須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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願ってもない再開

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「離してください! 私は! みんなのところに行かなければいけないんです!」

「そう言うなよな。 中学から離れちまったから、お前の顔ももう拝めないかと思ってたんだ。 しかもこんな風に色気まで出して。」


 私は目の前にいる男子に腕を掴まえれて、後ろの木に押し込まれるような体勢で迫られていました。


 油断していた訳じゃない。 想定出来なかった訳じゃない。 でもまさか、こんな形で彼と再・び・会・う・こ・と・に・なるなんて。


「運命的な出会いって訳じゃないだろうが、こうして二人になれるとは思ってもみなかったぜ?」

「あなたが勝手にそうしただけでしょう!? 離してください!」

「いいじゃねぇか。 俺とお前の仲だろ? なぁ・・・安見?」

「安見さん!」


 その人が迫ってくる前に第三者の声が届く。 その声の人は、全力だったのか息が途切れ途切れになってはいるけれど、はっきりと私の名前を呼んでくれた。


「館君・・・」


 ――――――――――――――――――――――――――


 目の前に広がっている光景は明らかにおかしかった。 安見さんが今まさに目の前の男子になにかされそうな勢いだったからだ。


「あぁん?」


 その振り返った男子は林の中だというのにはっきりと分かるくらいのとんがり金髪でつり目でかなり荒々しい雰囲気が醸し出されていた。


「あんだてめぇ? 安見の知り合いか?」

「そうだよ。」

「・・・安見の彼氏か?」


「違う」と言いたかったところを踏みとどまる。 もしかしたらここで「違う」と言えば、また今の行動を再開しかねないからだ。 だから「違う」という言葉を飲み込んで、


「そうだよ。」

 と一言言った。


「ほぉー。 そうかぁー。 彼氏君かぁー。 随分と好かれてるんだなぁ。 安見みたいな変わり種。 この園路 徳蔵そのみち とくら以外にも魅了を知ってもらえるとは、驚きだ。」


 ねっとりとした言い回しで、こちらを馬鹿にしかしてないような感じだ。 僕の苦手なタイプだ。


「君こそ安見さんのなんなんだい? あんまり良好そうな関係じゃ無さそうだけど?」

「ほぉー。 気になっちゃう? 気になっちゃうぅ?」


 言い回しが完全に頭のイカれたかのような喋り方だ。 聞いているこっちが滅入りそうになる。


「俺と安見は中学から、付き合ってんの。 彼氏彼女の関係な訳さ。」

「あなたとそんな関係になった記憶なんてありません!」

「そう言うなよ安見。 お前の情熱の籠ったあの目、俺は忘れてないんだぜ?」

「私はあなたにそんな視線を送った記憶などありません!」


 珍しく安見さんが激昂している。 あんな安見さん初めてみたかもしれない。


「でも彼氏君も大変じゃない? 彼女、すーぐ寝ちゃうでしょ? だから、楽しいイベントに行っても、萎えちゃうんだよ。 しかも安見こんなんだから、友達も少なくって。 可哀想だと思わない?」


「むしろ僕は今の君の方がよっぽど可哀想に見えるんだけど?」


 そうズバリと言うと目の前の男子、園路君(別に君付けしなくてもいいかな?)はこめかみを「ピクッ」とさせた。


「とにかく安見さんは今僕たちと花火大会を楽しむんだ。 どうも安見さんは君とは関わりたくないようだから、僕らは行かせてもらうよ。」


 そう言って安見さんに近付こうとしたとき。


「あーっ! いいのかなぁ! あの事を話しちゃってもいいのかなぁ!」


 訳の分からないくらい大きな声をあげる園路。 どうでもいいと思っているのでさっさと・・・


「彼氏君には悪いんだけどさぁ。 俺と安見、実は中学の時濃・厚・な・一・夜・を共にしてるんだわ。 こういうのなって言うんだっけ? 一夜の関係? だっけ? ごめんねぇ! 彼女の初・め・て・は俺が貰っちゃったんだ!」


「何をいきなり言い出しているのですか! 大体勝手にそっちが思ってるだけで、私は一切合切思ってないですからね!」

「可哀想に、安見があの夜の事を覚えてないなんて・・・それとも、記憶が飛んじゃうほどだったのかな? はは、俺って本当に安見の事を思ってるんだな。」


 安見さんとなにか言い争っているが、彼の言葉が頭にこべりついてそちらに耳を傾けられる程ではない。 「濃厚な一夜」 「一夜の関係」 「初めて」 全ての言葉が離れない。 けれど、だけれども!


「・・・それがどうしたって言うのさ・・・」


 僕は園路の脇をすり抜けて、安見さんの腕を掴んだ後、そのまま僕の方に引き寄せる。


「君が今安見さんを想っていようが、安見さんの過去がどうだろうが関係無い! 安見さんは安見さんだ。 過去のしがらみに取り付かれているような女性じゃない! 僕は今の安見さんを見ているだけなんだ!  そんな風に邪魔をしないでくれ!」


 僕の精一杯の抵抗と反感。 正直意味がないのは分かっている。 だけれど、目の前のこの男子にだけは、安見さんを渡したくないと今はっきりと分かった。


「ふーん。 そこまで言うってことは、それなりの覚悟があるってこと・・・」

「徳蔵ーん、どこー? 花火始まっちゃうよー?」


 そんな緊迫した中で気の抜けたような女子の声がした。


「タイムリミットか。 ま、せいぜい無駄な時間を過ごすんだな。 あの一夜は何がなんでも忘れない。 それは俺が証明しているから。」


 そう言って園路は林から出るように去っていった。 そしてその後にまた別の人物が現れた。


「ふん。 今も女がいるのに、過去の女の子の事を気にしてるんじゃないよ。」


 現れたのは大学生の人が「姐さん」と呼んでいる要さんだった。


「要さん。 どうしてここに?」

「ん? 連絡があったんだよ。 君がなにかトラブルに巻き込まれそうだったから、見に行ってきてくれないかって。 そしたらこれだものね。 ま、私が途中で乱入しても良かったけれど、君の行動を見てて、その必要は無いって感じたから見守ってたのさ。 そっちのお嬢さんも、あんまり気分はよろしくないようだし。」


 そういって僕の懐に入っていた安見さんを見ると、呼吸が荒くなっているのが伝わってきた。


「あ、安見さん! 大丈夫!?」

「・・・すみません。 みんなのもとには、今は行けないです・・・」

「ここから少ししたところに広い芝生がある。 そこからでも花火が見れるから、そこで見るといい。 二人でね。」


 そうウインクして、元の道に戻っていった要さん。 それよりも今は安見さんをゆっくりとさせてあけるのが先決だ。 さっきのことでなにかよくないことを思い出した様子なので、すぐに歩き始める。 安見さんの体は少し震えていたけれど、なんとか着いてきてくれていた。

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