麗しい夫を持った妻の苦悩。押しかけ妻の自覚はありますが浮気は許しません。

沙橙しお

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13.妻は行動派

 厄介な人が増えた。ジリアンとメイナードの浮気の心配はないがジリアンからの嫌がらせはあるかもしれない。

 それよりもダンスを踊る女性を減らしたい。これは譲れないのだ。メイナードにとって女性との付き合いは社交だという。でもエルシィを不安にさせるほどの距離感はやめて欲しい。やめさせる方法を考えた。もし彼が夜会以外で女性と二人きりで会っていればそれは限りなく黒だ。その現場を押さえて誓約書を突きつけ今後の行動を改めてもらう。

 毎回夜会で女性たちと何を話しているのかは分からない。実は逢瀬の段取りかもしれないと疑っている。だから彼の行動を密かに監視することにした。証拠を掴んで見せる! 執事に彼のスケジュールを聞けばあっさりと教えてくれた。しかも詳しく。これを見る限り仕事がびっしりで浮気をする時間が見当たらない。かなり忙しそうだ。それで夜会で羽を伸ばしているのかもしれない。

「う~ん……うん?」

 怪しい予定を発見! イレーナ・エイデン侯爵と会食? しかも夜の遅い時間だ。男性同士が会うのなら問題はないがエルシィの勘が何かを訴えている。よく男性は浮気相手の女性との逢瀬のメモを男性名に変えて妻の目を欺くと聞いたことがある。これは……夫の名を書いて実は夫人と会うのかもしれない。しかも今夜だ。現場を押さえて白黒をはっきりさせようとエルシィは決意をした。

「エルシィ。今夜は遅くなるから先に休んでいてくれ」

 ほら怪しい。メイナードは結婚してから夜遅い時間に出かけることはなかった。仕事の用があれば相手を呼び出していた。自ら出かけるということは疑惑がさらに深まった。

「はい。お気をつけて」

 玄関でメイナードのお見送りする。エルシィはニコニコと手を振った。そしてジャスミンに今夜はもう休むと言って部屋に引っ込む。そしてクローゼットの奥にしまってある箱をごそごそと取り出した。そこにはアルバイトの時に使っていたかつらがある。服は辺境にいる時に着ていた乗馬服を引っ張り出して着替えた。念のために軽く化粧をしてほくろも書いておいた。公爵夫人が夜遅くに一人でうろうろしている所を見られては困るので変装は必須だ。

 玄関から出ると見つかり止められるので部屋のバルコニーから出ることにした。二階の部屋なので目の前の大きな木に飛び移り幹を伝いスルスルと下りる。木登りも部屋の脱走も実家で散々していたので慣れたものである。

 辻馬車に乗り目的地へ向かう。なんかじろじろ見られているが気にしない。会食が行われる店の近くで降り、てくてく歩いてお店の前に着いた。

(なんか……お食事処と宿を兼ねている。これは逢瀬に使いたい放題だわ)

 メイナードのいる部屋をどうやって探そうかと思案していると入り口に馬車が止まりイレーナが降りて来た。

(やっぱり!! エイデン侯爵じゃなく夫人と落ち合う計画だった)

 エルシィはスルっと身を隠しながら入り口に視線を送る。イレーナは店員の案内で階段を上がっていくところがちらりと見えた。エルシィは建物の裏側へ回る。昼間は庭を解放しているが夜は灯りもない。逢瀬用にわざと暗いままにしているのかもしれない。エルシィは夜目が利くし今夜は月明かりがあるのでよく見える。下から二階の休憩室を観察する。薄明りが付いた部屋が一つだけある。他の部屋は真っ暗だから使われていないことを祈り(むしろ使われているかもしれないが)、灯りのある部屋の前の木を登りその部屋のバルコニーを目指す。音をたてないように靴は脱いでおく。自分の勘を信じて行動した。

 ことが始まる前に現場を抑えないとあらぬ姿の二人を見る羽目になる。それは立ち直れないかもしれない。もし違う部屋に侵入してしまったらそのときはそのときだ。そっと逃げよう。目的の部屋のバルコニーに降り立つと大きなガラス扉に耳をつけ室内の様子を窺がう。
 声が聞こえる……。エルシィは半目になった。

「イレーナ。もうこれ以上は……」

「いやよ。メイナード。やめたりしない。最後までーー」

 もう始まっている?! 一瞬だけ迷った。ここで踏み込めば決定的な現場を押さえられる。でもこの状況だと離婚になりそう。それはメイナードとの別れを決定づける。離婚はしたくないのよ。ただ浮気をさせたくないだけで。

 エルシィは自分がこんなに情けない女だと彼と結婚するまでは知らなかった。結婚するまでは浮気男なんて最低ですぐにでも捨ててしまえばいい。それなのに世の女性は許してやり直す。理解が出来なかったが今は……。浮気(まだ疑惑)をされても好きだという気持ちが捨てられない。反省して二度としないと誓ってくれるなら一度だけ、一度だけは許してもいい。彼を失いたくない。だからといって見なかったことには出来ないので絶対に乗り込む。

 でも今入ったら二人が熱く絡み合っているかもしれない。耐えられるかしら。泣いてしまうかもしれない。泣く前に殴るかもしれないけど。エルシィは深く深呼吸を繰り返した。許すか許さないかはこれから決めよう。とにかく現場を押さえる。すくっと立ち上がり音をたてないようにガラス扉をゆっくりと開いた。
 
 隙間から身を滑らせ部屋の中へ忍び込む。しゃがんで二人の居場所を確認しようと視線を彷徨わせると右側に大きなベッドがある。ひいいいーー! でも声は反対側から聞こえてくる。ここは続き部屋になっている。エルシィは声のする方へ四つん這いで移動する。二人とも気持ちが高ぶってベッドに行く前に始めたの?
 段々と声がはっきりと聞こえてくる――。

「私、もう後悔はしたくない! お願いだから――」

「君の気持ちは分かっている。だがこれ以上は――」

 お願い? 何を?! エルシィはカッとなって立ち上がり二人のいる部屋の中に突入した。



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