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《253》彼の最後
しおりを挟むそうしたら、今度こそ僕らは、本当の親友になれるだろうか。
ノワは思わず笑みを浮かべた。
───違う。
胸の奥で、誰かが叫んだ。
(親友·····?)
「───い、おい」
頬を軽く叩かれる。
ううん、と、唸る。おまけのように、もう一度叩かれた。
「来いよ」
白い腕が伸びてきて、手首を強く掴んだ。
目の前に大きな黒馬がいた。その背にまたがった人物が、ノワを易々と持ち上げた。
広くて硬い背中だ。
たしか、少し怖いけど、しがみつくと案外安心する背中だった。
「✕✕✕✕?」
名前を呼ぶと、彼は軽くこちらを振り返った。
馬は白い道を歩いていた。
逆光で顔は見えないが、鼻筋の通った、黒髪の男だ。
「なんだよ」
長い夢を見ていた気がする。
とても恐ろしくて、怖い夢だった。
「ううん·····なんでもない」
思わず、後ろから抱きしめかけて、思いとどまった。
前から、息を着くように笑う気配がした。
「変な奴」
それはこっちのセリフだ。
だって、彼は。
(あれ?)
彼は───なんだっけ。
「僕が馬に乗れないの、覚えてたんだ」
「覚えるほどのことでもねえだろ」
相変わらず、突き放すような話し方だ。
でも、忘れないって言ってたから、信じてる。
背中しか見えない。
顔が見たい。
眩しくて、いつの間にかシルエットさえよく分からない。
「✕✕✕✕、良かった、夢で」
あれは夢だったんだ。
だって彼が、死ぬはずない。
(死ぬ?)
ノワはふと、手元を見下ろした。
鮮やかな赤に染っている。
これは、彼の色だ。
触れた背は、ぬるりと、嫌な湿気に覆われていた。
「───」
名前を呼ぼうとして、あることに気がついた。
彼の名前は、なんだっけ?
「ね、怪我、してるの」
背中に問いかける。
彼のマントが黒く染る。真っ白な地面に、赤が広がってゆく。
早く治療しないと、夢のとおりになってしまう。
「お前、誰だよ」
唸るような声が言った。
いつの間にか、ノワは森の中に立ちすくんでいた。
鬱蒼とした林の向こうに彼がいた。
「待って」
彼は傷だらけだ。
いつからか分からない。出会う前から、ずっとそうだった。
長い足が1歩進むと、一気に距離が離れた。
「お願い、待って」
ノワは走り続けた。
彼に想いが伝わるように。誰よりも強くて、寂しい背中をずっと見ていた。
気にすればするほど、彼の瞳は、全く違う世界を見ていることを思い知るのだ。
「僕のこと、忘れないで····」
これ以上傷つかないで欲しかった。
彼の最後の姿は、目も当てられぬ程無惨な亡骸だった。
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