【完結】守り手になるので呪いを解いてください!

あさリ23

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旅の終わり?

レッツらゴー!

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 次の日の昼頃に私は人間に戻れた。

 その知らせを聞いて、現皇帝陛下は泣いて喜んだそうだ。まあ、この国におかわりがくる可能性が減ったからね、そりゃね。

 森への入り口に進むには、馬車で3日はかかるそうだ。でも、私達には空飛ぶ馬車がある。

 キャスリーンは今代の守り手を心配している様子だが、屋敷にいる間は特にその話をしてこない。この場では話せない何かがあるようだ。馬車の中で聞けばいいだろう。

 ホープ伯爵には隠し球の馬車で行くので、車体だけ用意してもらうように頼んだ。前のやつ?収納に入れるには大きいから、乗り捨ててました!

 あとは森に入ってからの生活必需品、新しい服やら下着類、食料などを買い込んだ。

 衣類についてはやけにキャスリーンがこだわった。伯爵の屋敷に首都にいる有名な服屋さん達を呼びつけてありとあらゆる布を吟味。デザインも吟味。あーでもないこーでもないと振り回される服屋のおじさんやおばさん達。

 キャスリーンがとても真剣だったから口を挟まなかったが、そんなのいるかなぁ?というものも用意を始めるし…。あれやこれや注文、出来上がりはなるはやで!ってされてる服屋のおじさん達の顔色は悪かった。おばさん達は、インスピレーションをもらったとかで逆に生き生きしてた。

 なんだかんだあって旅立ちの準備が終わったのは、私が人に戻って5日後だった。



「姫様。どうかお元気で」

「ああ。すまないな。別れの挨拶を其方だけにするだなんて我が儘をさせてもらって」

「いえいえ。その方が良いのです。大々的にすればするほど、姫様も寂しくなるでしょうから」

「うん…」

 空飛ぶ馬車が出発するのはホープ伯爵の敷地内からだ。屋敷の使用人達や執事のクリスさん、ホープ伯爵だけでの見送りになった。

 キャスリーンは皇族たちに負い目を感じているようで、事態を収束させてからは屋敷に篭りっきりになっていた。それを見て、ホープ伯爵が現皇帝陛下に掛け合い、別れの挨拶等を省いて見送りは伯爵だけにすると伝えたようだ。

 彼女の兄は妹の心を想って、ホープ伯爵の言葉に頷いたそうだ。

 馬車の前でみんなで並びつつ、キャスリーン達の別れを眺めていればクリスさんがこちらに近寄ってきた。

「エヴィ様、ケイレブ様。これは皆からのほんの気持ちでございます。受け取っていただけませんか?」

「え?」

 私の隣で狼の姿でちょこんと座るケイレブと一緒に手渡された籠の中を見てみれば、そこには金狼・白狼・黒カラスを模した手編みのぬいぐるみ、カラスと金狼と白髪の女の子が刺繍が施されたハンカチ、あとケイレブが好きな肉料理のお弁当だった。

「可愛い」

「お二人が狼の姿で戯れる様を残したいと、使用人たちが作ってしまったものでして…」

 困ったような顔になりつつクリスさんが後ろにいる人たちに目を向ければ、彼らはアセアセとした様子で懐からぬいぐるみやハンカチを取り出して「テヘッ」とした顔になった。

「ああ。自分たちで楽しむ分にはいいですよ。ただ、周りに広めないようにだけしてください」

「はい!かしこまりました」

 私の言葉に使用人達は嬉しそうに声を上げた。さりげなくクリスさんのジャケットには真っ黒カラスのブローチが付いている。黒いジャケットに黒いカラス。色で存在が紛れているのだが、クリスさんは満足そうだ。

 ベルナールは私の肩の上でそのブローチを見ていたが、特に何も言わなかった。

 それぞれ別れの挨拶を済ませ、馬車に乗り込む。ケイレブは馬車に乗り込むとすぐに人化してキャスリーンを隣に座らせてご満悦だ。しかも膝枕までしてもらっている。窓から見えないように隠れるためと理由を述べていたが、ただしてもらいたいだけなのは明白だった。

