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《157》予想以上

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ノワは何度か足踏みをした後、キースを引き止めた。


「キス、するから、教えて」

「そうかい?僕は気が変わったんだけどな····」

「!」


キースが悩むように顎をさする。


「教えてくれるって、言ったじゃん!」

「一度断ったのはノワくんじゃないか」

「でも、でも·····」


彼はノワの言葉を聞き終わる前に、シャワー室のノブに手をかける。

行ってしまう。ノワは、キースの腕にしがみついた。


「キスさせてよ!」


硬い鳩尾に拳をぶつける。

チクタクと、呑気な時計の音が響いた。
当初の予想より数倍恥ずかしい。
嵌められたのだ。


「そんなにしたいなら、仕方ないね」


キースが得意げに微笑む。

ノワは身体中の熱が上がるようだった。


「か、屈んで」

「うーん」


今日のキースは、いつにも増して意地悪だ。


「·····っ」


ノワはつま先立ちになり、キースの唇に唇を押し付けた。

これは、キスではない。ただの作業だ。


「予想以上だよ」

「なにが·····」


溶けるような微笑みが、距離を詰めてくる。


「予想以上に可愛いよ」


「は·····っ?」


こめかみにキスを落とされた。
離れようとすると、宥めるように手首を拘束される。


「もう1回しよう」

「!?」


ブンブンと首を振る。


「だ、だめ!嫌だ」

「嫌?」


聞き返しながらも、キースは引く気配がない。


「あっ·····?」


何度も耳元に口付けされ、身体中に鳥肌がたつ。
ノワはキースの胸元に寄りかかった。


「·····っ·····」


今度は彼の方から、当たり前のように唇を塞いでくるではないか。


「キー·····ふ·····っ·····ん·····」


暖かな唇が、ノワの唇を挟むように愛撫し、吸い付く。

男が大嫌いなくせに、変な奴。頭の片隅で文句を言うが、言葉にはならなかった。

正直なところ、嫌ではない。
気持ちが良いし、なんせ顔が良いので、嫌悪感が無い。我ながら最低だ。

熱く濡れたものが伸びてくる。

ノワは今度こそキースを突き放した。


「ものの数分で、裸の身体を三回も殴られた」

「へ、変態な方のキス、しようとした」


キースはくすくすと笑い声を上げた。


「ノワくんには、まだ早いかな?」


吐息混じりの声がくすぐったい。


「なんで僕が招待されたのか教えてよ」


ノワはツンケンして言った。

そうしなければ、これ以上甘くなる眼差しに、のぼせ上がってしまいそうだった。

なんでそんな目で見るんだろう。

心臓は謎に駆け足だった。


「ノワくん、招待状、見せて」

「?」


キースに言われたとおり、招待状を持ってくる。

長い指は右下を指した。













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