婚約破棄して廃嫡された馬鹿王子、冒険者になって自由に生きようとするも、何故か元婚約者に追いかけて来られて修羅場です。

平井敦史

文字の大きさ
40 / 49
第三章 馬鹿王子、師を得る

第40話 馬鹿王子、師を得る その十二

しおりを挟む
 スティーブが駆る馬が走り去っていった方角にあるのは、立派な造りの商館。ヴェルノ商会ファルナ支店の本部だ。

 僕は隠形ハイディングの呪文を唱え、姿を消した。
 この魔法は、目の前にいる人間の風貌を認識し記憶したり記憶と照らし合わせたりすることを阻害する認識阻害インピーディングの上位魔法。完全に人の視覚を欺き、姿を見えなくする魔法だ。

 と、言えば、とんでもなく便利な――あるいは物騒な魔法に思えるだろうが、欠点も多い。
 まず、認識阻害インピーディングに輪をかけて難易度が高く、魔力の消費も激しいので、その時点で使える魔道士は限られる。
 おまけに、魔法技術や魔力量の面をクリアしても、単に姿
 気配を隠せる体術が伴っていないと、ある程度武術の心得のある人間の目はごまかせない。

「マグ、そんな魔法まで習得してたんだね。残念だけど、あたしはついていけないや。姿は消せても多分バレちゃう」

 レニーが申し訳なさそうに言った。
 彼女だって、それなりの体術を身に着けてはいるのだけれど、護衛あるいは用心棒に、出来るやつがいないとも限らないからな。危険リスクは避けた方がいいだろう。

「ほう、なかなかやるじゃないか。レニーと言ったか、すまんがこれを持っていてくれ」

 アルバートさんはそう言うと、羽織っていた赤褐色のフード付きローブを脱ぎ、レニーに手渡した。

「こいつには日除けの術式を施してあるのだが、魔力を帯びた魔道具を身に着けていては、隠形ハイディングの意味が無いからな」

 いえ、そんな微弱な魔力を感知できるのは、人間だとせいぜいレニーくらいのものだと思いますが。

 ローブを脱いだアルバートさんは、呪文を唱えることもなく、すっと姿を消した。
 さすがと言うべきか、気配もほぼ完璧に隠蔽されている。
 でも、レニーは目で追っているな。
 魔力も極限まで抑え込んでいるのだけれど、それでも探知できているのか。

「おいおい。俺がいるのか?」

「いえ、さっきまでそこにいたことがわかっていて、ようやく微弱な魔力を追える程度です。姿を消した状態で遠くから近付いて来られたら、まず気付けませんよ」

 うん。レニーですらそうなのだから、アルバートさんに隠形ハイディングを使われたら気取けどることができる人間なんてまずいないだろう。
 夜を統べる者ナイトロード恐るべし。
 あ、いや、剣聖アンジュ直々に教えを受けた達人だからこそ、なせる技なのだと思いたい。

 僕も、どうにか彼の魔力を追うことはできそうだ。
 一度見失ってしまったらもう無理だろうけど。

 レニーにはマドラと一緒にこの場で待っていてもらって、アルバートさんと二人、商館へと向かう。
 途中すれ違った人たちは、誰も全く気付かない。
 そうして館の中に入り、おそらくスティーブは応接室に通されているだろうと見当をつけて探していると、ちょうど恰幅のいい男性が部屋に入っていくところだった。
 こいつがファルナ支店の支店長なのだろう。
 その後について、一緒に部屋に入り込む。

「お待たせいたしました、若様。首尾はいかがでしたかな?」

「いかがも糞もあるか! 吸血鬼ヴァンパイヤがあれほど強いとは聞いておらんぞ!」

 スティーブは支店長を怒鳴りつけ、事の顛末てんまつを語って聞かせた。

「……つまり、死人は出なかったと。それは不幸中の幸いでしたな」

他人事ひとごとのように言うな! 元はと言えば、ソレルフィールドの吸血鬼ヴァンパイヤ仕業しわざということにしようなどと言い出したのは、お前ではないか、デクス!」

「そうですな。を任せていた者たちが、その吸血鬼ヴァンパイヤに潰されたらしいので、その報復も兼ねた一石二鳥の案だと思ったのですがね。まさか、王都の衛兵隊が返り討ちに遭うとは、思いもよりませんでしたよ」

 やっぱり、こいつらが人身売買の黒幕だったのか。なんてやつらだ。
 そして、不甲斐ない、と言わんばかりの支店長――デクスという名らしい――の言葉に、スティーブは顔を真っ赤にして激昂した。

