須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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テスト終わりは

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もうすぐ7月が始まりそうな暑さの中、教室は時計の針が聞こえるのみで、後は静かだった。 今は期末テスト最後の教科に取り組んでいる。 テストの答案用紙を見返す人、まだ解いている人、寝ている人。 様々な思いが交差している教室。 そしてその静寂は、テストの終わりを告げるチャイムという形で破られる。


「はい、ではこれにて期末テストは終了となります。 では答案用紙を回収してきて下さい。」


 その先生の声に安堵する人、喜びを爆発させる人、色んな人が先程までの静寂とは裏腹に、教室は一気に騒がしくなる。


 先生が回答用紙を回収し、教室をさると、その後はもう授業もないので、そのまま教室を出る人が多かったが、残りは教室で残っている人だ。 因みに僕もその一人。何故なら


「よっしゃ! 館! 夏休みの予定組むぞ!」


 小舞君の異様なテンションの中、僕らは集まった。 本当はこの後に部活に参加するのだが、それも午後からなので時間をもて余す位ならという勢いだ。 みんなも嫌な顔ひとつせずに集まっていた。


「予定・・・と言われましてもどのような予定があるか、分からないのですが。」


 最初に意見を出したのは江ノ島さんだ。 確かに漠然と予定を組むよりはなにかイベントありきで考えた方が取り組みやすい。


「イベント・・・たしか7月の末に河川敷で花火大会が開かれるそうだ。 かなり近場ではあるし、屋台も出るようなので、かなり大掛かりなイベントと言えよう。」

「うーん。 7月に花火って、ちょっと早く感じちゃうけれど、風物詩としては十分よね。 まずはそこで予定を組んでおく?」

「そうですね。 大人数ともなれば、はぐれても連絡のとりようはいくらでもありますし。」


 そういって安見さんはスマホを取り出す。 まあ、集合場所さえ決めておけば、それも要らなくなるかもだけど。


「後はプールか海行きたいよね! 夏と言えばそれでしょ!」


 濱井さんが凄く高いテンションでそう言ってくる。 確かに夏を満喫するには一番いい。 いいのだが・・・


「・・・この中で泳ぎが苦手な人っている?」


 そう質問をすると、坂内君、円藤さん、江ノ島さんが手を挙げた。 やっぱり泳げない人がいるよね。


「人に見せられるような泳ぎは出来ないだけだ。 私の場合は。」

「水の中はあまり好きではないです。」

「・・・ごめんなさい。」


 三者三様に声があがる。 その辺に関しては追及するきもないし糾弾もしない。 別に泳ぐだけが楽しみではないのだから、問題はないだろう。


「じゃあとりあえずはその2つのイベントをみんなで過ごすって形にすればいいのかな?」

「プールならともかく、海にするならば、どこか旅行感覚で行ってみないかい? 少しの遠出でも、気分はまた別物になると思う。」

「おー、いいじゃんか。 みんなでお泊まりとかしてな。 やっべ! 夏休みはまだ先なのに今からが楽しみでしょうがないぜ!」

「他に誰かお呼びになられますか? せっかくですし、人数は多い方が良いかと。」

「それなら佐渡君も呼ぼうよ。 そうすれば人数も丁度よくなるし。」


 みんなでワイワイと夏休みの予定を決めるのはとても楽しい。 中学の時の僕だったら、まずあり得ない光景だったと思う。


「館君、とても楽しそうですね。」

「あ、分かる? なんだかワクワクしてきちゃってさ。」

「館君は意外と表情が読みにくいですからね。 でも今はとても楽しそうな顔をしていますよ。」


 自分では分からないけれど、そんなににやついているだろうか? 自分で自分の頬を触ってみるが、さすがに分からない。


「そんなに口角上がってる?」

「そこまで大袈裟には上がってませんよ?」

「・・・よくそれで僕が楽しそうだって分かったね。」

「そこはなんというか、オーラというか、楽しそうだなって言うのが滲み出ているというか・・・」

「つまりはなんとなく?」

「なんとなくです。」


 なんだか期待して損した。 でも実際に表情が乏しいというのは事実かもしれない。 喜怒哀楽が無いわけではないが、自分でも表情筋がないのかと言う位、顔の変化が分からない。


「少し位は笑顔の練習とかした方がいいのかな?」

「印象を良くするには必要かもしれませんが、館君にはそれはむしろ要らないかもしれないですよ?」

「笑ってない方がいいの?」

「むしろにっこにこの館君は想像が出来ません。」


 そこまでいいますか。 まあ自分でもそんなの気持ちが悪いだろうなとは思うけれども。


「私はそのままの館君が好きですよ?」


 その言葉と柔らかそうな笑顔にドキッとさせられる。 そんな思いにふけていると、安見さんがなにかを思い出したように顔を赤らめる。


「あ、ち、違いますよ!? 今の「好き」というのは、友達としてでして、決して、その、恋愛的なあれではなくて、その・・・」


 なんかいつになく慌てふためている珍しい安見さんを見ている。 でもそこまで慌てることかな? 友達としてって事は分かってるし、そんなに・・・


 ・・・・・・? でもなんで僕はそんな風に思ってるのに寂・し・い・って気持ちになってるんだろ?


「おーい、2人の空間作ってないで、お前らも会話に参加してこいよ。」

「別に2人の仲の良さはなにも言わないけど、少しは場所を考えてくれてもいいんじゃない? 見てるこっちが変な気分になってきちゃうから。」


 小舞君と濱井さんにしてきされ、すぐに切り替えようとするけれど、取り乱した安見さんを元に戻すのは大変だった。 安見さんにとっても失言だったのかもしれない。 次からは彼女の言葉にも気を付けないといけないな。 そう心の奥に決めた僕だった。

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