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《158》ほっといて
しおりを挟む「皇族が直接推薦した貴族は、招待状をもらうことが出来る。この刻印は第一皇子殿下のものだよ」
「フィアン様が?」
思わず聞き返す。キースは、あっさり頷いた。
「招待される理由は限られてる」
「そうなの?」
ノワは固唾を飲み込んだ。
「こんなところに呼び出すくらいさ。殿下から君に大事な用があるんじゃないかな」
「フィアン様から、僕に?」
「そうだね」
「ど·····どんな?」
「さあ」
「·····?」
首を傾げて、キースを見上げる。
「それで、理由は何?」
「今言った通りさ。当日、殿下から何らか話がある。必ずね」
「何らかの話ってとこが、いちばん重要な部分じゃん!」
ノワは落胆した。対するキースは、大袈裟に肩を竦める。
「それは殿下にしか分からない」
「詐欺師!」
バシバシと硬い胸板を叩く。
「相変わらず情熱的だね」
「もう、いい」
引き留めようとしたキースの腕を振り払う。
「どこに行くんだい?」
「ほっといて」
ノワは捨て台詞を吐いて、部屋を飛び出した。
せっかく葡萄酒を楽しみに戻ったのに、弄ばれて最悪の気分だ。
(本当はダメだけど、キースにも少しあげようって、思ったのに!)
一滴もやるものか。苛立ちを露わにしてどしどしと廊下を進む。
扉を開け放ち、外に出る。
以外にも涼しい風が吹く。夏の夜空には、宝石のような星が散りばめられていた。
ノワはポケットから小瓶を取りだした。
「·····」
前世では隠れ酒豪と言われていた。飲み会の席ではいくら飲まされても潰れた試しがない。
少しだけだし、一気飲みしてしまえば見つかる心配は無いだろう。
少しの気の緩みだった。
奥歯を使って、栓を開ける。
生ぬるい風に、芳しい葡萄の香りが漂った。
白い月が、夏の草花をつややかに照らしている。
手のひらサイズの大きなカタバミが呼吸をするようだ。
ふと───木陰から、黒い影が伸びた。
「ここ数年の神殿は、とても友好的です。恐らく聖女の出現を予期していたのではないでしょうか」
「怪しい点を探れと言ったはずだ」
「ですが·····」
黒服に身を包んだ男が、地面に片膝を着く。
第二皇子の従者、ロビエン・レハルト。
彼は困惑したように眉をひそめた。
神殿を疑うのは、神を疑うことと同じく、罪深い事だからだ。
神殿は唯一皇帝の権威を受けない領域。
彼らは長きに渡り閉鎖的な活動を行ってきた。
その神殿が、ここ最近市民の生活に手を回すようになった。
数ヶ月前から配給している聖水は、身体の不調を改善させる効果があり、城下ではとてつもない人気を誇っている。
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