 キャスリーンは困った顔をしつつも嫌ではないようで、懐いているケイレブの頭を優しく撫でて微笑んでいた。

 ベルナールは私の肩にいる。カーテンを開けて窓から2人で顔を出せば、伯爵宅の皆様が心配そうな顔でまだ見つめてきていた。

「皆さん。お世話になりました。行ってきます」

「あ、ああ。気をつけてな。そうだ。森に伴侶の許可をもらう際に…入り口に皆への贈り物を置いてもいいかい?」

「え?ええ、いいけど…。でも、それを形式化しないで欲しいかな。伯爵様だけがさりげなくするってことで」

「ああ。もちろんだ。私が死んだら無くなると思ってくれ」

「うん。ちょっとは運動しないと長生きできないよ!プニプニのお肉を減らさなきゃ!」

「はぁ。君は最後まで心の声が口からよく出る。わかっておる。健康に気をつけて長生きし、君達になるべく長く贈り物を届けよう!」

「ふふ。お願いね!じゃあ、行ってきます」

 私は声をかけてすぐに頭をひっこませた。浮遊の魔石を起動させ、少しずつ浮上させていく。

 キャスリーンは窓からぴょこっと顔を出すと、何も言わずに笑顔で手を振った。

 ホープ伯爵も屋敷の人々も同じように笑顔で手を振っている。

 
 彼らにニポニテの皆のように《記録》は渡さなかった。残しておけば、また何かの争いに使われる可能性もあるからだ。

 ベルナールが外に出て認識阻害の布を馬車につけた。

 もう彼らにはこの馬車は見えない。

 それなのに、彼らは米粒ほどの大きさになるまでずっと手を振っていた。


 森に向かう間。しばらく皆は無言だった。

 だが、その沈黙を破るようにキャスリーンが話し始めた。

「今代の守り手様は500年、任務についている」

「え!?」

 500年ということは、我が国の例の事件前から守り手であるということだ。私はサァァッと顔を青ざめさせつつ、キャスリーンの話の続きを聞き入った。

「心が…もう壊れる寸前のようでな。私が早くに森に呼ばれたのは、実は彼のためなんだ」

「…そうだったんだ…」

「ああ。私が1人で森に向かおうと城を出てすぐだ。プカプカと浮く球体に出会った。その球体を眺めて瞬きをした瞬間、私は森の中へ移動していた」

「それってまさか…」

 私の言葉に同意するようにキャスリーンは頷いた。

「球体は森の声を伝えるもののようでな。私が移動させられたのは一軒の二階建ての家の前だった。木で出来た家だったが、可愛らしい装飾もある美しい家でね。庭には畑、少し離れた場所には家畜小屋。あとは広場のような場所もあるところだった。まるで、夫婦と子供が一緒に豊かに住めそうな住まいだ」

