須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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体育祭 お昼時

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午前の部の大目玉である学年対抗大綱引きと大縄跳びを終えて、そろそろお昼ご飯だなと思って背伸びをしていたら


『さてさて皆様。 そろそろお昼ご飯になろうかと思われますが、ここでダンス部の応援ダンスをご覧に頂きたいと思います! それではどうぞ!』


 そういってグラウンドの端からチアリーダーの格好をした女子達が、おそらく色で分けられているのであろう、先輩後輩問わずに入ってくる。


『ゴーゴー! レッツゴー! ゴーゴー1年! 若さの! 力を! 見せつけろ! はい!』


 そういって5人くらいの赤いチアリーダーの服を着た女子達が固まった後に綺麗な扇形を見せてくれた。 あれが同じ1年生なのか。 化粧をしているからなのかかなり盛っている感がある。


『ゴーゴー! レッツゴー! ゴーゴー2年! 技量の! 差で! 勝ちに行け! はい!』


 今度は緑のチアリーダーの服を着た女子達が倒立も混ぜた状態で、まるで鉄橋のような形に作り上げる。 倒立している人はスカート部分がめくれてしまっているが、こういった類いの服は下着ではなく、その服の一部のような形をしているので全く問題にはならないそうな。 まあ、どっかから興奮するような声がするけれども。


『ゴーゴー! レッツゴー! ゴーゴー! 3年! 全ての 生徒の! 集大成! はい!』


 そして青のチアリーダーの服を着た女子の4人が円陣を組んで、最後の1人がその上に登って立ち上がり、タワーの完成になる。 そしてその登った人がメガホンを持って、観客の僕らに向ける。


『みんな! 腹ごしらえをしてから、午後からも頑張って行こうぜ!』


 その掛け声に「イエーイ!」とコール&レスポンスが行われたところでお昼休憩となった。 午後からの競技としては最初に障害物競争、次に騎馬戦。 最後に借り物競争で締め括るという形になっている。 僕は騎馬戦と借り物競争に参加する。 なので少しだけゆっくりと食事を楽しめるのだ。 ちなみにこの中で借り物競争だけは男女混合種目になっている。


「そういえば小舞君は借り物競争の担当なんだっけ。」

「おう、だから障害物競争に出終わったら準備しないといけないんだよな。」


 木陰に移動する前に小舞君にそう確認を取ってから移動しようとしたのだが、


「あれ? 一緒に行こうよ?」

「いいよ、俺は坂内とこっちで食うから。 二人きりで過ごしてこいよ。」

「今更な気もしなくはないが、邪魔はしないようにするさ。」


 どうやら会う人物について察しがついているらしい。 お言葉に甘えてというかなんというか。


「おや、光輝君。 遅かったですね。」


 木陰で待っていたのはすでにお弁当を用意していた安見さんの姿だった。


「ごめん、小舞君達を誘おうと思ったらなぜか断られちゃって。」

「私の方も加奈実さん達を誘ったら、「大丈夫です」と断られてしまいました。」


 何故でしょうかと首を傾げている安見さん。 僕にも良くわからなくなっていたので、あまり気にせずにお昼を食べようかと考えた。


「今日はちょっと軽めにしてきたんだ。 あんまり食べ過ぎて次の競技に支障が出ても困るし。」


 今日の僕のお弁当は野菜を多めに入れたものになっていて、メインはチーズ入り焼きちくわとなっている。


「最後の借り物競争がこの学校の目玉競技だそうですよ。」

「へぇ、それは頑張らないとね。」

「応援してますよ。 是非とも好成績でゴールを目指してくださいね。」


 そんな他愛のない会話を話しながらお昼を過ごしたのだった。



 障害物競争が終わり、続いて騎馬戦に入る。


『それでは騎馬戦に参加されます生徒は入場と共に、騎手の生徒は朝礼台までハチマキを取りに来てください。』


 そう言われて僕はハチマキを取りに朝礼台に向かう。 身長、体重、騎馬のバランス等を諸々に考えられた結果の場所で、同じチームのみんなにも僕でいいの?と聞いたら心配するなと言わんばかりにグッとサインを出してきた。 みんながそういうのならという思いでハチマキを持って、騎馬役のみんなのもとに行く。


「本当に僕で良かったの? 騎手役ならもっと・・・」

「大丈夫だよ。 その辺りはしっかりとするさ。 それに・・・」


 そういって騎馬役のみんなはクラスの座っている方を向く。


「格好いいところ見せたいと思ってね。」


 どうやら僕に一役買ってくれているようだ。 そこまでしてくれることは無かったんだけれど、今更役を交代するわけにもいかないので、このまま進行することにした。


 騎馬戦は全学年の男子のみが参加する競技で、それなりに人数が集まった。 そしてメガホンでの号令の代わりに徒競走の時に使われるピストルで合図が始まった。 最初は大混戦であちらこちらでハチマキの取り合いが行われていた。


「下手に近付かないで、後ろからこっそり取っていくのが攻略のコツか?」

「どうかな? 相手だって考えていることは一緒のはずだからなんとも・・・」

「見つけたぞ! あいつだ!」


 そういってなん組かの騎馬隊が僕に向かって四方八方から突っ込んでくる。


「幸せそうなリア充は倒しちまえ! 俺達だって青春したいんじゃあ!」


 なんという八つ当たり。 とはいえこの数を相手に出来ない。


「館、一度この場から離れるぞ。 しっかり捕まってろよ?」


 そう言われて僕は前のクラスメイトの肩を持って低い体勢に入り、そのまま流されるままに迫り来る騎馬隊を抜けていく。


 そして一度開けたところに出て、迎撃体勢に入ったところで、頭に付けていたハチマキが取られた。


「・・・え!?」


 後ろを振り向くと、先程まで僕がしていたハチマキを持った佐渡君がいた。 なんでとこっちが問う前に佐渡君が口を開いた。


「君を下手に怪我させたくないしね。 騎馬戦はハチマキを取られた時点で退場になる。 戻って彼女を安心させてあげなよ。」


 そう言われたので騎馬から降りて、応援席に戻る。 そして安見さんの方に向かう。


「ごめん安見さん、あっさり負けちゃ・・・」


 近付いてみて分かる。 安見さんは騎馬戦など初めから興味が無かったかのように眠っていたのだ。 これはどういうことなのだろうかと複雑な気持ちになりながら、自分の席について、最後の競技になるまで騎馬戦を見ていた。

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