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《242》騎士団

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この雰囲気をどうすればいいのか。誰かに質問したいが、○&Aはおろか端末も無い。


「·····今はお時間が無いので、お応え致しかねます」


いっそこちらが惨めになるほど冷静な声がノワを振った。
泣ける。

こちらを向いた精悍な瞳が、はっと目を見開く。
瞳が熱いのを気づかれてしまった。
きっと、行為を拒まれて泣きそうになっているとか思われたに違いない。
なけなしのプライドは死滅した。


「ああ、ロイドが泣かせた。最低だな····」


元凶はシレッとしてそんなことを呟く。
不意に、顔をおおっていた片手を取り上げられた。


「·····後ほど、お部屋に伺いますので」

「·····へ·····?」


中指の第二関節に、弾力のある温もりが触れる。
続いて手の甲に口付けされた。驚いて顔を上げると、真剣な三白眼がこちらを見つめていた。


「申し訳ありませんでした」


穴があったら入りたい。そうして、一生出たいとは思わないだろう。
罪のない人間に謝らせた挙句、とんでもない約束をしてしまった。


「いや、ノワ様、夢みたいな役得です」


レイゲルの冗談のおかげで多少息をしやすくなる。もう訳が分からない。


「公私を峻別しろ」


彼は再び頭上で拳を受けることとなった。
もちろん庇ってやる気はない。

   こうなれば、ロイドを治癒するためだと割り切ろう。
自分に言い聞かせ、ふと窓の向こうに目をやる。
どこからか華やかな音楽が聞こえてきた。


「到着しました」


レイゲルが扉を開く。
ノワは差し伸べられた手を掴みかえし、馬車を降りた。
やってきたのは、帝国騎士団入団式会場だ。

本来、聖女がやってくるようなところでは無い。
しかし、入団式の挨拶を申し出たのはノワ本人だった。

扉の向こうに、たくさんの人の気配がした。


「皆、ノワ様がいらっしゃることを心待ちにしています。至極の光栄となることでしょう」


レイゲルが満足気に言う。
アナウンスと共に扉が開かれる。凛々しい騎士団服に身を包んだ新入団員たちが、一斉に敬礼した。

狂いの無い整列、行先には花びらの散らされたカーペット。
1歩1歩を進みながら、とてつもない熱気を感じた。
壇上へ到着したノワは新入団員の列を見渡し──見覚えのある髪色を見つけた。

真っ青の髪だ。周りより頭一つ分大きな彼の顔は、なぜか傷だらけだった。
血がまだ乾いていない。
恐らく、出来たばかりの傷だ。


「なんて綺麗なお方なんだ·····」


どこからが聞こえてきた声に、ハッとする。
数秒間オスカーと見つめあっていたノワは、慌てて前へ向き直った。











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