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《222》勝敗
しおりを挟む重なった二つの影から、真っ赤な血飛沫が舞う。
地面に膝を着いたのはデリックだった。
「く、そ·····」
うずくまったデリックがイアードを振り返る。青白い顔を睨みつけていた緑は、やがて瞼に遮られた。
もう、とても戦えそうにない。
この憎い男に、負けたのだ。やるせないが、ここまでだ。
「地獄の果てで·····お前、を、呪ってやる·····」
冷たい空気に遺恨をすり付ける。
返ってきたのは、カチャリ、という、無機質な音だった。
「·····?」
「降伏しろ」
イアードが短剣を鞘に収める。
「そうすれば、お前を捕虜として捕らえる。催眠にかかってる騎士たちに降伏を宣言し、反逆を収めろ。処分はその後だ」
「·····は?」
彼には、罪の重さを自覚させなければいけない。
何より、ここでデリックを殺したら、次の皇帝は自分になる。復讐から開放されたイアードにとって、そんな面倒な権力は御免だった。
デリックの肩が震え出す。
初め痙攣でも起こしたのかと思ったが、そうではなかった。
「は·····ははははは!!!」
デリックは笑い叫んだ。彼は呼吸困難になるほど笑いころげ、その度に傷口から血が吹き出した。
「降伏?降伏だって?!誰が降伏なんてするもんか!!俺はもう、堕ちていくだけだ!!」
広間に絶叫が響き渡る。
「殺せ!!俺が生きている限り、反逆は終わらない!!早く殺せ!!」
殺せ、と、息も絶え絶えな声が絞り出される。
イアードは、狂い叫ぶデリックを冷ややかに見下ろしていた。
「反逆は終わらせない!!!」
聖剣が、デリックの心臓を一突きする。
体躯は糸が切れた人形のように地面に伸びきった。
「·····!」
手元の聖剣が、青く輝き出す。
掴んだ柄が燃えるように熱い。
手首を昇った熱気が、全身を包む。
瞼を閉じると、そこは新緑の中だった。
《願いを称えよ》
遠くから声が聞こえる。
《そなたの願いを称えよ》
高く、力強い声だ。どこかノワに似ていた。
「国民の催眠を解いてくれ」
言い終わるのと同時に、目の前で光が弾ける。腕を伸ばすが、思うようにいかない。
イアードの全身は闇に飲まれていった。
────────────────
「───っゲホっ!」
しばらく意識が飛んでいた。
いつの間にか、揺れと騒音がおさまっている。
外での争いは鎮定したようだった。
イアードは起き上がることをあきらめた。
身体が動かない。
思ったより派手な負傷をしたようだ。
何はともあれ、全て片付いた。
しばらくすれば誰か来るだろうと、まぶたを閉じる。生ぬるい血の不快感はぬぐえないが、この感触も最後だと思えば、いくらか許せるものだ。
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