38 / 47
旅の終わり?
レッツらゴー!
しおりを挟む
次の日の昼頃に私は人間に戻れた。
その知らせを聞いて、現皇帝陛下は泣いて喜んだそうだ。まあ、この国におかわりがくる可能性が減ったからね、そりゃね。
森への入り口に進むには、馬車で3日はかかるそうだ。でも、私達には空飛ぶ馬車がある。
キャスリーンは今代の守り手を心配している様子だが、屋敷にいる間は特にその話をしてこない。この場では話せない何かがあるようだ。馬車の中で聞けばいいだろう。
ホープ伯爵には隠し球の馬車で行くので、車体だけ用意してもらうように頼んだ。前のやつ?収納に入れるには大きいから、乗り捨ててました!
あとは森に入ってからの生活必需品、新しい服やら下着類、食料などを買い込んだ。
衣類についてはやけにキャスリーンがこだわった。伯爵の屋敷に首都にいる有名な服屋さん達を呼びつけてありとあらゆる布を吟味。デザインも吟味。あーでもないこーでもないと振り回される服屋のおじさんやおばさん達。
キャスリーンがとても真剣だったから口を挟まなかったが、そんなのいるかなぁ?というものも用意を始めるし…。あれやこれや注文、出来上がりはなるはやで!ってされてる服屋のおじさん達の顔色は悪かった。おばさん達は、インスピレーションをもらったとかで逆に生き生きしてた。
なんだかんだあって旅立ちの準備が終わったのは、私が人に戻って5日後だった。
「姫様。どうかお元気で」
「ああ。すまないな。別れの挨拶を其方だけにするだなんて我が儘をさせてもらって」
「いえいえ。その方が良いのです。大々的にすればするほど、姫様も寂しくなるでしょうから」
「うん…」
空飛ぶ馬車が出発するのはホープ伯爵の敷地内からだ。屋敷の使用人達や執事のクリスさん、ホープ伯爵だけでの見送りになった。
キャスリーンは皇族たちに負い目を感じているようで、事態を収束させてからは屋敷に篭りっきりになっていた。それを見て、ホープ伯爵が現皇帝陛下に掛け合い、別れの挨拶等を省いて見送りは伯爵だけにすると伝えたようだ。
彼女の兄は妹の心を想って、ホープ伯爵の言葉に頷いたそうだ。
馬車の前でみんなで並びつつ、キャスリーン達の別れを眺めていればクリスさんがこちらに近寄ってきた。
「エヴィ様、ケイレブ様。これは皆からのほんの気持ちでございます。受け取っていただけませんか?」
「え?」
私の隣で狼の姿でちょこんと座るケイレブと一緒に手渡された籠の中を見てみれば、そこには金狼・白狼・黒カラスを模した手編みのぬいぐるみ、カラスと金狼と白髪の女の子が刺繍が施されたハンカチ、あとケイレブが好きな肉料理のお弁当だった。
「可愛い」
「お二人が狼の姿で戯れる様を残したいと、使用人たちが作ってしまったものでして…」
困ったような顔になりつつクリスさんが後ろにいる人たちに目を向ければ、彼らはアセアセとした様子で懐からぬいぐるみやハンカチを取り出して「テヘッ」とした顔になった。
「ああ。自分たちで楽しむ分にはいいですよ。ただ、周りに広めないようにだけしてください」
「はい!かしこまりました」
私の言葉に使用人達は嬉しそうに声を上げた。さりげなくクリスさんのジャケットには真っ黒カラスのブローチが付いている。黒いジャケットに黒いカラス。色で存在が紛れているのだが、クリスさんは満足そうだ。
ベルナールは私の肩の上でそのブローチを見ていたが、特に何も言わなかった。
それぞれ別れの挨拶を済ませ、馬車に乗り込む。ケイレブは馬車に乗り込むとすぐに人化してキャスリーンを隣に座らせてご満悦だ。しかも膝枕までしてもらっている。窓から見えないように隠れるためと理由を述べていたが、ただしてもらいたいだけなのは明白だった。
キャスリーンは困った顔をしつつも嫌ではないようで、懐いているケイレブの頭を優しく撫でて微笑んでいた。
ベルナールは私の肩にいる。カーテンを開けて窓から2人で顔を出せば、伯爵宅の皆様が心配そうな顔でまだ見つめてきていた。
「皆さん。お世話になりました。行ってきます」
「あ、ああ。気をつけてな。そうだ。森に伴侶の許可をもらう際に…入り口に皆への贈り物を置いてもいいかい?」
「え?ええ、いいけど…。でも、それを形式化しないで欲しいかな。伯爵様だけがさりげなくするってことで」
