須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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また勉強会

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「なのでここの公式が当てはまるということです。」

「本当だ。 これを当てはめたら、すぐに答えに導き、出せたよ。」

「館君、ここは何を書けば正しいかな?」

「どれどれ? あーこれはね、ここに似たようなものがあるから・・・」


 期末テストも近づいてきた放課後。 前のようにみんなで勉強をしあっていた。 ちなみに今日いるのは僕、坂内君、円藤さん、江ノ島さんだ。


 安見さんは今日は家族でやることがあるらしく、早々に帰っていった。 因みに勉強を教えようと誘った小舞君と濱井さんは「一度は自分の力で頑張って勉強してみる」と言って帰っていった。 本当に勉強するのかな?と思いつつも見送ったので、彼らを信じてみることにした。


 そんなわけでいつものメンバーとしてもかなり少ない状態で勉強会をしていた。


「前回のテストの上位者に勉強を教えてもらえる機会は、やっぱり大事だね。 僕一人ではここまで勉強は出来なかったかもしれなかったかもしれないからね。」

「やる気の問題ですよ坂内君。 今回は頑張るんですよね。」

「うむ。 前回のような慢心はしないつもりだ。 今回は自分に厳しくしていく所存だ。」


 そこまで意気込まなくても大丈夫なのではないかな? あんまり詰め込みすぎるとむしろ頭に入らない・・・なんて言おうかと思ったけれど、下手に言わない方が坂内君の為になるだろう。


「館さん・・・今、いいですか?」


 そんな風に見ていると円藤さんがノートを持って、僕に声をかけてきた。


「どうしたの? 円藤さん。」

「えっと、こ、ここなんです、けど、計算式、あっています、か?」

「僕もあんまり数学は得意じゃないんだけど・・・どれどれ? あー答えはあってるけど、計算式が少し違うかな。 ここをこうして・・・」


 そう言ってノートに書いてある計算式を指差しながら説明をしていく。 安見さん程ではないにしても、人に教えれる程度には勉強をしているので、多分大丈夫だろう。


「これを当てはめれば、この答えに・・・円藤さん?」


 なかなか声が返ってこないと思って、円藤さんの方を見ると、ノートの方ではなく、僕の方を見ていた。 顔はノートの方を向いているのに、目線は僕に向いている。 そんな具合だった。 目線があった途端に何かを思い出したかのようにノートを見る円藤さん。


「す、すみません。 館さんに、やらせて、しまって。 あ、そ、そうやってやれば、よかったの、ですね。 つ、次の問題は、自分で、出来ますので。 ありがとうございます。」


 そう言って距離を取っていった円藤さん。 なにか気に触るような事をしてしまっただろうか?


「館君。 円藤さんがなにをしていたのか分かっていないという表情をしているよ?」

「実際に分からないんだけどもね。 僕の顔になにかついてたのかな?」

「そういうことではないと思うよ。 館君自身の問題でもある感じはあるけれど。」

「え? それってどういう・・・」

「私からはあまり言えないな。 ところで館君。 ここの問題なのだけれど・・・」


 坂内君が何かを言おうとしているのは分かったけれど何故か濁されてしまった。 さすがの僕でも坂内君が考えていることは分からなかった。



「そろそろ最終下校時刻になりますね。」


 江ノ島さんがそう言ったので教室の時計を見てみると、短い針は7時を指そうとしていた。 一応陽が出ているうちに下校させるというのが学校の方針なのだけれど、そこまでの時間ずっと熱心に勉強をしていたということになる。 良くできたな。


「じゃあ僕らも帰ろう・・・」


 そう言ったとき気付いた。 円藤さんが机で突っ伏している事に。


「え? 円藤さんどうしたの?」

「すみません、途中で眠くなっちゃったようで、寝てしまったみたいなんです。」


 隣にいた江ノ島さんがそう説明する。 勉強の気疲れだろうか? とにかくこのままでは帰ることが出来ない。 しかし寝ている人を起こすのはあまり相手の事を考えていないように思える。


「江ノ島さん。 円藤さんって家ってどの辺り?」

「え? ええっと、確か学校の最寄り駅から4つ先の駅だったような気がしますが、館さんの方とは逆方向なので。 あ、私もそちらの方面なので駅に着いたら、私が見ます。」


 それなら問題は駅までってところかな? 丁度今日は雨が降ってない日だから、安心だ。


「江ノ島さん。 円藤さんをおんぶするから、椅子を動かしてくれないかな?」

「館さん。 おんぶするよりもいい方法がありますよ?」

「ほんと? どんな?」

「私が言う通りに動いてください。 館くんは右利きですか?」

「うん。 右利きだよ。」

「ならば右腕を加奈美さんの背中越しに反対の脇の下にもっていって下さい。」

「こうかな?」


 そんな風に動いたからか、円藤さんの寝顔を至近距離で見てしまう。 そのゆったりとして、まるで子供のように眠る円藤さんは、どこか上品さを感じた。


「では次に左腕を膝裏を乗せるように下から潜らせてください。」

「うん。」

「・・・・・・ん?」

 江ノ島さんの言う通り体を動かしていると坂内君が不思議そうな声を出した。


「ではその体制のまま、円藤さんを持ち上げてください。」

「うん。 よっこいしょ。」


 持ち上げたときに分かったのだが、意外と(と言えば失礼になるのかな?)軽かった。 背が低い分体重が軽い・・・


「ねぇ江ノ島さん。」

「なんでしょう? 館さん。」

「この姿勢、意図してやらせたでしょ?」

「加奈美も寝てるし、よろしいかなと思ったまでです。」


 そう、持ち上げて気が付いた。 僕が今している行動は「お姫様だっこ」のやり方だった。 流された僕も悪いかもしれないけれど、なんというか、これは・・・


「外では出来ないような気がするんだけど。」

「私と坂内君で前後をガードしますので、安心してください。」


 安心・・・出来るのかな?


 その後結局、駅に着くまでは、僕は円藤さんをお姫様だっこしながら歩くしかなかった。 このままもう一度下ろすのは可哀想だなとか、江ノ島さんの策略にはまっちゃったなとか、そんなのを考えるのはもう諦めた。 やってしまったのは僕だと、自分自身で後悔しないように思うしか無くなっていた。

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