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〖第二十七話〗

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先程よりも強く、ステファンの胸を押す。

思いきり拒絶してしまってから、体を強ばらせた。


「も、申し訳·····」


ありません、としりすぼみに言ったネロに、返答はない。


ステファンはネロを抱え、ゆっくりと膝から下ろした。


「あ·····」


ネロは彼の顔も見ることなく、扉の方へと駆けてゆく。

逃げるという選択肢意外思い付かなかった。


「·····」


扉が、軋みながら閉まる。

ステファンは短く息を着いた。


泣き顔や痛みに震える表情を思いだす。

口角は、ひっそりと歪んだ。


「…計画変更だ」


独り言のように呟かれた声は、酷く無感情だった。
























「イヴァン様、お帰りなさい!」


ネロは、玄関前でイヴァンを出迎えた。

背後からセシルの圧力を感じる。

言葉使いをしくじった。
ネロは直ぐに言葉を改めた。


「お帰りなさい·····ませ、イヴァン様·····」


「·····ああ」


1泊置いてから、素っ気ない返事が返ってきた。

今朝ぶりに見る主人は、いくらか疲れたような顔をしている。


「ネロの足首をベッドに繋いでおけ」


彼はそれだけを告げて、反対方向へ消えてしまった。
せっかく顔が見られたのに、少ししか一緒にいられなかった。ネロはガッカリしながらセシルの後に続いた。


(また部屋に入れられて、鎖をつけられるんだ)

「ネロ」


ネロをベットに座らせたセシルが、つづいて足首を掴む。
ネロの視線は不安げだった。


「あの、セシルさん·····」


「これはイヴァン様の指示です」

繋がれるのが嫌だというわがままは受け入れられない。そういう意を込めて言ったはずだが、ネロが口にしたのは、繋がれることを渋るものでは無かった。


「今日は、初めて自由に動き回れて、楽しかったです。書斎でステファン様と会いました·····その、今朝は、僕のために忠告してくれて、ありがとうございます」


ちんぷんかんぷんな内容だ。
つまり、なにが言いたいのだろうか。
セシルはネロに足枷をつけ、さっさと手を離した。


「日記をつけたいのならノートとペンを用意しますが」


「違·····これはセシルさんに言いたくて····」


執事の業務に私情を持ち込むことはタブーだ。

冷たい態度をとるのは、自分が冷徹な人間だからという訳ではない。
仕事柄感情を殺す必要がある、それだけの事だ。

だというのに、目の前の少年は酷く寂しそうな顔をしてみせる。
まるでこちらがわざと苛めているようなばつの悪さだ。

セシルが部屋を出ていくのを見送って、ネロはため息をついた。

暇が出来ると、先程のステファンとの出来事が脳内に甦ってくる。


(恥ずかしい·····)


枕に顔を押し付ける。
彼は身体に傷がないかを確かめてくれただけだ。
けしてやましいことはないのに、自分は───。


「·····っ」


(僕、なんてことを·····)


忘れようとすればするほど、低い声や香りを思い出してしまう。

悶絶していると、セシルが部屋を出てからしばらくせず、扉が開かれた。


「!」


イヴァンだ。 

鋭いエメラルドがこちらを眺める。
近寄り難い雰囲気は、物腰の柔らかいステファンとは対極的だった。


「ステファンに会ったそうだな」











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