「ああ。もちろんだ。私が死んだら無くなると思ってくれ」
「うん。ちょっとは運動しないと長生きできないよ!プニプニのお肉を減らさなきゃ!」
「はぁ。君は最後まで心の声が口からよく出る。わかっておる。健康に気をつけて長生きし、君達になるべく長く贈り物を届けよう!」
「ふふ。お願いね!じゃあ、行ってきます」
私は声をかけてすぐに頭をひっこませた。浮遊の魔石を起動させ、少しずつ浮上させていく。
キャスリーンは窓からぴょこっと顔を出すと、何も言わずに笑顔で手を振った。
ホープ伯爵も屋敷の人々も同じように笑顔で手を振っている。
彼らにニポニテの皆のように《記録》は渡さなかった。残しておけば、また何かの争いに使われる可能性もあるからだ。
ベルナールが外に出て認識阻害の布を馬車につけた。
もう彼らにはこの馬車は見えない。
それなのに、彼らは米粒ほどの大きさになるまでずっと手を振っていた。
森に向かう間。しばらく皆は無言だった。
だが、その沈黙を破るようにキャスリーンが話し始めた。
「今代の守り手様は500年、任務についている」
「え!?」
500年ということは、我が国の例の事件前から守り手であるということだ。私はサァァッと顔を青ざめさせつつ、キャスリーンの話の続きを聞き入った。
「心が…もう壊れる寸前のようでな。私が早くに森に呼ばれたのは、実は彼のためなんだ」
「…そうだったんだ…」
「ああ。私が1人で森に向かおうと城を出てすぐだ。プカプカと浮く球体に出会った。その球体を眺めて瞬きをした瞬間、私は森の中へ移動していた」
「それってまさか…」
私の言葉に同意するようにキャスリーンは頷いた。
「球体は森の声を伝えるもののようでな。私が移動させられたのは一軒の二階建ての家の前だった。木で出来た家だったが、可愛らしい装飾もある美しい家でね。庭には畑、少し離れた場所には家畜小屋。あとは広場のような場所もあるところだった。まるで、夫婦と子供が一緒に豊かに住めそうな住まいだ」
「へ、へえ…」
急にスケールの大きな展開に私が唖然としつつも、彼女は話を続けた。
「球体は男でも女でもない声で言った。〈今代を守れ。この森での暮らし方については書物を用意した。それを見れば自ずとわかるだろう〉と」
「け、けっこう。投げやりね…。まあ、引き継ぎをする今代が調子悪いなら仕方ないか」
「うむ。私は本を少し読んでから、すぐに今代の家に向かった。彼は平屋の古い木の家に住んでいた。扉を叩いても返事がない。私はすぐに扉を突き破って、部屋に入った」
「お姫様なのにやることがパワフルなのよ…」
「ふふ。幼き頃から鍛えた体には自信があるからね。まあ、そして部屋を探したら彼は寝室で静かに眠っていた」
「…なるほど」
その時を思い出すかのようにキャスリーンは少し上を眺めながら話をした。
「するとまた球体が現れた。半年以内に君達がたどり着く。それまでは彼を眠らせて欲しい。その代わり本に書かれた通りに仕事をしてくれと。そういって消えて行った」
「なんか、ブラック企業の匂いするー。この会社(森)、大丈夫かしら」
私がボヤボヤと呟けば、単語の意味がわからないキャスリーンは困った顔をしつつ首を傾げていた。
『ご主人様。しかし、それが守り手なのです』
ベルナールは静かに首を横っ振っていた。
「えー、守り手ってもしかして…(社畜なの?)」
心の声は出さないような呟けば、キャスリーンは別の意味で受け取ったようだ。ウンッと頷くと神妙な顔で話した。
「守り手は私達が思っているような、綺麗な仕事ではない。この世界の穢れを祓う存在のようだ。今代はヨドミと言っていた」
その穢れを(社畜仕事を)ずっと今の人は祓って(して)いたということであれば、心が病んでも仕方ないかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいなる。
「…それを500年もしたんだよね?」
つらそうな声で話せば、キャスリーンも小さく頷いた。
「ああ」
今代さん、本当に申し訳ない。200年程度(それでも長いが)で終わったはずなのに、うちの祖先がポカをやったばかりに追加で300年もブラック企業で勤務させられただなんて!