「貴様……! だいたいだな! 貴様たちのは黙認してやっていたが、売られた人間が吸血鬼ヴァンパイヤの餌になっているとはどういうことだ!」

「……別に、相手が吸血鬼ヴァンパイヤだと承知の上で販売したりはしておりません。しかしながら、売った先でがどうなるかまで、責任は負いかねますな」

 デクスは開き直った態度でそう答えたが、動揺はしているようだ。
 少なくとも、彼にとっても売り飛ばした人間が吸血鬼ヴァンパイヤに血を吸われて遺棄されるという事態は、想定外だったのだろう。
 彼よりさらに上の者、ヴェルノ伯がどこまで承知しているのかはわからないが。

「とにかく、しばらくはおとなしくしていろ。王都に目をつけられたらことだし、取り逃がした吸血鬼ヴァンパイヤがどう動くかもわからん」

「そうおっしゃられましても。の安定供給は商売の基本ですので。し、一両日中には新しいが入ってくる予定です」

「おい、デクス、貴様!」

「若様」

 詰め寄ろうとするスティーブを冷ややかにいなし、デクスは言った。

「我々と貴家きけはもはや一蓮托生。いまさら知らぬ存ぜぬが通用するなどとお思いではないでしょうな?」

「お、脅す気か!」

「いえいえ、これからも良好な関係を築いてまいりましょう、と申し上げているのです」

 スティーブは反論しかけたが、結局押し黙った。
 積極的に加担してまではいないにせよ、おそらくはたっぷりと鼻薬をかがされて、抜き差しならぬ関係に足を踏み入れているのだろう。


 胸の悪くなるような対話を終えて、スティーブが不機嫌そうな表情のまま席を立つ。
 僕もその後について部屋を出た。
 正直なところ、アルバートさんが暴れ出すんじゃないかと終始ひやひやしていたのだけれど、僕が部屋を出てスティーブから離れレニーのもとに向かうのに、無言のままついて来ている。
 そして館を離れ、すっかり日も暮れた中、レニーを待たせていた場所に着いて、隠形ハイディングを解くと同時に、すさまじい怒りの波動をほとばしらせた。

「ひっ!」

 レニーが小さく悲鳴を上げる。
 彼女だって、命がけの戦いも経験しているのだけどな。
 本音を言えば僕もちょっと怖い。

 館で聞いた話をレニーに聞かせると、彼女も憤慨した。

「屑にもほどがあるね。なんてやつらだ! アルバートさんが怒るのも当然だよ。よく我慢しましたね」

 うん。僕もそう思う。

「よほどあの場で皆殺しにしてやろうかと思ったのだがな。連中、他にも人攫いをさせている手駒がいると言っていただろう。あそこで連中を殺したら、攫われた者たちはどうなると思う?」

 それは……。引き取り手がいなくなったから解放してやろうとはならないだろうな。
 他の買い手を探して売る、ならばまだマシだろう。
 厄介事を避けるために、ということすら十分にあり得る。

「商会に引き渡す現場を押さえて、攫われてきた者たちを救出する。連中をぶっ殺すのはそれからだ」

「あー、ちょっと待ってください」

 口を挟んだ僕を、アルバートさんが睨みつける。

「何だ?」

「おそらく、事はこのファルナ支店だけでは収まりません。ヴェルノ商会全体、そしてその会頭かいとうであるヴェルノ伯が関与していると考えるべきです。あのデクスという男は、生かして証言を取る必要があります」

「あ!? そんなことは俺たちには関係ない! ……と言いたいところだが、あいつらが所詮は手足に過ぎないとなれば、本体を潰さないと犠牲者が出続ける、か。仕方ないな。ジュジュもきっとそう言うことだろう」

 渋々の様子ながら、アルバートさんがそう言ってくれたので、僕もほっと安堵の溜め息をく。

「けど、現場を押さえるといっても……。例の荷積にづみ場で引き渡すかどうかもわからないでしょ。今度は別の人攫いたちなんだし」

 レニーの懸念はもっともだ。
 ケビンたち衛兵隊にも手伝ってもらうつもりではいるが、そう都合よくやつらの尻尾を掴むことができるかどうかはわからない。

「それはその通りだがな。まあ出来るだけやってみるさ」

 アルバートさんはそう言って、大きく口を開き何か叫んだ――ようだ。
 ようだ、というのは、その声が聞こえなかったからだ。
 けど、なんだか耳の奥がキンキン響いている感覚がある。

