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《254》お見舞い
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結局、丸々3日間寝込んでいた。
チート能力を持とうが、貧弱体質なのは変わりないようだ。
ノワは深いため息をついた。
扉が2度ノックされた。
「まだ体調が優れないか?」
やってきたのはフィアンだった。
「フィアン様」
ノワは慌てて起き上がった。
時刻は昼過ぎ。
こんな時間まで眠っていると思われてしまった。
間違いないが、フィアンが来ると分かっていれば完璧に準備をしておいたのに。
「楽にしてろ」
仕方なさそうに笑う横顔が眩しい。
「い、いつもは、ちゃんと早くに起きてます!」
勘違いされたくなくて早口に言う。いや、そんなことより挨拶をするのが先だった。
アタフタしていると、ソファに腰掛けたフィアンが、ノワの頭を撫でた。
「そうか、偉いぞ」
「!」
これじゃ、褒めて欲しくて必死な飼い犬みたいだ。
情けない。
「フィアン様·····」
怖い夢を見ていた気がするが、内容は思い出せなかった。
テーブルの花瓶に花が活けられている。
ぱんと水を張った大輪だ。ユージーンからの見舞いの品だった。
少し体調を崩しただけなのに、大袈裟すぎて恥ずかしい。
忙しいフィアンまで、自ら見舞いに来てくれた。
とても光栄な事だが、ノワの気分はなぜか晴れなかった。
「また痩せたんじゃないか」
スカーレットの瞳が覗き込んでくる。
真剣な眼差しで見つめられると、照れてしまう。
(キスされる)
教えられたとおり、口を半開きにして待つ。
どこを見れば良いのかわからなくて、瞼を閉じる。間もなくして、柔らかな肌に唇を塞がれた。
(調教されてる気がする·····)
薄目を開けた先で影が揺れる。
扉が空いている。
ノワは思わず、フィアンの胸元を押した。
「·····どうした?」
熱のこもった囁き声に身震いする。
再び唇を塞がれそうになり、慌てて待ったをかけた。
「扉、少し開いてるから」
扉の向こうには、ロイドとレイゲルが待機している。
「恥ずかしいから、二人だけの時に、あの·····」
視線をさまよわせていると、鼻先に口付けを落とされた。
「そういうことを言うと、男が余計に喜ぶことを知らないのか?」
最推しが、普段の様子からは想像もつかないような言葉を吐く。
「どこまでしたら気づかれてしまうだろうな」
「あっ、」
首筋にキスを落とした唇が、続いて、同じ場所に強く吸い付く。
(薄くなってきたのに、また付けられちゃった)
フィアンは定期的にキスマークをつける。まるで、これは自分の所有物だとでも言いたげに、首筋に吸い付くのだ。
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