須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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体育祭 玉入れ

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11月も半ばに差し掛かった頃、僕らの通う学校ではあるイベントが行われていた。


『さあ今年もやって参りました! この晴れ渡る秋空の下で行われますは、今年で50回目を迎える、体育祭だぁぁ! 今年はどのようなドラマがうまれるのか!』


 そうハイテンションでマイクに向かって話す先輩の声を聞きながら、自分達のクラスのブルーシートに座っていた。


 今日は学年対抗の体育祭。 学年対抗と言っても学年同士で一致団結するようなものではなく、様々な競技をやっていくというものである。 これを1日を通してやるのだ。


『では最初は準備体操を行います。 皆様グラウンド中央にお集まり下さい!』


 その合図と共に全校生徒がグラウンドの中央に集まっていく。 こうして改めて見てみるとこの学校の人数がかなりのものだと感じた。


『では準備体操も終わったところで、まず最初の競技に移ります。 まずは100m徒競走です。 参加する生徒はそのまま中央にお残り下さい。』


 そういってゾロゾロと生徒がもとの場所に戻っていく。 僕の主に出る競技は午後が中心なので、午前はクラスメイトを応援する側に回る。


「あれ? 小舞君。 君は行かなくていいの?」

「俺が担当するプログラムは午後なんだよ。 だから俺の出番が来るまでは、みんなと同じで応援なんだよ。」


 小舞君は今回の体育祭の実行委員になっている。 まだ自分の出番ではないようなので、応援に入るようだ。


「いっけー! 抜かせー!」

「負けるなー! やれー!」


 あちらこちらから声援が飛び交う。 それは先輩後輩関係のない、無礼講な応援になっている。 だがその熱気は午前中にも関わらずヒートアップしていった。


『続きまして学年別、男女別の玉入れを開催いたします。 まずは男子からお願い致します!』


「さあ、行こうぜ!」

「あぁ、我々の出番のようだ。」

「光輝君、小舞君、坂内君。 頑張ってくださいね。」

「うん。 行ってくるよ。」


 安見さんの声援を受けながらグラウンド中央に向かう。 そしてその間に佐渡君と合流した。


「今回はライバルとして君達と戦うよ。」

「手加減すんなよ? 俺たちだって本気なんだからな。」

「当然。 僕らのクラスは強いぞ?」


 そうでなければ面白くないと言わんばかりに小舞君がニヤリと笑った。 それにつられて僕らも闘志が沸き上がってくる。


『みなさん位置につきましたか? それでは・・・レディ・・・ゴー!』


 その号令と共にかごに向かってボールが一斉に放たれる。 この玉入れは入れた数ではなく、全部の玉を入れた時間で順位が決まる。 なので重要なのはいかに玉を集めてかごに正確に入れるかという戦略が試される。


 とはいえ僕らのクラスにはバスケ部がいない。 なのである程度背の高いクラスメイトがかご入れ担当、他の人は落ちている玉を拾って固めておくのが仕事になる。 僕は集める側に回り、6個ほど集めて持ちやすいようにしてから手渡しして、また玉を集め始める。 そんな作業の繰り返しだ。


 そして全部の玉を入れ終わったところで全員が座るのだが、他を見る限りでは僕らのクラスよりも速かったクラスもあるので、順位はあまり期待できなさそうだ。


『では全クラスが入れ終わったところで、順位の発表を行います。 まず最初に入れ終えたのは4組、続いて3組、6組と続いていきました! なので1位は4組となります!』


 わぁーっと4組が喜びに溢れてきた。


『では続きまして、女子の番になります。』


 そう言われ、男子陣は応援席に戻り、女子達に交代をする。


「あーあ、負けちゃったねぇ。」

「さすがに戦略負けをしたわけではないが、勝つのは難しかったのだろうか?」

「どこも五分五分だったし、関係ないんじゃね?」


 つまり別に悔しいとかそういった感情にはならないということだ。 まあ、こういった行事って勝ち負けよりも過程を重んじる節があるからね。 仕方ないよね。


『それでは1年女子の部を始めます。 レディ・・・ゴー!』


 そして女子達も玉入れを始めた。 先程の男子の玉入れとは違い、かごが低い分玉の数が多いのが女子の部の特徴だ。 しかも男子の戦いと違い、女子の方はあまり戦略的に玉を入れていない。 勝ち負けに拘らないので、そこは気にしないでおこう。


「いけー! ジャンジャン入れろー!」

「かごめがけて投げろ! 入る入る!」


 男子達の歓声が聞こえてくるが、それよりも男子達の目が一点に行っている事を知らない僕ではない。


 クラスの男子だけではない。 先輩達の目もある場所を主に見ていた。


 玉入れという競技、しゃがんで玉を取ったり、かごにめがけて玉をジャンプしながら投げる女子達。 あとはもうお分かりだろう。 女子の胸部に視線が行ってしまうのだ。 胸の大きい女子が玉を入れるためにジャンプするたびに揺れるのだ。


 僕はそうはならないように視線をあちこちにずらしているが、そもそもクラス以外の女子の知り合いはいないし、なにより見ないように見ないようにと思っていても、やはり視線を奪われてしまう。 男という生き物はそんな逆らえない性を持っている。 悲しいかな。


 そんなこんなで女子の部が終わり、次の競技の為の準備が行われた。


「お帰り安見さ・・・な、何?」


 戻ってくるなり安見さんは僕の目の前まで歩み寄っていた。


「どこを見てました?」


 あれ? なんだか疑われてる? どう言い訳すればいいのだろうか?


「し、しっかりと安見さん達を見てたよ? 応援だってしてたし。」

「そのわりにはあちらこちらに視線が移っていましたが?」


 あれ? 意外と鋭い。 というか僕ですら見る余裕なく競技に参加していたのに、なんで安見さんこっちを向く余裕があったの? と、そんな疑問はあまり気にしない方がいいという本能的な何かを感じたので、どう言い訳をしようかと考えていると、急に後ろから衝撃が来た。 何事かと思ったら小舞君が僕の肩を掴んでいた。


「須今、こいつはしっかりと応援してたんだけどな? 須今のその凶器を見るのが恥ずかしくってあっちこっちに目が行ってたんだよ。 許してやってくれ。」


 小舞君の一言で、安見さんは僕の方を見た後に


「はぁ、そういうことならいいですよ。 私も少しお門違いな所を聞いてしまいました。」


 そういってクラスの女子のところに帰っていった。


「あ、ありがとう、小舞」

「ああでも言わないと多分聞き入れて貰えなかっただろうしな。 利用して悪かったな。」


 どうやら助けた訳ではなく自分の言い訳として僕を介したようだ。 複雑な気分になりながらも、体育祭は続けられるのだった。

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