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《150》思い出した
しおりを挟むノワはやっと思い出した。
ホム海岸で、主人公はドゥジーヤに襲われる。
主人公を守るためにドゥジーヤと対峙したロイドが崖から落ち、主人公の祈りの力で助けられるのだ。
(主人公が居ないから、事件はなくなる!)
良かった。
ノワは安堵して、しかし再び立ち止まった。
『俺は、いつでもお前の才能に溺れて!』
密かにロイドを恨んでいた相手がいた。
彼がいなくなれば、自分が1番になれるのでは?
ドゥジーヤとの戦闘でロイドに加勢した彼に、ふと、そんな考えが過ぎった。
そして彼は、自分に背後を任せていたロイドを、崖から突き落とす。
ノワは走り出した。
「ノワくん?!」
「ちょっと忘れ物した!先に行ってて!」
レイゲルは、ロイドを尊敬する一方で、強い劣等感を抱えていた。
幼い頃から彼と比べられてきたのだ。
格式高いヴァーヴ家の当主は、息子が同じ歳の男に負けることが許せなかった。
植え付けられた劣等感がレイゲルの判断を狂わせた。
どうか、ストーリーの通りでありませんように。
願いながら、ノワは2人の姿を探す。
「!」
数十メートル先に、崖を見下ろしているロイドがいた。
背後にはレイゲルがいる。
その腕が、ゆっくりと前に伸ばされてゆく。
(間に合え!)
もつれそうになる足を叱咤する。
レイゲルがロイドの背に触れる寸前───ノワは、ロイドに突進していった。
二人一緒に、その場に倒れ込む。
「はぁ、はぁ·····!」
硬い地面に膝を着く。手のひらは暖かいものに触れた。
「·····ノワ?」
頭上から、訝しげに名前を呼ぶ声が聞こえてきた。
「は·····」
目の前に高い鼻があった。
ロイドの胸元に手を当て、それから頬に触れる。
間に合った。
「うぅ·····」
足から力が抜けてしまった。
広い肩にしがみつく。息を吸って吐くのを、何度か繰り返した。
「ドゥジーヤ、一体、駆逐しました」
「そ、そうか」
良くやったなと言うロイドは、片手に剣を握っている。
切っ先から粘り気のある液体が滴った。こちらでも、ドゥジーヤが駆除されたようだ。
「あ、ご·····ごめんなさい·····」
何も知らないロイドが、鋭い瞳を何度か瞬かせる。
気が狂ったとでも思われただろうか。もしかすると、崖から突き落とそうとしたとでも思われるかもしれない。
「えっと、これは·····!」
適当な理由も思い浮かばない。
「パトリック、お前·····」
ノワは身構えた。
「怖かったのか?」
「·····へっ?」
ロイドは仕方なさそうに笑った。
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