「へ、へえ…」

 急にスケールの大きな展開に私が唖然としつつも、彼女は話を続けた。

「球体は男でも女でもない声で言った。〈今代を守れ。この森での暮らし方については書物を用意した。それを見れば自ずとわかるだろう〉と」

「け、けっこう。投げやりね…。まあ、引き継ぎをする今代が調子悪いなら仕方ないか」

「うむ。私は本を少し読んでから、すぐに今代の家に向かった。彼は平屋の古い木の家に住んでいた。扉を叩いても返事がない。私はすぐに扉を突き破って、部屋に入った」

「お姫様なのにやることがパワフルなのよ…」

「ふふ。幼き頃から鍛えた体には自信があるからね。まあ、そして部屋を探したら彼は寝室で静かに眠っていた」

「…なるほど」

 その時を思い出すかのようにキャスリーンは少し上を眺めながら話をした。

「するとまた球体が現れた。半年以内に君達がたどり着く。それまでは彼を眠らせて欲しい。その代わり本に書かれた通りに仕事をしてくれと。そういって消えて行った」

「なんか、ブラック企業の匂いするー。この会社(森)、大丈夫かしら」

 私がボヤボヤと呟けば、単語の意味がわからないキャスリーンは困った顔をしつつ首を傾げていた。

『ご主人様。しかし、それが守り手なのです』

 ベルナールは静かに首を横っ振っていた。

「えー、守り手ってもしかして…(社畜なの?)」

 心の声は出さないような呟けば、キャスリーンは別の意味で受け取ったようだ。ウンッと頷くと神妙な顔で話した。

「守り手は私達が思っているような、綺麗な仕事ではない。この世界の穢れを祓う存在のようだ。今代はヨドミと言っていた」

 その穢れを(社畜仕事を)ずっと今の人は祓って(して)いたということであれば、心が病んでも仕方ないかもしれない。申し訳ない気持ちでいっぱいなる。

「…それを500年もしたんだよね?」

 つらそうな声で話せば、キャスリーンも小さく頷いた。

「ああ」

 今代さん、本当に申し訳ない。200年程度(それでも長いが)で終わったはずなのに、うちの祖先がポカをやったばかりに追加で300年もブラック企業で勤務させられただなんて!

 今すぐ会って土下座したい気持ちになりながらも、キャスリーンの話をジッと聞き入った。

「詳しい話は森についてから。書物を見れば何をすべきかわかるだろう。私が説明するよりも早い。それより先に今代の様子を…」

「う、うん。どんな感じなの?」

 キャスリーンはフリフリと首を横に振った。

「とても良い状態だとは言えない。ちょうど1ヶ月前だったか。彼が目を覚したのは。君達はまだたどり着いていない頃だったとは思うが、彼は目を覚ました。そして、仕事をしようと森に出てきて次代として働く私を見つけてびっくりしていた。それと同時に自分の証を確認していたよ。ただ、まだ完全に薄くなっていないことに気がつくと、私に説明を求めてきた」

「そうだよね」

「森からの慈悲で眠らされていたこと、先に次代の守り手である私が代わりに仕事をしていたこと。残り2人が辿り着いた頃に任期がおそらく終わるだろう。そう伝えれば彼は涙をポロポロと流していた」

 キャスリーンはそのことを思い出してか、悲しそうに微笑んだ。

「それでも彼の心は限界でね。任期が終わることがわかっても希望が見出せなかったようだ。私と共に森で仕事ができる日もあれば、起き上がることができず食事もできない日もあった。そんな日々が続いた。そして、君達が知っている通り、ある日人型のベルナール様が現れたんだ」

「ふむ」

「その時のことは割愛するが、彼はベルナール様を見てとても驚いていたと同時に〈懐かしい懐かしい。母親とよく似ている〉と泣いた。そして、その日にベルナール様から君達の話を聞いてしばらくすると、彼の瞳に光が戻り始めたんだ」

「やっと任期の終わりを実感したのかな?」

「そうかもしれない。ただ、ベルナール様が何かをされた様な気もする」

 そういってキャスリーンはベルナールに目線を向けた。ベルナールはカラスのままニコッと微笑むだけで何も言うつもりはないようだ。

「と、まあ。こんな感じだ。森につき次第、まずは彼に会ってもらいたいと思う。良いかな?」

「うん。もちろん。ちなみに私達は二階建てに住むんだよね?」

「もちろんだ。個室も人数分あったし、水回りや調理場など機能はほぼ現代と同じだった。不自由なく暮らせている」

「おー、いいじゃん!楽しみだなあ、4人で暮らすの」

 私はうふふふっと笑って窓の外を眺めた。

 キャスリーンはそれを見て優しく微笑んでいる。

 ケイレブはいつの間にか寝ていたようだ。キャスリーンの膝上でプープーいびきをかいていた。

 ベルナールは笑顔のまま、私の頬にカラスの頭を擦り付けていた。


 一晩だけ馬車の中で寝泊まりして移動すれば、次の日の昼頃には入り口に着いた。馬車が目撃されない場所に降り立ち、魔石布を取り除いたらそのままその馬車は放置した。

 大丈夫!丈夫なやつなのでね。誰かが見つけて使ってくれるでしょう。

 森の入り口はパッと見、入り口だとわからない。生い茂った木や草が群れをなしているからだ。

 ただ、私達の目には他の人には見えない光が見えた。その光を辿って草をかき分けて中に入ると。


 目の前に広がったのは一面の銀世界だった。
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