたち衛兵隊の面々と、スティーブと伯爵家配下の騎士たちは馬に跨り、グラハムさん、ベルナーさんらファルナの冒険者たちは徒歩で、目的地へと向かう。
もちろん僕とレニーも徒歩だ。ケビンは申し訳なさそうな表情を浮かべていたが、今の僕は一介の冒険者だからな。
ケビンの部下である衛兵たちの中にも、見知った顔は少なくないが、おそらくケビンが口止めしてくれているのだろう。全員知らないふりをしてくれている。
伯爵家の騎士たちも十人あまり。
王都の衛兵ほど練度は高くなさそうだが、戦力としてまったくあてにできないということはないだろう。
そして、ファルナの町の冒険者たち。
一応、ファルナ伯からギルドを通じての正式な依頼という形になっているのだそうだ。
ベルナーさんがグラハムさんにだいぶ礼を言っていたようだが、彼がスティーブかあるいは伯爵本人に働きかけたということなのだろうか。
やはりなかなかの影響力を持っているようだ。
メンバーは、グラハムさんとベルナーさん、それにベテランの戦士が二人。
それにグラハムさんの奥さんのデボラさんも、治癒術士として参加している。
あと、マークとバネッサもついて来ているが、さすがにグラハムさんも、彼らに危険な役割を担わせるつもりはないだろう。
そして、僕とレニーという顔ぶれだ。
建前上、今回の吸血鬼討伐は、伯爵家が主体ということになっているのだが、さてどんなものだろうか。
スティーブも一応王立魔法学校を卒業しているそうだが、マークの話を聞くに、貴族の子弟が箔付けのためだけに在籍・卒業したという典型例のようだ。
実際のところ、そういう輩は僕たちの同級生にも少なくなかったのだが。
あらためて考えてみると、フィリップは結構真面目に勉強していた部類なんだよな。
ただ、騎士たちのリーダー格らしいロイという男は、なかなか強そうだし、他の者たちからも信頼されている様子が窺える。
ソレルフィールドに到着した僕たちは、いきなり村人たちに取り囲まれた。
村の男たちが数人、スティーブに食ってかかる。
「旦那様がたを討伐するなど、冗談じゃない! あの方たちはこの村の守り神なのですよ!」
「そうだそうだ! 凶暴な魔物を退治してくださったことは数えきれないほどだし、この間だって、山賊どもにさらわれたうちの娘を助け出してくださったんだ!」
そのようなことを口々に訴える。
どうやら、吸血鬼は村人たちから「旦那様」、「奥様」と呼ばれているらしい。
「な、何なのだ、お前たちは! 邪魔立てするなら容赦はせんぞ!」
スティーブも頭に血が上っているようだ。
まずいな。このままだと流血沙汰になりかねないぞ。
「――聖なる光、悪しきを祓い穢れを清めよ。解呪光陣」
村人たちと、ついでにスティーブを、優しい光が包み込む。
魔法を唱えたのはデボラさんだ。
「な、何だこれ!?」「あ、でもなんかすっきりした気分」
「気分を落ち着かせる魔法です。少し冷静に話をしましょう」
しれっと言い放つデボラさん。
本当は悪しき呪縛を祓う魔法なんだけどな。さすがはグラハムさんの奥さん、なかなかにしたたか者のようだ。
「ぶ、無礼者! 俺まで巻き込みおって!」
「坊ちゃまも落ち着いてください。こんなところで人間同士争っていては、吸血鬼の思う壺ですよ」
「ぐっ……」
激高しかけたスティーブも、デボラさんに丸め込まれる。
すっとデボラさんの背後に回ったケビンに、窘めるような眼差しを向けられたせいもあるだろうが。
ついでに言うと、グラハムさんもさりげなく妻の側に寄り添っている。
「デボラさん、なかなかやるね。光魔法使いとしてはかなりのもんだよ」
レニーが感心している。
たしかに、術式の洗練度が高いな。たいしたものだ。
魔法使いと一口に言っても、それぞれ得手不得手はある。
ことに光魔法は、持って生まれた資質に左右される部分が大きいと言われており、レニーですらこの分野に限っては並みの神官と大差ない。正直、僕の方が少し上なくらいだ。
その一方で、リエッタのような天才も存在する。
それにしても……。
ソレルフィールドの村人たち、吸血鬼に魅了されて操られているわけではなく、本当に彼らのことを慕っているようだ。
「でもさ、あんたたちもその『旦那様』だっけ? そいつらに血を吸われているんじゃないの?」