今すぐ会って土下座したい気持ちになりながらも、キャスリーンの話をジッと聞き入った。
「詳しい話は森についてから。書物を見れば何をすべきかわかるだろう。私が説明するよりも早い。それより先に今代の様子を…」
「う、うん。どんな感じなの?」
キャスリーンはフリフリと首を横に振った。
「とても良い状態だとは言えない。ちょうど1ヶ月前だったか。彼が目を覚したのは。君達はまだたどり着いていない頃だったとは思うが、彼は目を覚ました。そして、仕事をしようと森に出てきて次代として働く私を見つけてびっくりしていた。それと同時に自分の証を確認していたよ。ただ、まだ完全に薄くなっていないことに気がつくと、私に説明を求めてきた」
「そうだよね」
「森からの慈悲で眠らされていたこと、先に次代の守り手である私が代わりに仕事をしていたこと。残り2人が辿り着いた頃に任期がおそらく終わるだろう。そう伝えれば彼は涙をポロポロと流していた」
キャスリーンはそのことを思い出してか、悲しそうに微笑んだ。
「それでも彼の心は限界でね。任期が終わることがわかっても希望が見出せなかったようだ。私と共に森で仕事ができる日もあれば、起き上がることができず食事もできない日もあった。そんな日々が続いた。そして、君達が知っている通り、ある日人型のベルナール様が現れたんだ」
「ふむ」
「その時のことは割愛するが、彼はベルナール様を見てとても驚いていたと同時に〈懐かしい懐かしい。母親とよく似ている〉と泣いた。そして、その日にベルナール様から君達の話を聞いてしばらくすると、彼の瞳に光が戻り始めたんだ」
「やっと任期の終わりを実感したのかな?」
「そうかもしれない。ただ、ベルナール様が何かをされた様な気もする」
そういってキャスリーンはベルナールに目線を向けた。ベルナールはカラスのままニコッと微笑むだけで何も言うつもりはないようだ。
「と、まあ。こんな感じだ。森につき次第、まずは彼に会ってもらいたいと思う。良いかな?」
「うん。もちろん。ちなみに私達は二階建てに住むんだよね?」
「もちろんだ。個室も人数分あったし、水回りや調理場など機能はほぼ現代と同じだった。不自由なく暮らせている」
「おー、いいじゃん!楽しみだなあ、4人で暮らすの」
私はうふふふっと笑って窓の外を眺めた。
キャスリーンはそれを見て優しく微笑んでいる。
ケイレブはいつの間にか寝ていたようだ。キャスリーンの膝上でプープーいびきをかいていた。
ベルナールは笑顔のまま、私の頬にカラスの頭を擦り付けていた。
一晩だけ馬車の中で寝泊まりして移動すれば、次の日の昼頃には入り口に着いた。馬車が目撃されない場所に降り立ち、魔石布を取り除いたらそのままその馬車は放置した。
大丈夫!丈夫なやつなのでね。誰かが見つけて使ってくれるでしょう。
森の入り口はパッと見、入り口だとわからない。生い茂った木や草が群れをなしているからだ。
ただ、私達の目には他の人には見えない光が見えた。その光を辿って草をかき分けて中に入ると。
目の前に広がったのは一面の銀世界だった。
その知らせを聞いて、現皇帝陛下は泣いて喜んだそうだ。まあ、この国におかわりがくる可能性が減ったからね、そりゃね。
森への入り口に進むには、馬車で3日はかかるそうだ。でも、私達には空飛ぶ馬車がある。
キャスリーンは今代の守り手を心配している様子だが、屋敷にいる間は特にその話をしてこない。この場では話せない何かがあるようだ。馬車の中で聞けばいいだろう。
ホープ伯爵には隠し球の馬車で行くので、車体だけ用意してもらうように頼んだ。前のやつ?収納に入れるには大きいから、乗り捨ててました!
