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《227》白い朝

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少し肌寒い空に、薄明かりが広がる。

王宮の最上塔から一筋の光がさした。

どこからか富豊なトランペットの音が響く。
やがてなめらかに宙を滑りだした曲想に、鐘の音が重なった。

轟きが空気に揺れ、溶けてゆく。
完全な静寂が訪れた刹那、家々から外へ、一斉に人が飛び出した。


「皇帝陛下、万歳!」


誰かが叫ぶ。


「皇帝陛下、万歳!」


朝陽が完全に顔を出す。華々しい音楽に合わせ、民達は口々に声を上げた。


「皇帝陛下、万歳!」

「皇帝陛下、万歳!」

「フィアン皇帝陛下、万歳!!」


バケットいっぱいに花びらを詰めた子供たちが、それを散らしながら広場を駆け回る。

全国民お祝いムードに包まれている今日、帝国は新皇帝即位から三周年を迎える。
今年の即位式記念は従来皇帝の中でも例にない盛り上がりを見せていた。


三年前、反逆を目論んだ神殿が、帝国を恐怖に陥れた。
それを収めたのが現皇帝フィアンだ。彼は反逆の首謀犯である教皇を討ち取り、捕らえられていたもう一人の聖徒と新たな協定を結んだ。

聖徒の名をノワという。

ノワは争いで死傷した沢山の騎士を救い長い眠りについていたが、つい数ヶ月前の朝、忽然と目を覚ましたのだ。

現在、反逆を測った元教皇デミリオンは森の奥深くへ幽閉されている。
新しい教皇の座に着いたノワは、皇帝フィアン、宰相を務めるユージーン公爵、新大公との間に婚姻関係を結び、国を導きはじめた。

フィアン・ヴェイリッジ・ラミレス皇帝即位三周年を迎える、めでたい今日。
国民たちがこれまでになく浮き足立っているのには、もう一つ、暗黙の理由があった。


























本をめくっていた手が止まる。
目にとまったのは、青い花の挿絵。
紙を撫でた指先は、続いてペンを執った。

ノートをちぎった紙切れに、花の名前を書き取る。


「ノワ様」


ノワは名前を呼ばれ、ハッとして振り返った。
扉の前に立っていたレイゲルが時計を指さした。


「お時間が押してます」


「もうそんな時間」


慌てて立ち上がる。

王宮の図書館には、帝国の全ての本が保管されている。
まさに知識の宝庫だ。
ここに来ると、いつも時間を忘れてしまうからいけない。


「何度も申し上げていますが」


背後にいたもう1人の騎士が、ノワが抱えた分厚い本数冊を、ひょいと片手で拾い上げた。


「お持ちするので、机に置いたままで構いません」


鋭い三白眼がノワを見下ろし、仕方なさそうに眉を下げる。









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