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2.当主気取りの馬鹿男

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 それにしても、下品な体形です。
 私は結婚相手の腕を胸で挟み込むようにしてしなだれかかっているどこの誰ともわからない女の身体を上から下までじっくり眺めます。
 デカい胸にデカい尻、少したるんだお腹、身体中が柔らかそうなぜい肉に包まれたわがままボディ。
 この微妙にだらしない下品な身体つきのどこがいいのかわかりません。
 女はモデルのようにスラっとした体形を理想としますが、男の人は案外このくらいだらしない身体のほうが性的興奮を覚えるのかもしれませんね。
 かといって私があの身体になりたいかと言われたら別にそうでもないですが。
 
「それで、あなたはどこのどちら様ですか?私は婚約者のはずのビエンコ伯爵家のリーチ様をお迎えしていたはずなのですが」

「私?私はナナリー。ダーリンの元メイドで、今は彼女でーす。正直あんたなんかにダーリンを貸してあげるのは嫌だけど、貴族の結婚って別に愛は無いらしいじゃん?なら別にちょっとくらいいいかなって」

「ナナリーと俺は一心同体みたいなものだ。いわばセットってやつだな。俺と結婚したかったらナナリーのことも認めろ」

「はぁ?」

 何が一心同体ですか。
 ただの愛人でしょうが。
 どこの世界に婿入りする家に愛人同伴で来る奴がいるんでしょうか。
 私はあきれ果てて言葉を失います。
 もうこの方のおっしゃることは意味がわからないので早く帰って欲しいです。
 先ほどお父様にビエンコ伯爵への手紙を速達で出していただいたので、あと少しすれば答えは出るでしょう。
 ただ、ビエンコ伯爵が息子のことを何も知らずに婿に出したとは思えません。
 面倒ですね。
 もう魔術でぶちのめして追い出してしまいたいです。

「ていうかさ、お茶とか出てこないの?俺今日からこの家の当主っしょ?おいそこのメイド、早く持ってこい。ああ、酒でもいいぞ?」

 ああもう頭が痛くなるから黙っていて欲しいのにこの男はペラペラと。
 リーチは私付きのメイドであるアリアに向かって不遜に命令しました。
 アリアは私の側近なのでこの家での地位はたとえ名ばかりの当主であってもアリアより下なのです。
 私はこの家の中だけですが完全な実力主義を敷いています。
 前世の記憶と魔術の力によって貧乏伯爵家の財政を黒字にした私には現当主である父ですら逆らうことはできないのです。
 アリアがこの男の命令を聞く可能性はゼロです。

「お断りします」

「なんだと貴様、この俺の命令だぞ?これからこの家の当主となるこの俺の!」

「だからなんだというのですか。愛人なんか連れて婿入り一つまともにできない男が粋がらないでください」

「き、ききき、貴様ぁぁぁ!!」

 アリアの火の玉ストレートがどうやらこの男の小さな自尊心を傷つけてしまったようです。
 面倒です。
 私は狭い室内でロングソードを抜こうとしてまごついている男を魔術で眠らせました。
 ついでに女のほうも眠らせておきましょう。
 もうこのまま馬車に乗せて送り返してやりましょうか。

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