バネッサが口を挟むと、男たちの背後に隠れるようにしていた若い娘が進み出た。
「何か勘違いされてるみたいだけど、血を吸われると言っても大したことじゃないよ。あたしも、八ツ目猪に襲われかけたところを旦那様に助けていただいて、お礼に血を差し上げたけど、ほら、牙の痕も残らないよう治してくださったし」
そう言って左腕を捲って見せる。
なるほど、確かに傷跡は残ってないな。
吸血鬼の闇魔法でも、光魔法と同じようなことができる、というのは初めて聞いたよ。
「お前たちは騙されているのだ! 平民どもは知らぬかもしれんが、吸血鬼というのはな、その昔、魔王メディアーチェの走狗として人々を苦しめたのだぞ!」
スティーブが説得を試みるが、村人たちは動じることなく反論してくる。
「いえいえ。旦那様方がおっしゃるには、あれは『夜を統べる者』とはまったくの別物で、魔王の操り人形だったんだそうですよ」
村人たちは、「吸血鬼」という言葉を絶対に口にしない。
「夜を統べる者」という彼らの自称を用いるのを徹底しているあたりにも、村人たちの心酔っぷりがよく表れている。
「な、何が『夜を統べる者』だ! 大体、領主である我が伯爵家を差し置いて、旦那様だの何だのと! 無礼にも程があろう!」
いかんな。スティーブのやつ、また頭に血が上ってきたようだ。
ケビンが間に入ろうとするも、伯爵家の騎士たちも動き出し、村人たちを威圧する。
結局、村長が村人たちを説得して、何とか解散してくれたのだが……。
「大丈夫だ、旦那様方がお強いのは皆知っているだろう、とか何とか言ってたよね」
彼らのひそひそ会話を風魔法で拾っていたレニーが呟く。
いや、さすがにこれだけの面子で不覚を取ることはないだろうが……。
どうも穏やかじゃないな。
正直なところ、僕も「善良な吸血鬼」なんていう話を信じる気にはなれない。
村人たちを助けているのは事実としても、それはあくまでも彼らを懐柔して盾とするためで、陰で悪事を働いているのではないか、という疑念はぬぐえない。
村人たちには悪いが、やはり討伐はやむを得ないだろう。
吸血鬼のねぐらは、ソレルフィールドの村外れにあった。
そのあたりには、さほどの広さではないものの森が広がっており、鬱蒼たる木立の中に少し足を踏み入れたところに、丸太を組み合わせた小屋が建っている。
そこに吸血鬼が棲みついたのがいつ頃のことなのか、もう知る人はいないという。
火炎魔法で小屋ごと焼き払ってしまおうか、などという案も出て、スティーブもその気になりかけていたようだが、ケビンが止めた。
「そりゃそうでしょ、中にいるのが吸血鬼だけだって断言できないもの」
レニーが呟く。
たしかに、やつらの餌として人間が連れ込まれている可能性もありえるのだが、ケビンとしてはむしろ、吸血鬼が火に巻かれたくらいでどうにかなるとは限らない、かえって炎に紛れて逃げられてしまうのではないか、ということを懸念しているようだ。
結局、話し合いの末に、突入部隊を編成して小屋に踏み込むことになった。
伯爵家からはリーダー格であるロイと他二名、衛兵隊からケビンの部下が二名、冒険者勢からはグラハムさんとベルナーさん。計七名が選ばれた。
うん、このメンバーなら、吸血鬼二体に後れを取ることはないだろうし、さほど大きくない小屋にこれ以上の人数は突入できないだろう。
スティーブは外で全体の指揮、という体裁だが、伯爵家配下の騎士たちも含め、誰も彼に期待はしていない。くれぐれも邪魔だけはしないでくれよ、という空気が漂っている。
実質的な指揮官はケビンで、後方支援向きの人材を各所に配置し、小屋を包囲する布陣を取った。
僕やレニーもその中に含まれており、小屋の正面、入り口が視認できる位置で、森の木に隠れて待機する。
小屋への侵入は、入り口の他に大きめの窓が一箇所。
他に小さな明り取りの窓も設けられているが、人が出入りするのは無理だ。
そして、突入部隊が小屋に踏み込み、五分ほどの時間が流れた。
おかしいな。誰一人出て来る様子がない。
事前の打ち合わせでは、万が一の場合は第二陣が突入することになっていたのだが、ケビンも明らかに様子がおかしいと判断したようだ。
彼自らが率いる第二陣、今回も七名が小屋に突入する。
そこからさらに五分。
やはり誰も出て来ない。
吸血鬼に返り討ちにされた? 一人残らず? いや、そんな馬鹿な!