「何、今の? 耳がキンキンする」

 レニーも顔をしかめる。
 と、いつの間にか、無数の蝙蝠こうもりたちが周囲に集まって来ていた。

「人間の耳には聞こえない音で俺の使い魔たちを呼び寄せたのだ。本物の蝙蝠もだいぶ混じっているが、それは気にするな。こいつらにも手伝ってもらうことにする」

 アルバートさんは蝙蝠使い魔たちに指示を出し、四方に飛ばした。
 レニーはアルバートさんと一緒に荷積にづみ場を見張り、僕はケビンに報告しに行くことにした。


 ケビンたち衛兵隊は、ファルナ伯爵家の兵舎を宿に借りていると聞いている。
 ファルナ市街の地理はグラハムさんの道場近辺くらいしかよくわからないのだが、アルバートさんは市街のこともある程度知っているとのことで、蝙蝠を一匹つけてくれた。
 そいつの導きで、市街の中央やや北寄りにある広壮な敷地の正門にたどり着いた。

 門番に、“吸血鬼ヴァンパイヤ”討伐に参加した冒険者だが王都の衛兵隊長の耳に入れたいことがある、と告げると、意外と素直に取り次いでくれた。
 スティーブとしては、衛兵隊に余計な接触をされたくないだろうが、門番にまでは通達していなかったようだ。
 隠形ハイディングはさっき使ってかなり魔力を消費したので、もう一度使わずに済んで幸いだ。

 兵舎に案内され、ケビンに会うや、彼は開口一番叫んだ。

「殿下! 心配いたしましたよ! ご無事で何よりです!」

 心配いらないと手紙で伝えたんだけどな。
 まあ、彼が案じるのも無理はないか。
 僕が見聞きした情報を伝えると、ケビンは溜め息をいて、

「そうでしたか……。いえ、実を申しますと、ヴェルノ商会が怪しいのではないか、というのは治安局でも囁かれてはいたのです。どうやらこれで確定ですな。しかし……」

 うん。彼の懸念していることはわかる。はたしてヴェルノ伯を追及することができるのか、という点だろう。

 王都治安局、さらにそれを統括する司法大臣には、相手が貴族であろうともその非違ひいを弾劾する権限が与えられている。
 王国の初代王妃であるアンジェリカ妃が定めたとされる法だ。
 しかし実際には、有力貴族が罪を犯しても、それを裁けるケースはまれだ。

「メイランド伯は気骨のあるお方ではあるのですけれどね」

 司法大臣のメイランド伯。ケビンの言うとおり、気骨のある人物だが、貴族社会での立ち回りはあまり上手いとは言えず、ヴェルノ伯に対抗できるかというとかなり不安を覚える。
 本来ならば、王太子である僕が後ろ盾になってやらなくてはいけないのだけれど、今の僕の立場では力になれず、申し訳なく思う。

「とにかく、証拠を押さえるしかないよ。君たちには昼間の見張りを頼みたい。夜は僕たちが見張る」

「承知いたしました。その人攫い集団のねぐらを見つけることができれば話は早いのですが、ファルナ伯の協力が望めない状況では、まず無理でしょうな」

 そうだな。
 考えてみれば、アルバートさんたちが潰した盗賊団はソレルフィールドの近くの砦を拠点にしていたけれど、ルーシー嬢が攫われたのはファルナ市内。
 市内で暗躍している連中がいる可能性が高いが、余所者よそものである衛兵隊がそいつらのねぐらを見つけ出すなんてのはやはり無理だろう。
 となると、やはりヴェルノ商会への引き渡しの現場を押さえるしかなさそうだ。

「しかし……、大丈夫なのですか? そのヴァン、いえ、夜を統べる者ナイトロードを、全面的に信用なさって」

 気遣きづかわし気な面持ちで、ケビンが僕を見る。
 まあ、気持ちはわかる。
 僕自身、今日の昼までは、「善良な吸血鬼ヴァンパイヤ」なんて存在を、信じてはいなかったのだから。
 けれど。

「君たちが今も生きている、という事実が何よりも雄弁に物語っているだろ。それに、彼らが自分たちを陥れようとした者たちへの報復よりも攫われた人たちの救出を優先している理由を、根っからのお人好しだから、以外で説明できるかい?」

 まあ、「根っから」というのは語弊があるかもしれない。
 アンジュ様の影響も大きそうだからな。
 けど、それは些末なことだ。

「そうおっしゃられますと……。そうですね。殿下がご自身の目で見極められたのですから、信用いたしましょう」

「よろしく頼む」

「はい。殿下もくれぐれもお気をつけて」

「ありがとう。わかっているよ」

 なおも不安げなケビンを安心させるように、僕は笑顔で答えた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

遅刻勇者は異世界を行く 俺の特典が貯金箱なんだけどどうしろと?

