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1.婚約者の家に愛人を連れてくる馬鹿男

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「お前が俺の嫁になるクレアか。なんか貧相な女だな」

「どこが胸でどこがお尻なのかもわからないような体形ね。可哀そう。私がそんな体形だったら生きていけなくて死んじゃうかも~」

 ビキリ、と自分の眉間に深い皺が寄るのを感じました。
 もしかしたら力を入れすぎて血管も浮いているかもしれません。
 私は自分の顔が結構怖いことを自覚しています。
 だから普段から使用人たちを威嚇しないようになるべく穏やかな表情を心がけるようにしているのです。
 しかし目の前の馬鹿2人のせいで私は自分の中の怒りを抑えることが難しくなっていきます。

「こらこら可哀そうだろそんなこと言ったら。この女だって一生懸命生きてるんだ。それに、お前のナイスバディと比べたら誰だって貧相な身体さ」

「いや~ん、ダーリン好き~」

「俺も好きだ。愛してるぜ」

 私は何を見せられているのでしょうか。
 そもそも私は今日、自分の結婚相手を迎えるために屋敷の前で待ち構えていたはずです。
 それなのになぜ男女の2人組が来るのでしょうか。
 結婚相手ということは独身のはずで、表向きには恋人なんかもいないはずの人です。
 私は別に結婚相手に何も求めていないので実際には恋人がいようが愛人を何十人も囲っていようが自分の甲斐性の範囲内で賄っているならば全く構いません。
 ただ私の配偶者としての責務を果たし、伯爵家の名前に泥を塗らない人ならばなんでもいいのです。
 私は隣でオロオロしている父に視線を送ります。
 これはどういうことなのでしょう、と。
 父は泣きそうな顔で首を横にブンブンと振ります。
 どうやら父は相手がこんな感じの方であることを知らなかったようですね。
 私もそれほど興味が無かったので彼の家のことは調べましたが彼本人についてはそれほど詳しくは調べませんでした。
 しかしそれがあだとなってしまったようです。
 あまり良い噂を聞かない人物だということは知っていましたが、ここまで常識の無い人だとは思いませんでした。
 馬鹿でも無能でも、最悪カカシのように笑顔を貼り付けたまま突っ立っていてくれればいいと思っていた私が甘かったようです。
 
「なあ、早く屋敷に案内してくれよ。つーかだっせぇ外観の屋敷だな。多少良くなったといってもやっぱり貧乏伯爵家に変わりはねえか。これから俺の屋敷になるんだから全部塗り替えるかな。赤と緑のツートンカラーとか最高にイカすよな」

「私可愛い屋敷がいいなぁ」

「そうだな。お前の屋敷でもあるんだからお前の意見も取り入れないとな。じゃあピンクと黄色のツートンあたりでいくか」

「それ可愛い~、それにしよっ」

 イカれたセンスでイカした屋敷とやらに塗り替えられてはたまりません。
 しかし実家に送り返すにも今すぐというわけにはいきません。
 この2人を一瞬たりとも屋敷に入れたくないのですが、一応この2人からも話を聞いてみなければいけないですよね。
 胃が痛いです。
 というかこの女、マジで誰なんですかね。

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