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《136》失言
しおりを挟む失言だった。
どういうことだ?何がどうなって、こんな事態を招いたのだ?
何も分からない。いや、こんな時だからこそとりあえず、落ち着こう。ノワは自分でも無意識のうちに「待って」を繰り返した。
「し、し、信じる。だから、あの·····」
頼むから、一旦そこを退いて欲しい。
視線で訴えると、彼はとても不愉快そうな顔をした。
「この期に及んでまだ逃げようとしているんですか」
「違·····逃げようとなんて、」
「じゃあ、このまま、目を見て話しましょう。何もしませんから」
それでも問題がある。
ノワは泣きそうになりながら呟いた。
「うぅ·····パンツ、履かせて·····」
これからはどんなに暑くても下着は身につけようと思う。
硬直したアレクシスが、やがてシャツの裾で隠れたノワの股を見下ろす。
目が座っている。
そして思い知った。
彼も男なのだと。
よからぬ事を考えている視線は、やがて知性を取り戻したようだった。
「あなたって人は·····」
ありえないと独りごちながら、やがて相手はベットから退いた。
先程と同じくふちに腰かけたアレクシスがこちらに背を向ける。ノワはいそいそと下着を履き、彼の隣に落ち着いた。
「えっと·····」
こういう時はどうすればいいのだろう。
黙り込んでしまった弟の横顔を覗き見る。
聞き間違いでなければ、彼は、自分を───。
「勘違いの無いように言っておきますが」
先程、濃厚に触れ合った唇が動く。ノワは飛び上がった。
「恋愛対象として、好きです」
いくら馬鹿でも、それくらいは分かる。
「とても」
美しい流し目を寄越される。
ノワは逃げるように俯き───。
「···············えっ」
視線を下ろした先は、アレクシスの膝辺り。
スラックスを突き破りそうなほど逞しい熱が、テントを張っている。
「ア、ア、ア、アレク、あの、そこ、勃·····じゃなくて、ええっと」
「··········時間が経てば治まるので、気にしないでください」
「·····でも、すごく辛そう·····」
「煽ってるんですか?そんなに気になるなら、責任を取って貰っても良いのですが。」
また失言してしまったようだ。ノワは、首を激しく横に振った。
頭はパンク寸前だった。
ゲーム中のアレクシスというキャラクターは、誰よりもヒロインだけを盲目に愛する男だったからだ。
きっと、何かの間違いだ。
暫く沈黙が続いた。
時刻は、23時を回った。
「気持ち悪いでしょう」
アレクシスは、独り言のように呟いた。
「兄さんをどうにかしたい思いでいっぱいなんです」
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