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第10話

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《RDside》

 シルヴェストル魔法学院に特別講師として招かれたというおれの噂は、瞬く間に大帝国中に広まった。噂は噂を呼び、話はどんどんと飛躍している。おれがシルヴェストル魔法学院を潰そうとしただとか、魔法を暴走させたとか。名誉を挽回させるために特別講師の仕事を受けたのにも関わらず、結果は真逆の方向だ。悪い噂が広まるばかり。ただ中には、シルヴェストル魔法学院一の曲者クラスを更生させただとか、そんな良い噂も広まっているらしい。だが、名誉挽回させるどころか更に傷つけている気がする。もう特別講師はやりたくないな…。だけどユージンには会いたい!!!
 特別講師とユージンの間で揺れる中、部屋で暴れていると_______。

「え?ハーベルダ大公が訪ねて来ただって?」

 枕をぶん投げる手を止めて、カタリナに問いかける。非常に言いにくそうな顔をして、カタリナは静かに頷いたのだった。


 カタリナに案内されるがまま、おれが住まう皇宮の美しい庭へ出た。恋人が逢い引きするかのような秘密の花園。優雅で綺麗なその場所は、前世を思い出す前のおれがよく利用していたお気に入りの場所だった。見ているだけで胃もたれを起こしそうなスイーツの量。上品な紅茶の香りが漂ってくる。超一流の陶器と家具で揃えられたその場所は、見ているだけで目が痛い。更にもっとおれの目を痛くする人物が…。

「殿下」

 おれの姿を見た途端、すぐに椅子から立ち上がり駆け寄って来る。片膝をつき、おれの手をそっと取る。
 お決まりのが来るのか!?

「シルヴェストル大帝国の生ける百合姫に、神々の御加護があらんことを」

 そしてそっと手の甲にキスを落とされた。
 前に会ったときにそんなことはやらなくていいって伝えなかったっけ?もう彼にとっては、習慣化されていることなのだろうか。まぁ…百合姫って呼んでくれってバカみたいなお願いしたの、前世を思い出す前のおれだし。どうしたらこの挨拶を止めてくれるのかな。

「今日は大人しいのですね」
「へ、?」
「前は振り払ったでしょう?」

 お、覚えていらっしゃった~…。
 おれはブンブンと首を左右に振り、「何のことだか分かりかねます」としらばっくれる。ハーベルダ大公は、ホワイトオパールの瞳を細めながらおれの顔を覗き込む。ニッコリと笑うことしかしないおれに、ハーベルダ大公は諦めたように溜息をついて席へと案内してくれた。
 世紀のイケメンにまじまじと顔を見つめられるなんて耐えられないっ!だけどよく耐えたよ!おれ!

「ハーベルダ大公、今日はどんな御用事で?」

 いつも通りを装って、ハーベルダ大公に問いかける。
 過去を漁ってみても、ハーベルダ大公が直々におれを訪ねて来ることなど、一度もなかった気がする。おれが皇宮まで呼んでいたか、すれ違ったときにダル絡みしていた記憶しかない。

「シルヴェストル魔法学院の開校記念祭に来賓として招かれました」
「はぁ…」
「殿下も、その…招かれたのでは、と思いまして」

 淹れたての紅茶を啜りながら瞳を伏せたハーベルダ大公。どこからか舞い込んだ風にダークグレーの髪が柔らかく靡く。
 待って、待ってよイケメン。もしかしてわざわざそれを聞くためにここまで来たんじゃないよね?え?何?世界最強の魔法騎士団長ってそんなに暇なの…?
 時間にしておよそ数分。ハーベルダ大公の意図が分からず黙ったままだったおれは、ようやく口を開いた。

「招かれてませんよ」
「え?」
「招かれてませんよ」

 二度同じことを告げると、ハーベルダ大公は有り得ないとでも言った顔をした。
 シルヴェストル魔法学院の卒業生であり、学院長の愛弟子でもある。更には世界中に名を轟かせるほどの大魔法使いだ。そんなおれがシルヴェストル魔法学院の開校記念祭に招かれないはずがない。だが、なぜおれが来賓客として呼ばれないかと言うと、それはおれの素行が原因だ。昨年来賓客として招かれた際に、好き勝手しまくって多大な失態を犯したのだ。想い人のハーベルダ大公が出席するものだと思っていたが、いざおめかしをして会場に行けばハーベルダ大公の姿は見当たらず…。怒り狂って暴れ回ったのである。いや、今思えばとてつもなく恥ずかしい。

「殿下が招かれていないとは…」
「ハーベルダ大公も毎年招かれているらしいですが、出席されないのではなかったのですか?」

 そう言うと、ハーベルダ大公はホワイトオパールの瞳をぱちくりとさせる。その後、少し困ったような顔をして気まずそうに目線を逸らした。
 ん゛ふっ…。イケメンの困り顔は堪らないな…。

「今年は、たまたまスケジュールが空いてましたので出席することにしたのです」
「そうなんですね」
「ですから、殿下も御一緒に、と思いまして…」
「おれも、ですか?でもおれは招待されていませんし…」

 首を傾げて、ハーベルダ大公の顔を見つめる。健康的な肌色が若干赤く染まるのが見えた。

「おれのパートナーとして、出席してはいただけませんか?」

 思いかげない言葉に、おれは目を見開く。たっぷり数分後。

「ええええええええええええええ!?!?!?」

 皇宮中に響き渡るほどの絶叫を上げたのだった。





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