黒月天星
ファンタジー
 命の危機を女神に救われた高校生桜井時久(サクライトキヒサ)こと俺。しかしその代価として、女神の手駒として異世界で行われる神同士の暇潰しゲームに参加することに。  クリア条件は一億円分を稼ぎ出すこと。頼りになるのはゲーム参加者に与えられる特典だけど、俺の特典ときたら手提げ金庫型の貯金箱。物を金に換える便利な能力はあるものの、戦闘には役に立ちそうにない。  女神の考えた必勝の策として、『勇者』召喚に紛れて乗り込もうと画策したが、着いたのは場所はあっていたけど時間が数日遅れてた。 「いきなり牢屋からなんて嫌じゃあぁぁっ!!」  金を稼ぐどころか不審者扱いで牢屋スタート? もう遅いかもしれないけれど、まずはここから出なければっ!  時間も金も物もない。それでも愛と勇気とご都合主義で切り抜けろ! 異世界金稼ぎファンタジー。ここに開幕……すると良いなぁ。  こちらは小説家になろう、カクヨム、ハーメルン、ツギクル、ノベルピアでも投稿しています。

俺、何しに異世界に来たんだっけ?

右足の指
ファンタジー
「目的?チートスキル?…なんだっけ。」 主人公は、転生の儀に見事に失敗し、爆散した。 気づいた時には見知らぬ部屋、見知らぬ空間。その中で佇む、美しい自称女神の女の子…。 「あなたに、お願いがあります。どうか…」 そして体は宙に浮き、見知らぬ方陣へと消え去っていく…かに思えたその瞬間、空間内をとてつもない警報音が鳴り響く。周りにいた羽の生えた天使さんが騒ぎたて、なんだかポカーンとしている自称女神、その中で突然と身体がグチャグチャになりながらゆっくり方陣に吸い込まれていく主人公…そして女神は確信し、呟いた。 「やべ…失敗した。」 女神から託された壮大な目的、授けられたチートスキルの数々…その全てを忘れた主人公の壮大な冒険(?)が今始まる…!

異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)
ファンタジー
自身のクラスが勇者召喚として呼ばれたのに乗り遅れてお亡くなりになってしまった主人公。 その瞬間を偶然にも神が見ていたことでほぼ不老不死に近い能力を貰い異世界へ! 約2万年の時を、ぼっちで過ごしていたある日、いつも通り森を闊歩していると2人の子供(幼女)に遭遇し、そこから主人公の物語が始まって行く……。 ――― 当作品は過去作品の改稿版です。情景描写等を厚くしております。 なお、投稿規約に基づき既存作品に関しては非公開としておりますためご理解のほどよろしくお願いいたします。

婚約破棄を目撃したら国家運営が破綻しました

ダイスケ
ファンタジー
「もう遅い」テンプレが流行っているので書いてみました。 王子の婚約破棄と醜聞を目撃した魔術師ビギナは王国から追放されてしまいます。 しかし王国首脳陣も本人も自覚はなかったのですが、彼女は王国の国家運営を左右する存在であったのです。

【状態異常耐性】を手に入れたがパーティーを追い出されたEランク冒険者、危険度SSアルラウネ(美少女)と出会う。そして幸せになる。

シトラス=ライス
ファンタジー
 万年Eランクで弓使いの冒険者【クルス】には目標があった。  十数年かけてため込んだ魔力を使って課題魔法を獲得し、冒険者ランクを上げたかったのだ。 そんな大事な魔力を、心優しいクルスは仲間の危機を救うべく"状態異常耐性"として使ってしまう。  おかげで辛くも勝利を収めたが、リーダーの魔法剣士はあろうことか、命の恩人である彼を、嫉妬が原因でパーティーから追放してしまう。  夢も、魔力も、そしてパーティーで唯一慕ってくれていた“魔法使いの後輩の少女”とも引き離され、何もかもをも失ったクルス。 彼は失意を酩酊でごまかし、死を覚悟して禁断の樹海へ足を踏み入れる。そしてそこで彼を待ち受けていたのは、 「獲物、来ましたね……?」  下半身はグロテスクな植物だが、上半身は女神のように美しい危険度SSの魔物:【アルラウネ】  アルラウネとの出会いと、手にした"状態異常耐性"の力が、Eランク冒険者クルスを新しい人生へ導いて行く。  *前作DSS(*パーティーを追い出されたDランク冒険者、声を失ったSSランク魔法使い(美少女)を拾う。そして癒される)と設定を共有する作品です。単体でも十分楽しめますが、前作をご覧いただくとより一層お楽しみいただけます。 また三章より、前作キャラクターが多数登場いたします!

