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《209》恐ろしい知らせ
しおりを挟むノワは手に汗を握った。
彼はどこまで知っている?
「何も教えてくれませんね」
きっと、何かを聞き出そうとしているに違いないのだ。
「今にも泣き出しそうなのに」
「黙れ!」
優しげな声が神経を逆撫でする。
敵に心配される筋合いはない。ノワが声を荒らげるのと同時に、ノックの音が響いた。
「ノワくん、失礼します」
入ってきたのはデリックだった。
「明日の予定についてですが」
こちらを見たデリックが、一度言葉を切る。
「何かあったんですか?」
なんだっていいじゃないか。
この広く狭い部屋の中で起こることは、何一つ意味をなさない。
ノワは顔を背けた。
「·····明日のパレードの手順についてです」
明日は新月。
儀式が成功すれば、自分には女神の意思が宿る。身体と心は、デリックと完全に共鳴し合うだろう。
「あなたが完全に俺の物になる日だ」
「この·····クズ野郎」
ノワは声を絞り出した。
悔しくて、そして悲しくてたまらない。
「お前なんか大っ嫌いだ。あの時、殺しておけばよかった。僕は·····」
なぜ、裏切られたような気分になるのだろう。自分に縋っているのは、デリックの方なのに。
「お前を好きになったことなんて、一瞬もない。いつも、吐き気がしそうなほど気持ち悪くて、仕方なかったんだ」
ノワはデリックに思いつくかぎりの罵声をあびせた。
もう逃げ道は残されていない。
全てデリックの思うがままだ。哀れに叫ぶ自分を眺めて、彼は心のうちで嗤っているのだろうか。
初めて見た頃、吸い込まれるように綺麗だと思った深緑を睨みつける。
(なんで)
それなのに、意味がわからない。
出会ったばかりの頃も、言葉を交わしていた時も。微笑んだ時も、こちらを見つめて、幸せだと言った時も。
そして今も、彼はなぜ───泣きそうな目をしているんだ。
恐れていた知らせが来たのは、その数分後だった。
「クワダムスを捕らえました」
部屋にやってきた二人の騎士が、扉の前で跪いた。
初め聞いた時は、何かの間違いだと思った。
ずる賢くて意地悪で、そしてとても強い奴だ。
どんな危機的状況でだってものともしない。誰も敵わない、月光のような存在だ。
そう信じて疑わなかった。
「確かか?」
デリックの質問に、相手は肯定の返事をした。
「細身の長身に茶髪の青年です。学生手帳から、クワダムス本人である事が確認できました」
報告をした方の騎士が片手を差し出す。
彼の手のひらに、直径2.5センチほどの球体が乗っかっていた。
「··········?」
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