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《156》交換条件
しおりを挟む見下ろしながら、そっとため息をつく。
部活終了後、本当はリダルに話しかけに行くつもりだった。
手紙を書いたのに、なぜ返事をしなかったのかと。
しかし、思いとどまった。
リダルに手紙を書いたのは、感謝の気持ちを伝えたかったからだ。それで返事が来なくて怒るなんて、自分勝手にも程がある。
(それに·····)
"好きなんですか?"
デリックとの会話がよみがえる。
「あー!」
思わず叫ぶ。
嫌なことばかり思い出してしまう。
忌々しい思い出を振り払うように、勢いよく寮室の扉を開いたら、
「うわ、びっくりした」
扉を開けてすぐ、半裸のキースがいた。
甘いマスクの割に、男らしく引き締まった身体だ。羨ましいなんて、口が裂けても言いたくない。
「おかえり、ノワくん」
キースは怒るふうもなく、にこりと微笑んだ。
「ごめん」
ノワはぶっきらぼうに謝って扉を閉める。
「ああ、そうだ。君に招待状が来てたよ」
「招待状?」
「王宮から」
「·····王宮?」
机の上に置かれた手紙を手にする。
現皇帝が即位してから40周年を迎える記念式の招待状だった。
「僕に?」
こういった式では、招待された家紋の当主が、夫妻で出席するのが普通だ。
公爵家と王族を除き、2人以上の出席を許されないためである。
しかし、記されている宛先は、ノワ・ボース・パトリック。こんな招待状が家紋でなく個人に送られてくるなど、前代未聞だった。
「なんで僕が?」
「いくつか思い当たる節があるけどね」
「え?」
他人のキースに分かって、本人に分からない理由があるのだろうか。
「思い当たる節って?」
首をかしげる。
相手は少し考えるように腕を組んだ。
「教えて欲しい?」
「うん」
「ふむ、じゃあ、ノワくんからの口付けと交換にしよう」
何が『ふむ、じゃあ』なのか。
却下だ。
「口付けしない」
「ならさっきの話はお預けだ」
「キースの変態」
「ただのキスが変態だなんて、ノワくんは少女のように純粋なんだね」
もしかして、と、彼がこっちを振り返る。
「僕は触れるだけのキスの話をしてたけど·····深い口付けを想像したのかい?」
「·····!」
ノワの顔は真っ赤に染まった。
「この·····」
違うといえば初娘のようだと馬鹿にされるし、そうだと言えば自分の方が変態になってしまう。
「うぐぐ·····」
「まあ、駄目なら仕方ないね。先にシャワーをもらうよ」
キースはヒラヒラと手を振り、ノワに背を向けた。
彼はノワが例外的に王宮に呼ばれた理由を知っているという。バーテンベルク家の情報網に、何か引っかかったのかもしれない。
とても気になる。
「ま·····待って!」
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