【完結】あの奇跡をもう一度

何かが始まる

世界の常識と僕の国と僕の事情

　僕の世界には魔法が存在していて、魔力を持った人々は魔法を使って生活をしている。

　魔力は基本的に平民には存在せず、貴族達に多い。平民から魔力を持った子供が生まれる場合は片親が貴族であったり、先祖に貴族の血が流れていた可能性が高いのだ。

　子供へ受け継がれる魔力は両親の魔力量に影響されやすいが、先祖返りで両親と似ない場合もある。

　体内に巡る魔力量が多ければ多いほど、長寿になり老いにくくなる。青年期に成長が止まることが多く50代でも20代の見た目になるのだ。身体的な老化は魔力量によって緩やかに進行し、一般的には100歳を過ぎた頃から徐々に見た目が変わっていく。

　平民の平均寿命が50歳から60歳。貴族の平均寿命は120歳～150歳ほどで稀に300歳ほど生きる人もいるらしい。そのためどこの国も上位貴族達は魔力量を重視する傾向にあるそうだ。

　魔力には色彩があり、魔力色は赤や青といった色合いはなく、白系と黒系しかない。魔力の大きさと色の濃度は基本的には関係はないため、膨大な魔力を持っていても白に近い色合いの者もいれば、魔力が最小であって色合いが黒い者もいる。

　軽視されやすい魔力色であるが、繁殖に関してのみ注意が必要だった。

　薄い魔力色ほど濃い魔力色に影響されやすく、子供は両親達の中間色で生まれてくる。そして両親の魔力色が濃くなればなるほど繁殖力が減少し、出生率に影響が出てくるからだ。
　

　僕はほぼ魔力がない両親から、膨大な魔力（と、言っても上の下ぐらいだ）を持って生まれた先祖返りだ。その証拠に髪の毛が真っ白なのだ。母親の家系は魔力が少ない家系だが、白髪の子供は魔力量を多く保有して生まれてくると言われている。

　そして生まれてすぐに神殿で洗礼と測定を受けた僕は、家族の中で唯一の魔法使いになったのだった。

　ちなみに魔力の色は淡い黒だ。つまり、灰色ともいう。

　魔力は中途半端な平凡さ。

　魔力色も平凡な中間色。

　頭脳も魔法の才能も平凡。

　そして奇抜な髪色と小柄な体つき。

　能力が平凡であっても異端児のような出立ちの僕は国ではとても浮いていた。ある程度魔力が有れば末端貴族でも、側室として招かれることは良くある。理由は長子が家を継ぎ、子供が産まれにくくなっているため一夫多妻や一妻多夫がお金がある貴族では常識だからだ。しかし、僕はこの歳になっても清いままだった。

　魔法で発展しているフェルティエ皇国は差別主義で魔力重視主義だ。そしてお金がすべての国だ。

　魔道具の開発は諸外国に比べて劣っているが、魔力保有率が諸外国よりも多い。つまり、魔力がほぼない者は軽視されやすいのだ。

　平民含め貴族でも魔力がない家は肩身が狭い国だ。しかし、お金があれば魔力がなくても一旗あげることができる。だからこそ、魔力がない者であっても国から出ずに住み続けているのだった。


　ランベルツ家は男爵位はあるが痩せた土地しかない貧乏貴族だ。領主家族は平民に混じって畑仕事をして、わずかな徴税すらも領地の整備に使う。父さんは側室は持たず、母さんとの間に3人の子供をもうけた。貴族としては珍しく子沢山ではあるが、貧乏ゆえに生活は毎日苦しかった。

　だからこそ、膨大な魔力を持って生まれた僕は家族や領民の期待の星だったのだ。

　15歳から通う魔法学校へも、家族や領民が力を合わせてお金を工面して通わせてくれた。

　僕は留年しないように必死に勉強し、魔法を覚えた。魔法が使えれば、きっとお金を稼げると思ったからだ。そして家族や領民達に恩返しがしたかったのだ。

　僕は魔力量の割に繊細な魔力操作が得意だった。そのため付与魔法の成績が他よりもよかった。平凡であっても、人並みに魔法を使いこなせるようになった僕は卒業してから意気揚々と仕事を探した。

　この時は魔力があり、魔法が使えれば、見た目が奇抜であっても仕事はできるだろうと楽観視していた。

　だけども、仕事を探し始めて2年間、採用通知は貰えた事がない。

　僕はずっと肩身の狭い思いをしていた。