「こら、止しなさい、マーク!」
デボラさんの悲壮な叫び声が響き渡る。
彼らは南に向いた窓の方で待機していたはずだが、あの馬鹿、小屋に飛び込むつもりか?
馬鹿! グラハムさんたちが返り討ちにされたのだとしたら、お前が行ってどうなるものでもないだろうが!
「馬鹿マーク! ちょっと待ちなさいよ!」
バネッサが慌てて追いかけるのが目に入った。
ええい、しょうのないやつらだな!
突入部隊計十四名をことごとく返り討ちにするような吸血鬼を倒すなんて不可能だろうけど、あの二人まで犠牲になってしまうのはなんとか回避したい。
僕もすぐさま駆け出したが、入り口から踏み込む寸前に、「ぎゃあ」というマークの苦鳴が聞こえてきた。
くそっ! なんてことだ!
バネッサはまだ無事だろうか。
小屋に踏み込み、そこで僕が目にしたものは、壁と言わず天井と言わず、いたるところを真紅に染めた血しぶきの痕。
累々と横たわる突入部隊の面々。
そして、血塗られたカタナを引っ提げて静かに佇む中年男――の姿をした吸血鬼だった。
10
あなたにおすすめの小説
僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。
最上級のパーティで最底辺の扱いを受けていたDランク錬金術師は新パーティで成り上がるようです(完)
みかん畑
ファンタジー
最上級のパーティで『荷物持ち』と嘲笑されていた僕は、パーティからクビを宣告されて抜けることにした。
在籍中は僕が色々肩代わりしてたけど、僕を荷物持ち扱いするくらい優秀な仲間たちなので、抜けても問題はないと思ってます。
本当の外れスキルのスロー生活物語
転定妙用
ファンタジー
「箱庭環境操作」という外れスキルしかないエバンズ公爵家の長男オズワルドは、跡継ぎの座を追われて、辺境の小さな土地を与えられて・・・。しかし、そのスキルは実は・・・ということも、成り上がれるものでもなく・・・、スローライフすることしかできないものだった。これは、実は屑スキルが最強スキルというものではなく、成り上がるというものでもなく、まあ、一応追放?ということで辺境で、色々なことが降りかかりつつ、何とか本当にスローライフする物語です。
S級スキル『剣聖』を授かった俺はスキルを奪われてから人生が一変しました
白崎なまず
ファンタジー
この世界の人間の多くは生まれてきたときにスキルを持っている。スキルの力は強大で、強力なスキルを持つ者が貧弱なスキルしか持たない者を支配する。
そんな世界に生まれた主人公アレスは大昔の英雄が所持していたとされるSランク『剣聖』を持っていたことが明らかになり一気に成り上がっていく。
王族になり、裕福な暮らしをし、将来は王女との結婚も約束され盤石な人生を歩むアレス。
しかし物事がうまくいっている時こそ人生の落とし穴には気付けないものだ。
突如現れた謎の老人に剣聖のスキルを奪われてしまったアレス。
スキルのおかげで手に入れた立場は当然スキルがなければ維持することが出来ない。
王族から下民へと落ちたアレスはこの世に絶望し、生きる気力を失いかけてしまう。
そんなアレスに手を差し伸べたのはとある教会のシスターだった。
Sランクスキルを失い、この世はスキルが全てじゃないと知ったアレス。
スキルがない自分でも前向きに生きていこうと冒険者の道へ進むことになったアレスだったのだが――
なんと、そんなアレスの元に剣聖のスキルが舞い戻ってきたのだ。
スキルを奪われたと王族から追放されたアレスが剣聖のスキルが戻ったことを隠しながら冒険者になるために学園に通う。
