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《137》一緒のベット
しおりを挟む切ない声音から、彼の想いが伝わるようだ。
ゲームの中のアレクシスと目の前の彼は別人だ。設定に囚われて、鼻から彼の想いに向き合おうとしていなかったことに気付かされた。
「気持ち悪くなんか、ない」
好きになってはいけない相手を恋い慕う辛さを、誰よりもよく知っている。
想いを告げるのにどれだけ勇気がいるかも、痛いほど分かっていた。
「でも、アレクの気持ちには·····」
「分かってます」
アレクシスが返事をさえぎる。
「望む返答がいただけるまで諦めません」
彼は一方的に告げると、ベットから立ち上がった。
「そろそろ戻ります」
「えっ」
姿勢の良い背中が扉に向かって歩いてゆく。
なんてことだ。
「アレク?」
ノワは慌てて彼を追いかけた。
扉を開ける前、立ち止まったアレクシスがこちらを振り返る。伸びてきた両腕に、奪うように身を抱きしめられた。
「いつか、一緒にお風呂に入りましょう」
耳元に囁かれた声は驚くほど甘い。
「もちろん、ベットも一緒に」
「?!」
それは、ノワがいつかの手紙に綴った話だ。
同じベッドで眠っていたアレクシス。彼が年頃になってからは、寝室を共にすることさえ断固拒否されるようになった。
その理由に、たった今初めて気が付いたのだ。
「あ、ぅ··········気をつけて、帰って·····」
引き止めたってむだだ。辛うじて別れの挨拶だけを述べると、彼はどこか満足気に口角を上げた。
「ありがとうございます、兄さん」
扉は静かに閉まった。
足音が遠ざかり、また閑静な夜が訪れる。時刻は深夜に突入しそうだ。
(アレクが、僕を·····?)
ノワはしばらく立ちすくんでいた。
どこからか、眠たげなフクロウの鳴き声が聞こえた。
唸る汽笛が、頭のてっぺんから足の先までを響き渡る。
長いトンネルが抜けた。
いくら遠くを見すえても、建物ひとつ無い草原地帯が広がっている。
時計に目をやると、学園を出発してから既に3時間が経過したところだ。
いつの間にかぐっすり寝こけていたらしい。
(なんで、"こんな事"になった?)
2人がけの椅子が向かい合った窓側の席で、ノワは自問する。
再び瞼を閉じ、眠りにつく前の記憶を呼び起こしてみる。穴が空くほど強い視線には気付かないふりをした。
今日は、剣練部の遠征日当日。
2日前から、ノワは一睡もすることが叶わなかった。
悩みの種は二つ。
一つは、愛しの弟アレクシスについて。もう一つは、姿を表さなかったヒロインについてだった。
物語の通りであれば、とっくに学園へやってきているはずのヒロイン。
今回の遠征では、ロイドとのイベントが発生するはずだった。
しかし、彼女は現れなかったのだ。
これは、根本的にストーリーが変わっている証拠だ。
(でも、行事や事件は、物語の通り起こってた)
ならば、今回の遠征でも、例外なく事件は起こる可能性が高い。
しかしノワは、肝心のイベント内容が思い出せなかった。
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