あとは森に入ってからの生活必需品、新しい服やら下着類、食料などを買い込んだ。
衣類についてはやけにキャスリーンがこだわった。伯爵の屋敷に首都にいる有名な服屋さん達を呼びつけてありとあらゆる布を吟味。デザインも吟味。あーでもないこーでもないと振り回される服屋のおじさんやおばさん達。
キャスリーンがとても真剣だったから口を挟まなかったが、そんなのいるかなぁ?というものも用意を始めるし…。あれやこれや注文、出来上がりはなるはやで!ってされてる服屋のおじさん達の顔色は悪かった。おばさん達は、インスピレーションをもらったとかで逆に生き生きしてた。
なんだかんだあって旅立ちの準備が終わったのは、私が人に戻って5日後だった。
「姫様。どうかお元気で」
「ああ。すまないな。別れの挨拶を其方だけにするだなんて我が儘をさせてもらって」
「いえいえ。その方が良いのです。大々的にすればするほど、姫様も寂しくなるでしょうから」
「うん…」
空飛ぶ馬車が出発するのはホープ伯爵の敷地内からだ。屋敷の使用人達や執事のクリスさん、ホープ伯爵だけでの見送りになった。
キャスリーンは皇族たちに負い目を感じているようで、事態を収束させてからは屋敷に篭りっきりになっていた。それを見て、ホープ伯爵が現皇帝陛下に掛け合い、別れの挨拶等を省いて見送りは伯爵だけにすると伝えたようだ。
彼女の兄は妹の心を想って、ホープ伯爵の言葉に頷いたそうだ。
馬車の前でみんなで並びつつ、キャスリーン達の別れを眺めていればクリスさんがこちらに近寄ってきた。
「エヴィ様、ケイレブ様。これは皆からのほんの気持ちでございます。受け取っていただけませんか?」
「え?」
私の隣で狼の姿でちょこんと座るケイレブと一緒に手渡された籠の中を見てみれば、そこには金狼・白狼・黒カラスを模した手編みのぬいぐるみ、カラスと金狼と白髪の女の子が刺繍が施されたハンカチ、あとケイレブが好きな肉料理のお弁当だった。
「可愛い」
「お二人が狼の姿で戯れる様を残したいと、使用人たちが作ってしまったものでして…」
困ったような顔になりつつクリスさんが後ろにいる人たちに目を向ければ、彼らはアセアセとした様子で懐からぬいぐるみやハンカチを取り出して「テヘッ」とした顔になった。
「ああ。自分たちで楽しむ分にはいいですよ。ただ、周りに広めないようにだけしてください」
「はい!かしこまりました」
私の言葉に使用人達は嬉しそうに声を上げた。さりげなくクリスさんのジャケットには真っ黒カラスのブローチが付いている。黒いジャケットに黒いカラス。色で存在が紛れているのだが、クリスさんは満足そうだ。
ベルナールは私の肩の上でそのブローチを見ていたが、特に何も言わなかった。
それぞれ別れの挨拶を済ませ、馬車に乗り込む。ケイレブは馬車に乗り込むとすぐに人化してキャスリーンを隣に座らせてご満悦だ。しかも膝枕までしてもらっている。窓から見えないように隠れるためと理由を述べていたが、ただしてもらいたいだけなのは明白だった。
キャスリーンは困った顔をしつつも嫌ではないようで、懐いているケイレブの頭を優しく撫でて微笑んでいた。
ベルナールは私の肩にいる。カーテンを開けて窓から2人で顔を出せば、伯爵宅の皆様が心配そうな顔でまだ見つめてきていた。
「皆さん。お世話になりました。行ってきます」
「あ、ああ。気をつけてな。そうだ。森に伴侶の許可をもらう際に…入り口に皆への贈り物を置いてもいいかい?」
「え?ええ、いいけど…。でも、それを形式化しないで欲しいかな。伯爵様だけがさりげなくするってことで」
「ああ。もちろんだ。私が死んだら無くなると思ってくれ」
「うん。ちょっとは運動しないと長生きできないよ!プニプニのお肉を減らさなきゃ!」
「はぁ。君は最後まで心の声が口からよく出る。わかっておる。健康に気をつけて長生きし、君達になるべく長く贈り物を届けよう!」
