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《20》悪い子
しおりを挟む二人きりになってしまった。
美しく、冷ややかで、嫌な感じのする微笑みが忘れられない。
彼は自分が知っているゲームの中のユージーンとは全く違っていた。
なんだか気まずくて視線を泳がせる。
ノワの前までやってきた脚がピタリと立ち止まる。
アーモンド型の碧眼が、こちら物色するように細められていた。
「ユージーン様·····」
原作通りなら、彼はパーティーの次の夜、公爵家の跡継ぎ抗争で右目を失う。
後継の座を狙った彼の叔父がユージーン邸へ刺客を送り、ラージェイトの暗殺を企てたのだ。
敵を返り討ちにするユージーンだが、逃した刺客は妹を人質に取り、彼女を庇ったユージーンは右目を切りつけられる。
信頼していた叔父の裏切りと失明。
ゲームの中ではサラリと説明されたユージーンの傷の生い立ちだ。
これからの未来で起こるとわかっているのだから、阻止しない訳にはいかない。
「ユージーン様、あの·····」
何とかして伝えようとして、しかしノワは口ごもった。
(なんて言おう)
まさか、本当のことを教えるわけにはいかない。
「パーティーの次の日の夜、空いていますか?」
刺客を倒すとかそういうのは無理だ。それなら、彼を公爵邸から遠ざけてしまえばいい。
「次の日の、夜?」
ユージーンが訝しげな顔をする。
思いついたまま発言したノワは、ハッとした。
「なぜ?」
「えっと」
語弊がある発言だった。
夜の誘いは、異性ならば男女の関係を結びたいという意味を持つ。
同性同士でも、極めて親しい仲でなければ成立しない誘いだ。場合によっては、侮っているなんて思われてしまう。
やってしまった。
しかし、今更取り消しようもない。
「もし良ければ、お時間をいただきたくて·····」
「··········」
ユージーンにとって誰よりも警戒すべき人物は、今この瞬間、予期せぬ刺客よりもノワになったに違いない。
ノワは心で涙を流しながら笑みをひきつらせた。
ユージーンは、両の口端をゆるく持ち上げた。
「せっかくの誘いだが、その日は予定が埋まってるんだ」
誘いを断る決まり文句だ。
この場の空気に耐えきれない。
「そ、そ、そうですよね」
それではと言ったノワは、ユージーンにくるりと背を向ける。
作戦は練り直しだ。今は、とにかく早いところ退散しよう。
「俺に興味があると、受け取っていいのかな」
ユージーンが独り言のように呟いた。
「·····?」
目が合うと、彼は考えるように顎に手を添える。
所作一つ一つがさまになっている。ノワは誤魔化すように頬をかいた。
冷静になって考えてみれば、彼が屋敷にいなくたって刺客はやってくるのだ。
そうすれば、ユージーンの妹は殺されてしまう。彼は体にこそ傷を負わなくとも、心に深い傷をおってしまうだろう。
「パトリックは見た目によらず大胆だね」
ノワはキョトンとしてユージーンを見上げた。
妖しげな微笑みは、闇夜に咲く一輪の薔薇のようだ。
「けど、いけないな」
彼が一歩踏み出す。
ノワとの距離は、目と鼻の先だ。
驚いて後ろへ後ずさると、閉められた扉に背をぶつけた。
「えっ?」
異常なほど近い。混乱するノワを他所に、目の前の美男はじっとこちらを見下ろしていた。
「残念だよ」
上品な唇から、ため息混じりの言葉がこぼれる。
残念。
確かに失望された。しかし、身に覚えがない。
そんなことより、美しい顔面は時に凶器になり得る。
「俺は一途な子が好きなんだ」
「い、一途な……?」
可笑しそうに言ったユージーンが、少しかがみこむ。
「どう思う?」
上質なコロンが鼻腔をかすめる。
「えっ?あ·····近·····」
「ん?」
返答を促した低音が、骨に響く。
腰が砕けそうだ。ノワは目を白黒させた。
「わ、わ、分かりましぇん····」
思いきり舌を噛んでしまった。
今すぐにこの場を去りたくなるが、逃げられる場所はない。
「成程」
これ以上この男の色気に当てられたら、想像妊娠してしまう。訳の分からない危機を予感し、本能が警告を鳴らす。
「やっぱり君はわるい子だ」
長いまつ毛がゆっくりと瞬きする。碧眼は全てを見透かすように揺れていた。
ノワの背中を、ゾクリとしたものが駆け抜けた。
それは、蔑む色さえ耽美な、冷たい視線だった。
「そして興味深いよ」
彼はそう言い残し、扉の向こうへ消える。
ノワは甘毒に当てられたように、しばらくその場に立ちすくんでいた。
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