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一章
108.クリーム
しおりを挟む「あの·····」
「·····?」
今ここにいる3人をターゲットにするのが妥当だろう。
皆が自分に注目する中、ミチルはおそるおそる口にした。
「街に行ってみたいと思って·····みんなで·····」
例の皇子達の仲良し大作戦だ。
ここで穏便に生活していくためには、彼らのギスギスした雰囲気を無くしたい。
そうしたら、彼らだってもっと分かり合えて───。
「あ?んなもん嫌に決まってんだろ」
期待はアヴェルの一言に打ち破られた。
「なんでこいつらと出かけなきゃなんねえんだよ」
だから、それは親睦を深めるためなんだってば。
なんてことも言えるはずなく、ミチルはしゅんと項垂れた。
上手くいくとは思っていなかったが、取り尽く島もない断られかただ。
「行きたい」
「·····!」
諦めかけていたところに一筋の光が指す。
ヨハネスだ。
「うさぎちゃんの行きたいところに行こう」
「ん~、退屈しなさそうだし·····俺も行ってやってもいいよ」
ヨハネスに続きハインツェも同意する。
彼が行こうと言ってくれるのは意外だった。
「アヴェルは行かねえっぽいし、俺ら3人で行こうよ」
ダリアには俺から言っておくからとハインツェが言う。
挑発を受けたアヴェルも参加することになって、結局は要望通りに収まってしまった。
(良かった)
新たに差し出された料理を頬張る。
「お口についてる」
舐め取られても抵抗を感じないのは、ヨハネスの触れ方が優しすぎるせいだろう。
「チル、お願いするの上手になったね」
食べ終わる頃、こちらを眺めていたハインツェが言った。
ただ怖かっただけの悪魔皇子達を外出に誘うなんて、確かに前までならありえない考えだ。
家族とまでは行かなくても、これからもっと仲良くなれるかもしれない。
「上手くなったなんてもんじゃねえよ。食いもんより俺のマラ腹ん中に入れたいって、腰振りながら誘ってきたんだからよ」
「へぇ~~~~。まあ確かに?そうやって咥えたあとももっと虐めてって泣いちゃうんだから、困っちゃうよねぇ」
「あ?そりゃお前の性癖だろうが」
「さあ、どうだろうね」
前言撤回したくなるほど下品な会話を聞き流し、ミチルはパカリと口を開ける。
しかし次の一口がやってこない。
ヨハネスはカラのスプーンを手にしたまま一点を見つめている。
どうしたんだろう?
ミチルは仕方なくコップの水を飲み干して、小さなゲップを落とした。
おなかいっぱいだ。
平らげた食器のさきにケーキを見つけた。
たっぷりのクリームにフルーツが埋もれている。
あれは別腹だ。
椅子の上に膝立ちして手を伸ばすミチルだが、皿は別の人物に横取りされた。
「うさぎちゃん」
ケーキを片手にしているのはヨハネスだ。
それはこっちのなんだから、返してくれ。こんどはヨハネスに両手を伸ばす。
彼はニコニコしながら片腕でこちらを持ち上げた。
違う、これは抱っこの合図じゃない。
「デザート、お部屋で食べよう?」
目潰しにもなり得る微笑みに影が落ちる。
「お菓子たくさんあるよ。俺のケーキもあげる」
「·····ほんとう?」
「うん、可愛い」
まるで赤子をあやすような話し方だし、可愛いは余計だ。
しかしヨハネスは嘘をつくような悪魔じゃない。
·····嘘をつくような悪魔じゃないって我ながら信憑性に欠けるきがする。
くだらないことを考えている間にも、こっちを抱えた相手はダイニングルームを出て、埃ひとつ無い廊下を進む。
部屋に着くまでにつむじのあたりをしつこく吸われた。
ケーキをくれるということなので気が付かないふりをして許してあげた。
ベットに腰掛けたヨハネスが、膝の間にミチルを座らさせる。寄せたテーブルにはケーキの皿が置かれた。
そばにあったフォークを手に取ろうとしたら、またもやヨハネスに先越された。
今日の彼は自分の邪魔ばかりしてくる。
「食べさせてあげる」
でも悪くない。
ケーキは口の中がとろけそうなほど甘かった。
甘いものは特に大好きだ。
1口、2口と食べ進めてゆく。
しばらくすると食べる速度は遅くなっていった。
「おなかいっぱい?」
差し出されていたクリームが遠ざかってゆく。
ミチルはブンブンと首を横に振った。
おなかいっぱいだけど食べたいのだ。
「たべる」
でもやっぱり、さすがに沢山かもしれない。
そう思った時、フォークは少し口元をズレた。
「!」
クリームが唇と鼻先についてしまった。
舐め取ろうとして舌を突き出したら、頭上に影ができた。
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