「ふふ。お願いね!じゃあ、行ってきます」
私は声をかけてすぐに頭をひっこませた。浮遊の魔石を起動させ、少しずつ浮上させていく。
キャスリーンは窓からぴょこっと顔を出すと、何も言わずに笑顔で手を振った。
ホープ伯爵も屋敷の人々も同じように笑顔で手を振っている。
彼らにニポニテの皆のように《記録》は渡さなかった。残しておけば、また何かの争いに使われる可能性もあるからだ。
ベルナールが外に出て認識阻害の布を馬車につけた。
もう彼らにはこの馬車は見えない。
それなのに、彼らは米粒ほどの大きさになるまでずっと手を振っていた。
森に向かう間。しばらく皆は無言だった。
だが、その沈黙を破るようにキャスリーンが話し始めた。
「今代の守り手様は500年、任務についている」
「え!?」
500年ということは、我が国の例の事件前から守り手であるということだ。私はサァァッと顔を青ざめさせつつ、キャスリーンの話の続きを聞き入った。
「心が…もう壊れる寸前のようでな。私が早くに森に呼ばれたのは、実は彼のためなんだ」
「…そうだったんだ…」
「ああ。私が1人で森に向かおうと城を出てすぐだ。プカプカと浮く球体に出会った。その球体を眺めて瞬きをした瞬間、私は森の中へ移動していた」
「それってまさか…」
私の言葉に同意するようにキャスリーンは頷いた。
「球体は森の声を伝えるもののようでな。私が移動させられたのは一軒の二階建ての家の前だった。木で出来た家だったが、可愛らしい装飾もある美しい家でね。庭には畑、少し離れた場所には家畜小屋。あとは広場のような場所もあるところだった。まるで、夫婦と子供が一緒に豊かに住めそうな住まいだ」
「へ、へえ…」
急にスケールの大きな展開に私が唖然としつつも、彼女は話を続けた。
「球体は男でも女でもない声で言った。〈今代を守れ。この森での暮らし方については書物を用意した。それを見れば自ずとわかるだろう〉と」
「け、けっこう。投げやりね…。まあ、引き継ぎをする今代が調子悪いなら仕方ないか」
「うむ。私は本を少し読んでから、すぐに今代の家に向かった。彼は平屋の古い木の家に住んでいた。扉を叩いても返事がない。私はすぐに扉を突き破って、部屋に入った」
「お姫様なのにやることがパワフルなのよ…」
「ふふ。幼き頃から鍛えた体には自信があるからね。まあ、そして部屋を探したら彼は寝室で静かに眠っていた」
「…なるほど」
その時を思い出すかのようにキャスリーンは少し上を眺めながら話をした。
「するとまた球体が現れた。半年以内に君達がたどり着く。それまでは彼を眠らせて欲しい。その代わり本に書かれた通りに仕事をしてくれと。そういって消えて行った」
「なんか、ブラック企業の匂いするー。この会社(森)、大丈夫かしら」
私がボヤボヤと呟けば、単語の意味がわからないキャスリーンは困った顔をしつつ首を傾げていた。
『ご主人様。しかし、それが守り手なのです』
ベルナールは静かに首を横っ振っていた。
「えー、守り手ってもしかして…(社畜なの?)」
心の声は出さないような呟けば、キャスリーンは別の意味で受け取ったようだ。ウンッと頷くと神妙な顔で話した。
「守り手は私達が思っているような、綺麗な仕事ではない。この世界の穢れを祓う存在のようだ。今代はヨドミと言っていた」
その穢れを(社畜仕事を)ずっと今の人は祓って(して)いたということであれば、心が病んでも仕方ないかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいなる。
「…それを500年もしたんだよね?」
つらそうな声で話せば、キャスリーンも小さく頷いた。
「ああ」
今代さん、本当に申し訳ない。200年程度(それでも長いが)で終わったはずなのに、うちの祖先がポカをやったばかりに追加で300年もブラック企業で勤務させられただなんて!