勇者辞めます

緑川
ファンタジー
俺勇者だけど、今日で辞めるわ。幼馴染から手紙も来たし、せっかくなんで懐かしの故郷に必ず帰省します。探さないでください。 追伸、路銀の仕送りは忘れずに。

なんだって? 俺を追放したSS級パーティーが落ちぶれたと思ったら、拾ってくれたパーティーが超有名になったって?

名無し
ファンタジー
「ラウル、追放だ。今すぐ出ていけ!」 「えっ? ちょっと待ってくれ。理由を教えてくれないか?」 「それは貴様が無能だからだ!」 「そ、そんな。俺が無能だなんて。こんなに頑張ってるのに」 「黙れ、とっととここから消えるがいい!」  それは突然の出来事だった。  SSパーティーから総スカンに遭い、追放されてしまった治癒使いのラウル。  そんな彼だったが、とあるパーティーに拾われ、そこで認められることになる。 「治癒魔法でモンスターの群れを殲滅だと!?」 「え、嘘!? こんなものまで回復できるの!?」 「この男を追放したパーティー、いくらなんでも見る目がなさすぎだろう!」  ラウルの神がかった治癒力に驚愕するパーティーの面々。  その凄さに気が付かないのは本人のみなのであった。 「えっ? 俺の治癒魔法が凄いって? おいおい、冗談だろ。こんなの普段から当たり前にやってることなのに……」

【完結】特別な力で国を守っていた〈防国姫〉の私、愚王と愚妹に王宮追放されたのでスパダリ従者と旅に出ます。一方で愚王と愚妹は破滅する模様

岡崎 剛柔
ファンタジー
◎第17回ファンタジー小説大賞に応募しています。投票していただけると嬉しいです 【あらすじ】  カスケード王国には魔力水晶石と呼ばれる特殊な鉱物が国中に存在しており、その魔力水晶石に特別な魔力を流すことで〈魔素〉による疫病などを防いでいた特別な聖女がいた。  聖女の名前はアメリア・フィンドラル。  国民から〈防国姫〉と呼ばれて尊敬されていた、フィンドラル男爵家の長女としてこの世に生を受けた凛々しい女性だった。 「アメリア・フィンドラル、ちょうどいい機会だからここでお前との婚約を破棄する! いいか、これは現国王である僕ことアントン・カスケードがずっと前から決めていたことだ! だから異議は認めない!」  そんなアメリアは婚約者だった若き国王――アントン・カスケードに公衆の面前で一方的に婚約破棄されてしまう。  婚約破棄された理由は、アメリアの妹であったミーシャの策略だった。  ミーシャはアメリアと同じ〈防国姫〉になれる特別な魔力を発現させたことで、アントンを口説き落としてアメリアとの婚約を破棄させてしまう。  そしてミーシャに骨抜きにされたアントンは、アメリアに王宮からの追放処分を言い渡した。  これにはアメリアもすっかり呆れ、無駄な言い訳をせずに大人しく王宮から出て行った。  やがてアメリアは天才騎士と呼ばれていたリヒト・ジークウォルトを連れて〈放浪医師〉となることを決意する。 〈防国姫〉の任を解かれても、国民たちを守るために自分が持つ医術の知識を活かそうと考えたのだ。  一方、本物の知識と実力を持っていたアメリアを王宮から追放したことで、主核の魔力水晶石が致命的な誤作動を起こしてカスケード王国は未曽有の大災害に陥ってしまう。  普通の女性ならば「私と婚約破棄して王宮から追放した報いよ。ざまあ」と喜ぶだろう。  だが、誰よりも優しい心と気高い信念を持っていたアメリアは違った。  カスケード王国全土を襲った未曽有の大災害を鎮めるべく、すべての原因だったミーシャとアントンのいる王宮に、アメリアはリヒトを始めとして旅先で出会った弟子の少女や伝説の魔獣フェンリルと向かう。  些細な恨みよりも、〈防国姫〉と呼ばれた聖女の力で国を救うために――。

処理中です...