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《35》本性
しおりを挟む「珍しいね」
ユージーンは、先程からじっとこちらを眺めている。
アーモンド型の碧眼はあまり見つめすぎると心臓に悪い。
もうそろそろ集合時間だが、他のメンバーがやってくる兆しも無い。
今は何時だろうか。
腕時計を見下ろし、あれ、と、声をこぼす。
集合時間は過ぎていた。
時計が狂っているのだろうか。ノワは腕を振ってみた。
頭上に影が落ちた。
「何か用事でも、あったのかな」
見上げた先で、絹のような髪が揺れる。
甘い、蜜のような声。瞳はいつかと同じく冷ややかだった。
───全て、気づかれていたのだ。
「·····!!」
咄嗟に逃げ出そうとした行先はユージーンの腕に遮られた。
「安心するといい」
耽美な視線がノワを見下ろす。
彼は、秘密事を告げるように囁いた。
「他の役員は、あと30分は来ない」
つまり、招集時間をノワにだけ早く知らせていたということだ。
まんまと騙された。
言い逃れは出来そうになかった。
「ユージーン様、どうか·····」
伸びてきた手が、トンと肩を押す。
軽い動きとは真逆の、驚くほど強い力だった。
後ろによろめく。腰に硬いものが当たった。
生徒会長のみが使用することを許される、会長執務席だ。
「誰が謝れと言った?」
ユージーンが首をかしげる。
(どうしよう!!)
ノワは何とか誤魔化そうと、視線を宙に泳がせる。
「このさい、無駄な茶番はよそう」
考えていることはお見通しなようだった。
彼が執務席の机上へ手を置く。後ずさると、尻が机の上に乗りかけた。
ノワは慌てて振り返る。
フィアンの机に乗るなど、許されることではない。
「目を逸らすな」
「!」
長い指が、ノワの顎を持ち上げた。
「俺の屋敷には堂々侵入しておきながら、この机に乗上ることは、そんなに恐ろしいか?」
「ち、違·····」
「言い方を変えようか」
ユージーンは嘲笑をこぼした。
「"思慕の情"に気を取られてる場合じゃないだろう」
ノワの頬が紅揚する。
ユージーンはそっとほくそ笑んだ。
秘めていた想いを気づかれてしまった乙女のような反応だ。
こうして見ると、女よりも可愛らしい顔立ちをしている。
「お、願いします、どうか場所を変えて····フィ·····いや、誰かが来たら·····」
高い声は、思わず出た名前を誤魔化すように、誰か、と付け足した。
「誰に見られようが、俺は何ら困ることは無いが」
彼が入学当初からフィアンを慕っていたのはバレバレだった。
初めは憧れや羨望を拗らせたものかと思っていた。
が、半年たった今でも、ノワの様子は変わらない。
恥じらいと恐怖が綯い交ぜになった黒目は、ユージーンの命令に背き逸らされた。
「申し訳·····」
パシンと乾いた音が部屋に響く。
右頬に熱が広がる。
「·····何度も同じことを言わせないでくれるかな」
ノワは遅れてから、平手打ちされたのだと理解した。
これはゲームではない。
相手は公爵家の一人息子で、自分は犯罪者。全て現実で起こっていることなのだ。
ゲームオーバーは、自分の死そのもの。
ノワは頬の痛みに耐え、彼を見上げる。ユージーンは優雅に微笑んだ。
「·····とはいえ、誘いを無下にしたことは、申し訳なく思ってるよ」
不意に話題がすり変わる。
「·····へ·····」
ユージーンが赤らんだ頬を撫でる。
この痛みは、誰でもない自分を前に、他の者を考えたことへの罰だ。
屋敷に侵入したことを咎めるつもりは無かった。
ただ、彼に興味が湧いていた。この自分が興味を持ってやっているというのに、他人の事で気が気でないなど、許されるわけが無い。
今まで経験させられたことの無い侮辱だ。
しかし、それもまもなく撤回することが可能だろう。
ノワは茫然とユージーンを見つめていた。
精巧な顔立ちが近づいてくる。
視線を逸らすことも、身動きをとることもかなわなかった。
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