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《155》疲れる
しおりを挟む「ノワくん、大丈夫でしたか?」
「うん·····」
デリックがボトルを片手にやってくる。
実の所、彼の熱視線もかなり鬱陶しかったのだが、本人は全く悪気がないらしい。
文句を言うのを躊躇われた。
「疲れる·····」
無意識につぶやく。
「彼、殺しましょうか」
ボソリと、無感情な声が言った。
「···············え?」
ノワは驚いて相手を見上げた。
「冗談だよね?」
言っていい冗談と悪い冗談がある。今のは、確実に後者だ。
「ノワくんに嫌な思いをさせる奴は、俺が排除してあげたいんです」
デリックはノワと目が合うと、無邪気にはにかんだ。
ノワの背筋を、冷たいものが流れていった。
「デリック·····そんなこと、言ったらだめだよ」
「ノワくんは、俺よりもあの1年生が大切なんですか?」
「·····?」
「どうして彼の肩を持つんですか?」
エメラルドの瞳は、じっとこちらを見つめている。
全身を、ひとつ残さず監視するような視線だ。
「違うよ·····」
「じゃあ、彼よりも俺の方が····好きですか」
殺そう、と、平然と口にしていた男は、まるで悪いことなど知らない子供のようにはにかんでいる。
芽生えたのは、得体の知れぬ矛盾だった。
「デリックは、友達で、フランシスは、ただの後輩で」
ノワは咄嗟に取り繕った。
無意識のうちにフランシスを庇ったのだ。
そうしなければ、デリックが本当に───。
「じゃあ、クワダムスと俺は?」
「·····?」
矛先は、別の人物に向けられた。
「彼よりも、俺を選んでくれますか?」
なぜリダルが出てくるのだろう。
自分とリダルは、デリックの前では不仲でしか無かったはずだ。
ノワは返答に困ってしまった。
「彼のことが、好きなんですか?」
デリックの声が、半音低くなる。
「す、好き?」
初めの質問と違う。
あんなに意地悪で傲慢な奴を、好きなわけが無い。
リダルを思い出すと、なぜか哀しくて、不安になる。好きとは程遠い感情だった。
鋭い笛の音が響く。休憩時間終了の合図だ。
ノワは逃げるように練習場へ戻った。
「··········あいつか··········」
低い声が呟いた。
部活後、二・三学年の部員には葡萄酒が配給された。
帝国北部で生産されている葡萄酒だ。村の人々がドゥジーヤを駆除した礼として、剣練部の生徒1人ずつに贈ったものだった。
学園内での飲酒は原則禁止とされている。
今回は村からの好意ということで、夜8時以降から10時の間、自室でのみ飲酒が許可された。
ノワは大いに喜んだ。
前世では、ゲームの次に酒が好きだった。
(久しぶりのお酒·····)
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