スキルの優劣がものを言う世界でのアレスと仲間たちの学園ファンタジー物語。
この作品は小説家になろうに投稿されている作品の重複投稿になります
レベル1の時から育ててきたパーティメンバーに裏切られて捨てられたが、俺はソロの方が本気出せるので問題はない
あつ犬
ファンタジー
王国最強のパーティメンバーを鍛え上げた、アサシンのアルマ・アルザラットはある日追放され、貯蓄もすべて奪われてしまう。 そんな折り、とある剣士の少女に助けを請われる。「パーティメンバーを助けてくれ」! 彼の人生が、動き出す。
収奪の探索者(エクスプローラー)~魔物から奪ったスキルは優秀でした~
エルリア
ファンタジー
HOTランキング1位ありがとうございます!
2000年代初頭。
突如として出現したダンジョンと魔物によって人類は未曾有の危機へと陥った。
しかし、新たに獲得したスキルによって人類はその危機を乗り越え、なんならダンジョンや魔物を新たな素材、エネルギー資源として使うようになる。
人類とダンジョンが共存して数十年。
元ブラック企業勤務の主人公が一発逆転を賭け夢のタワマン生活を目指して挑んだ探索者研修。
なんとか手に入れたものの最初は外れスキルだと思われていた収奪スキルが実はものすごく優秀だと気付いたその瞬間から、彼の華々しくも生々しい日常が始まった。
これは魔物のスキルを駆使して夢と欲望を満たしつつ、そのついでに前人未到のダンジョンを攻略するある男の物語である。
ダンジョンで同棲生活始めました ひと回り年下の彼女と優雅に大豪邸でイチャイチャしてたら、勇者だの魔王だのと五月蝿い奴らが邪魔するんです
もぐすけ
ファンタジー
勇者に嵌められ、社会的に抹殺されてしまった元大魔法使いのライルは、普通には暮らしていけなくなり、ダンジョンのセーフティゾーンでホームレス生活を続けていた。
ある日、冒険者に襲われた少女ルシアがセーフティゾーンに逃げ込んできた。ライルは少女に頼まれ、冒険者を撃退したのだが、少女もダンジョン外で貧困生活を送っていたため、そのままセーフティゾーンで暮らすと言い出した。
ライルとルシアの奇妙な共同生活が始まった。
『追放された底辺付与術師、実は【全自動化】のチートスキル持ちでした〜ブラックギルドを追い出されたので、辺境で商会を立ち上げたら勝手に世界規
NagiKurou
ファンタジー
「お前のような、一日中デスクに座って何もしない無能はクビだ!」
国内最大のギルド『栄光の剣』で、底辺の付与術師として働いていたアルスは、ある日突然、強欲なギルドマスターから追放を言い渡される。
しかし、彼らは知らなかった。ギルドの武器の自動修復、物流の最適化、資金管理に至るまで、すべてアルスの固有スキル【全自動化(ワークフロー構築)】によって完璧にシステム化され、回っていたことを。
「俺がいなくなったら、あの自動化システム、全部止まるけど……まあいいか」
管理権限を解除し、辺境へと旅立ったアルス。彼は自身のスキルを使って、圧倒的な耐久力を誇る銀色の四輪型重装ゴーレムを作り出し、気ままな行商を始める。
一度構築すれば無限に富を生み出す「全自動」のチートスキルで、アルスの商会は瞬く間に世界規模へとスケールしていく!
一方、すべてを失ったギルドは、生産ラインが崩壊し、絶望のどん底へと突き落とされていくのだった……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる