須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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体育祭 借り物競争

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『ではいよいよフィナーレを飾ります最終競技。 全校生徒参加型の借り物競争となります! 競技参加者はお名前が呼ばれるまで、しばらくの間お待ちください。 それでは最初の参加者をお呼び致します。 3年5組・・・』


 そういって競技参加者の名前を読み上げる先輩。 僕は最後なので、借り物競争がどの様なものかしっかりと確認することが出来る。


 まずはグラウンドを一周して、借り物が書かれている封筒を手渡し方式でそれぞれのトラックの人が渡して、半周ほど走ったところで封筒を開ける。 交換や不正防止のためだ。 そしてお題に沿った品物や人物を「借りる」。 そして最後に借りてきた物とお題があっているかを封筒をもらった人物に公・言・してからゴールに向かうという競技だ。


 一見すると普通に感じるが、この競技の肝はなんといってもその公言にある。 つまり場合によっては公言するのが危ういお題も少なからず存在はするということだ。 しかしそんなものは実行委員会の厳正たる審査によって削除されているだろうし。 そもそも体育祭でそんな危ないものを書くとも思えない。


「館君が走るのって、いつだったっけ?」

「僕は本当に最後の方だよ。 なん組走るのかまでは詳しくは分からないけどさ。」

「ふーん。 さっきの騎馬戦がそこそこ長かったから、もしかしたら館まで回ってこないかもよ?」

「そんなことは・・・ないと思うけれど・・・」


 不安な発言を煽ってくる濱井さんに全否定出来ない自分がいた。 小舞君も実行委員として頑張っているので、ここで騎馬戦の敗北(佐渡君の善意)を無駄にするような事はあまりしたくはない。 ちなみに安見さんはまだ眠っていた。 僕の借り物競争に出るときに位は起きててほしいんだけど・・・


 そんな思いを抱きながらも借り物競争は着々と進んでいく。 無難な借り物を貰った人もいれば、「それ本当にお題に沿ってる?」と言ったようなものもあった。


『それでは最後の競技参加者を案内致します。 1年2組、館 光輝君 1年・・・』


 あ、僕の出番だ。 そう思い応援席を立つ。


「ん・・・おや、光輝君の出番ですか?」

「安見さん、すごいジャストタイミングで起きたね。 まるで狙ったかのように。」

「これは館君が活躍するのを感じ取ったのかな? 安見は新人類だった?」


 何をバカなことをと濱井さんに思いながら僕はトラックに入り、スタート地点に立つ。 僕はトラックの一番外側なので後ろの方を見ると先輩が一番内側にいるのが分かる。 ただしかなり後ろにスタートラインがあるので、多分走る距離は同じくらいだろう。 そしてスタートの合図を出す人がピストルを構えたところでスタンディングスタートの構えをする。


「位置について・・・よーい・・・」


「パンッ」


 ピストルの音と共に走り出す。 少し遅れてしまったが、悪くないスタートだと思う。 後ろから走ってくるのが分かる。 この場合だと距離感が微妙に違うので実際はどのくらいの順位なのかが分かりにくい。


 最初のカーブを曲がりきり、直線のところでチラリと横を見ると、先輩の数人が僕と同じくらいの位置にいた。 この時点で僕は先頭を走っていないのは分かった。


 そして2回目のカーブを曲がりきり、目の前にいる人物、小舞君の元まで走っていく。 そして小舞君からお題の入った封筒を受け取り、残り半周を走る。 結構先輩たちに差を付けられた気がしたので残りの半周分でも取り戻そうとした結果息切れギリギリになりながら封筒を開けて中身を確認して



 絶句した。



 しかしお題に書かれていることは絶対なので、半分納得いかないながらもある人・物・の元に行く。 その人物とは


「おや、光輝君。 どうか・・・」

「いいから付いてきて。 説明は後でするから。」


 僕は安見さんに手を差し伸べる。 さすがの安見さんもなにがなんだかと言った様子ではあったが、僕の手を取ってくれる。 そして残りの半周を改めて走り直す。 安見さんの事もあるので、あまり速くは走らない。 先輩たちが中々お題が見つからないのをのを好機と思い、半周を走り続ける。


「お題にはなんと書かれていたのですか?」


 そう質問してきた安見さんにお題の書かれた紙を見せる。 すると安見さんも理解が出来たようで、隣に寄り添うように走ってくれた。 というかチラリと他の参加者を見てみたけれど、敢えてトラックに戻らないようにしてるようにも見えた。 なんで?


 そして僕はようやくお題を渡してくれた張本人である小舞君の元に駆けつけて、お題を提示する。


「あぁ、お題は達成されているぜ。 あとはゴールに向かうだけだ。」

「・・・わざとこれを渡した?」


 そう聞いたら小舞君はとぼけたように視線を反らした。 小舞君を睨みつつも僕はゴールに向かい、そしてそのままゴールした。 先輩達がなにをもたついていたのかは分からないけれど、もう少し接戦を繰り広げたかった。


 そしてなによりもこの借り物競争の中で最後の爆弾が投下される。


『さあ、1着でゴールしたのは、1年2組の館 光輝君。 その館君のお題は・・・なななんと! 「好きな人」! そしてそのお題を手に一直線に同じクラスメイトの須今 安見さんの元に向かうという、まさに学校中が認める、名カップルのゴールインを見ることが出来ました! これはフィナーレに相応しい一幕となったぞ!』


 その司会者の声にいろんなところから歓声が飛び交ってきた。 正直ここにいても居たたまれなくなってきたので、そんな声援の中、自分達のクラスに戻った。 そして席について項垂れる僕と両手で顔を隠してしまった安見さんをクラスのみんなは生暖かい目で見ていた。 ちなみに手の隙間から見えた安見さんの顔はそれはそれは真っ赤ッかだったと伝えておく。


『さて、盛大なフィナーレとなったところで! これにて体育祭は終了と致します! 各クラス片付けてからお帰り願います。 それではまた来週の月曜日にお会いいたしましょう! 解散!』


 そんな声と共に、1日を通した体育祭は終了した。 みんなしっかりと使ったものを戻してから、帰る準備をして学校を出た。 僕と安見さんも学校を出ようとしたとき、着替え直した制服の袖を安見さんがキュッと掴んできた。


「明日は私が当番ですので・・・」


 その言葉にクスリと笑って


「うん。 いつもの時間にいつもの場所ね。」


 そう約束を交わしながら、僕と安見さんは、一緒に帰路につくのだった。

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