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【93話】カラーバルーン
しおりを挟むじっとこちらを見つめる瞳は、黄金を溶かしたように美しい。
完全に口説かれているみたいだ。
頭の隅で、目的地に着くのが先か、目を回すのが先かと、純粋な疑問が浮かんだ。
「ウィルさん、前夜祭って、どんな感じなんですか?」
千秋は少し不安になって、ウィルに問いかけた。
「街全体がイルミネーションに包まれて、色んなお店が出されるんだよ。食べ物やアクセサリー、記念品とか···」
思い出すように話したウィルは、まあ、見ればわかるよと話をまとめる。
「1番の目玉は、祭りの中盤にあるダンスイベントかな」
「ダンス?」
やがて、馬車は静かな音を立てて止まる。
外からは賑わう声や陽気な音楽が流れ聞こえてきた。
煌びやかな夜の街が、目の前に広がる。
どこかおどろおどろしい城の雰囲気とは違う、洒落た建物の数々が店を開いていた。
赤や青、紫、黄色が光り、道路に沿った歩道には、見たことも無い食べ物やアクセサリーが売られている。
紳士淑女が手を組み、友人同士は楽しげに笑みを交わしながら歩道を通り過ぎていった。
陽気な音楽はどこからともなく聞こえてくる。
千秋はキョロキョロと周りを見渡し、ふと一際煌めく出し物を捉えた。
色とりどりの風船が、宙を浮遊している。
風船のようなそれの中に、炎が揺れていた。
「ウィルさん!あれ、凄く綺麗···」
「カラーバルーンの事かな?」
はしゃいでいた千秋は、ハッとして口をつぐむ。
聞き返してきたウィルに頷くと、彼は千秋の手を引き、人だかりの少ない通りへと向かった。
「ちょっと待っててね」
ウィルはそう言い残し、人だかりの中へ消えてゆく。
少し心配になる千秋だが、彼は程なくして戻ってきた。
片手には、黄色の炎を灯すバルーンがあった。
「千秋、手、かしてごらん」
「?」
手を差し出す。
バルーンと繋がる紐が、手首へ緩くまきつけられた。
「あげる」
頭上でユラユラ揺れる光は、まるで小さな満月みたいだ。
「きれい···」
「混んでて、この色しか手に取れなかったんだ」
良かったかなと聞くウィルに、千秋は大きく頷いた。
「欲しかった色です」
黄金が夜空に透ける。
「ウィルさんの色みたい!」
千秋はウィルを見上げ、ありがとうと微笑んだ。
「俺?」
彼は少し驚いたような顔をした。
どこかあどけない。
千秋もキョトンとしてみせた。
「あの、瞳の色が、同じで···」
ふさわしい言葉を探して、うーんと呟く。
「綺麗だから···優しくて、切ない色だから」
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