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〖第十話〗
しおりを挟む一通の手紙に目を通し、男は無感情な口元を歪めた。
紙切れは、ぐしゃりと握りつぶされる。
イヴァン・カーライル。あの男への恨みをはらす為には、自分と同じように絶望を味わわせてやらなければいけない。
(その為には?)
返事を一筆書き、赤黒い蝋を封に垂らす。
神が罰を下さぬというなら、この手で彼を闇に葬るのみだ。
静かな部屋の中、濃密なオレンジの焔が、怪しく揺れていた。
まだ外が薄ぐらい頃。イヴァンは、机に置かれた腕時計へ目を凝らした。
季節は、十一月上旬。
本格的な寒さはまだ早いものの、北風が冬の気候を運び、部屋は肌寒かった。
夜明け前の薄明かりが部屋を照らしている。イヴァンはもう一度眠ろうと寝返りをうち、すぐに瞼を開けた。
おもむろに起きあがる。
足元に置かれたスリッパをはき、彼は立ち上がった。
大きく空いたガウンの胸元を閉めることもせず、繋がった隣の部屋へ向かう。
窓一つない部屋は真っ暗だ。
耳を澄ますと、すうすうと安らかな寝息が聞こえた。
暗闇に目が慣れる。
広いベッドの毛布が、小さく上下していた。
ネロは体温が高い。イヴァンは暖を取らせてもらおうと、ベットの中に侵入した。
羽毛の中は、予想以上に温かった。
「んん…」
ネロが寝返りを打ち、ベットの外へ足を出す。イヴァンはそれをそっと戻してやった。
少しでも力を入れれば、折れてしまいそうだ。
ふと、はだけたスリーパーの先で視線が止まった。
腿から尻にかけての曲線が垣間見える。
『甘そうだ』というディックの言葉を思い出した。
彼の言葉を耳にした時は、人間に対して"甘そう"なんていう変態の気が知れないと思ったものだ。
「·····」
枕にひじをつきながら、ネロの寝顔を眺めるイヴァン。
大きく開いた首元から、薄ピンクの突起が覗いていた。
昨夜抱いた時は、この色がもっと濃くなったような気がする。熟れた果実のように赤みを増す様は、確かに"甘い"という表現に似ているかもしれない。
指先で、膨らんだ薄皮を掠める。
「·····んッ」
「!」
イヴァンはぱっと手を離した。
後ろめたい感情に気付かされた。
貴族の間で流行のペットオークションの偵察へ行った際、たまたま目に止まった少年。
彼を落札したのは、衝動的なものだった。特に理由はない。
再び、規則正しい寝息が聞こえてきた。イヴァンは瞼を閉じる。
眠りに落ちてゆく心地は、昨夜よりもずっと安らかだった。
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