須今 安見は常に眠たげ

風祭 風利

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変わってる2人?

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体育祭が終わった翌日、僕はいつものように、6時ほどに起きて、ジャージを選んで、家を出てジョギングを始める。 もう半年以上も走れば慣れたもので、特に息切れを起こすこともなく、中間地点の公園にたどり着く。


「ちょっと早かったかな?」


 そもそもが正確に時間を決めていなかったので、ペースを合わせられなかった。 どうかなと考えていると、犬の鳴き声がした。 そしてその後ろにいるのは


「すみません光輝君。 待たせてしまいましたか?」

「ううん。 気にしないで。 しっかり時間を決めてなかった僕も悪かったし。」


 飼い犬マルチを連れた安見さんの姿だった。 安見さんも少し息が上がりながらも遅れないように来てくれたことは非常に嬉しいものだ。 だがそんな安見さんの格好をみて、少し不思議に思った。


「あれ? 安見さんジャージなんて買ったの?」

「ええ、まあ。 今回はマルチがいるので短めになるかと思いますが、これで休日は光輝君と一緒に走りに行けますよ。」

「あれ、朝早いのはお断りって前に言ってなかったっけ?」

「事情が変わったのですよ。 変えたのは光輝君ですけど。」


 つまりこれから週末のタイミングで2人でジョギングが出来るということになるわけだ。 確かに今までは一人で走っていたのでそこはかとなく寂しかったのは事実だ。 最初こそペースを合わせづらいがそれも時間が経てば解決できるだろう。


「それでどうする? ジョギングするなら、マルチは連れていく?」

「いえ、マルチにそこまでのことはさせられません。 あまり足腰は強くない方ですので。」


 マルチの年齢のことを考えるとそんなこともないのだろうが、実際の犬の年齢と人間の年齢とで換算すると、そろそろ危ういんだそうだ。 中学1年の時にはいたそうだから、少なくとも3年はいるし、飼い始めた時期やマルチの年齢を合わせると意外と歳はいっているのかもしれない。 そうには全く見えないけれど。


「それじゃあマルチを返しにいこうか。」

「そうですね。 あまりお時間を取らせるわけにもいかないので。」


 そういって僕と安見さんは座っていたベンチから立ち上がり、公園を後にした。

 その後マルチを安見さんの家に帰した後僕と安見さんは軽くストレッチをしていた。


「それで、今回はどちらまで行かれるのですか?」

「まずは安見さんのペースを知りたいから1駅先までジョギングをしてみよう。 それを見て、改めて明日の予定を組み立てよう。」

「分かりました。 なんだか光輝君、トレーナーさんみたいですね。」

「まあ、この辺りも慣れかなって思ってる。 今回は安見さんに合わせるためのルートだからそんなに厳しくもないだろうし。」


 今回は安見さんに合わせて距離を短くすることにした。 最初から今までの僕のペースでやらせるわけにはいかないしね。


「分かりました。 んっん~」


 安見さんがストレッチを終えて腕を天に伸ばして、少し反るように背伸びをした。 するとただでさえジャージでくっきりと分かっていた胸がさらに強調されて、ストレッチをしながらその光景に目が釘付けになってしまっていた。


「・・・? どうかしましたか?」


 その視線に気が付いた安見さんがそう質問をしてきたので、慌てて目線を反らして「なんでもないよ」と答えた。 前にも思ったことだが、あまり女性の体をじろじろと見るものではないと直感的に感じている。 そんな思いを払拭するために僕もストレッチを終えて、走り出そうとしたとき


「お、おわっ!」

「光輝君!」


 ストレッチのやり過ぎたせいか変なバランスになってしまい、足がもつれてしまった。 このまま行けば地面にぶつかると思ったときに、不意に柔らかいものにぶつかった。


 なにかと思ったら、倒れかかっている僕の頭を安見さんの豊満な胸が支えてくれていたのだ。


「大丈夫ですか? 光輝君。」


 その状況に気が付いた僕は急に顔が熱くなり、すぐに安見さんから離れた。


「だ、大丈夫だよ! さ、さぁ! 走りに行こうか!」


 安見さんに気付かれないようにと、気を紛らわす為に僕は走りに行ってしまった。 安見さんのペースも考えずに。



「私たちって変わっているのでしょうか?」


 ジョギングが始まって数分。 安見さんからそんな言葉が出てきた。


「変わってるって、なんで?」

「いえ、なんというか、行っていることが、あまりカップルらしくないかなと感じておりまして。」


 カップルらしくないこと・・・か。 付き合い始めて2週間近く、 僕たちは学校ではほとんど一緒だし、部活動はバラバラでも所属は一緒。 帰るのだって二人きりな時が多い(わざと避けられているようにも見えるけれど)。


 だがしかし、カップルらしいかと問われると、それは少し違うようにも感じる。 端から見られたときに、果たしてカップルだと感じることはあるのだろうか?


「変わっているかどうかと言われると、それは他人の解釈次第なんじゃないかな? ほら、こうして2人でジョギングを楽しんでるのだって、カップルで楽しんでると見えなくもないし?」

「それはそうなんですけれど・・・」


 安見さんらしくない歯切れの悪さだ。 なにがいけないのだろうか?


「もしかして・・・誰かに見てもらいたいの?」


 そう聞くと安見さんは「かぁっ」と顔を赤らめた。


「いや、ちちち違いますよ? そそそ、そういうことではなくてですね。 なんといいますか、その・・・」


 うーん、聞き方が悪かったかな? 話し方までぎこちなくなってしまった。


「・・・ええっと・・・へ、変な事を言うのだと、思わないでくださいね?」

「うん。」

「その、わ、私達、あまりにも、イ、イチャイチャ、してないなって、思ってしまって・・・ いや! それを誰かに見てもらいたい訳ではないんです! むしろ、その、見られてないからこそ・・・ゴニョゴニョ・・・」


 安見さんが走りながらモジモジしているのをみて、なんだかこっちまで恥ずかしさが移ってしまったようで、僕らは駅に着くまで、顔を見合わせることが出来なくなっていた。
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