今すぐ会って土下座したい気持ちになりながらも、キャスリーンの話をジッと聞き入った。
「詳しい話は森についてから。書物を見れば何をすべきかわかるだろう。私が説明するよりも早い。それより先に今代の様子を…」
「う、うん。どんな感じなの?」
キャスリーンはフリフリと首を横に振った。
「とても良い状態だとは言えない。ちょうど1ヶ月前だったか。彼が目を覚したのは。君達はまだたどり着いていない頃だったとは思うが、彼は目を覚ました。そして、仕事をしようと森に出てきて次代として働く私を見つけてびっくりしていた。それと同時に自分の証を確認していたよ。ただ、まだ完全に薄くなっていないことに気がつくと、私に説明を求めてきた」
「そうだよね」
「森からの慈悲で眠らされていたこと、先に次代の守り手である私が代わりに仕事をしていたこと。残り2人が辿り着いた頃に任期がおそらく終わるだろう。そう伝えれば彼は涙をポロポロと流していた」
キャスリーンはそのことを思い出してか、悲しそうに微笑んだ。
「それでも彼の心は限界でね。任期が終わることがわかっても希望が見出せなかったようだ。私と共に森で仕事ができる日もあれば、起き上がることができず食事もできない日もあった。そんな日々が続いた。そして、君達が知っている通り、ある日人型のベルナール様が現れたんだ」
「ふむ」
「その時のことは割愛するが、彼はベルナール様を見てとても驚いていたと同時に〈懐かしい懐かしい。母親とよく似ている〉と泣いた。そして、その日にベルナール様から君達の話を聞いてしばらくすると、彼の瞳に光が戻り始めたんだ」
「やっと任期の終わりを実感したのかな?」
「そうかもしれない。ただ、ベルナール様が何かをされた様な気もする」
そういってキャスリーンはベルナールに目線を向けた。ベルナールはカラスのままニコッと微笑むだけで何も言うつもりはないようだ。
「と、まあ。こんな感じだ。森につき次第、まずは彼に会ってもらいたいと思う。良いかな?」
「うん。もちろん。ちなみに私達は二階建てに住むんだよね?」
「もちろんだ。個室も人数分あったし、水回りや調理場など機能はほぼ現代と同じだった。不自由なく暮らせている」
「おー、いいじゃん!楽しみだなあ、4人で暮らすの」
私はうふふふっと笑って窓の外を眺めた。
キャスリーンはそれを見て優しく微笑んでいる。
ケイレブはいつの間にか寝ていたようだ。キャスリーンの膝上でプープーいびきをかいていた。
ベルナールは笑顔のまま、私の頬にカラスの頭を擦り付けていた。
一晩だけ馬車の中で寝泊まりして移動すれば、次の日の昼頃には入り口に着いた。馬車が目撃されない場所に降り立ち、魔石布を取り除いたらそのままその馬車は放置した。
大丈夫!丈夫なやつなのでね。誰かが見つけて使ってくれるでしょう。
森の入り口はパッと見、入り口だとわからない。生い茂った木や草が群れをなしているからだ。
ただ、私達の目には他の人には見えない光が見えた。その光を辿って草をかき分けて中に入ると。
目の前に広がったのは一面の銀世界だった。
11
あなたにおすすめの小説
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
企業再生のプロ、倒産寸前の貧乏伯爵に転生する
namisan
ファンタジー
数々の倒産寸前の企業を立て直してきた敏腕コンサルタントの男は、過労の末に命を落とし、異世界で目を覚ます。
転生先は、帝国北部の辺境にあるアインハルト伯爵家の若き当主、アレク。
しかし、そこは「帝国の重荷」と蔑まれる、借金まみれで領民が飢える極貧領地だった。
凍える屋敷、迫りくる借金取り、絶望する家臣たち。
詰みかけた状況の中で、アレクは独自のユニーク魔法【構造解析(アナライズ)】に目覚める。
それは、物体の構造のみならず、組織の欠陥や魔法術式の不備さえも見抜き、再構築(クラフト)するチート能力だった。
「問題ない。この程度の赤字、前世の案件に比べれば可愛いものだ」
前世の経営知識と規格外の魔法で、アレクは領地の大改革に乗り出す。
痩せた土地を改良し、特産品を生み出し、隣国の経済さえも掌握していくアレク。
そんな彼の手腕に惹かれ、集まってくるのは一癖も二癖もある高貴な美女たち。
これは、底辺から這い上がった若き伯爵が、最強の布陣で自領を帝国一の都市へと発展させ、栄華を極める物語。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています
浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】
ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!?
激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。
目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。
もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。
セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。
戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。
けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。
「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの?
これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、
ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。
※小説家になろうにも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる