君が始めた『恋人ごっこ』の終わらせ方は・・・

兎卜 羊

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37 朝に起きるは意識か羞恥か

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 ピピピピピピピピ

 スマホの目覚まし機能のアラーム音に寝ていた意識が薄っすらと覚醒する。けど、起きれる程やないしまだ眠たい。今日はなんだか体がダルいし重いからなおさらや。
 安眠の邪魔をするアラームを消すべく、枕の横が定位置のスマホに手を伸ばそうとするけど、何かが引っ掛かって腕が上がらへん。

(布団でも巻き付いてんのか?)

 布団の中でもぞもぞ動くけど一向にアラームを止められない現状にイライラがつのってくる。

「んぅ~~っ!」
「あ……スマホ? これか?」
「!?」

 苛立ちのまま唸ると、誰かの声。それと手の中に冷たくて硬質感な物が握らされて一気に目が覚める。

「は!? え、あっ」

 混乱のあまり焦点が定まらない視線を巡らせるけど目の前は部屋の壁。

「止めねぇの?」
「え、あ」

 背後からの声に手の中の硬質感がスマホだと気付き、咄嗟にアラームを止める。
 そこでようやく背後にいるのは秋坂君で、その秋坂君の腕が布団の上から僕の体を包み込んどるせいで身動きが取りにくかった事に気付く。
 狭いシングルベッドの上、男二人がギュウギュウにくっ付いて寝ていれば、そりゃあ身動きも取られへんのも納得やけど。
 ピッタリと僕の背中にくっ付く秋坂君の存在を意識した途端、体に力が入ってしまって余計に動かれへんくなる。

「加嶋、今、寝ぼけてただろ」
「う……いや……」

 カーテンが閉まっているとはいえ、薄っすらと明るい室内。軽く上体を起こした秋坂君に笑いながら上から覗き込まれてしまっては変に緊張してもうて上手く答えられへん。
 昨日、ちゃっかりとローションとコンドームを使った僕等は、疲れ切って軽くシャワーだけを浴びて同じベッドの上で速攻寝てしまっていた。当然、来客用の布団なんてある訳もなく、せやからといってどちらかが床で寝るのなんてありえへんねんから当然と言えば当然の結果なんやけど。
 その事を寝ぼけとったとはいえ、すっかり忘れとった僕は、気の抜けた間抜けな姿を見せてしもうた気がして秋坂君が見られへん。

「お、おは、よう……えっと……ごめん、起こしてもうた、かな? 今、八時半やけど……もうちょっと、寝といてくれても……」
「……」

 恥ずかしさを誤魔化すために口数があからさまに多くなる。けど、秋坂君からはなんの返事もなければ動きもない事に僕の口数はすぐに萎んで消えていった。
 学校でも常に誰かと喋り、僕の何倍もおしゃべりな秋坂君が返事を返さないなんて滅多にあらへん事や。そんないつにない秋坂君の様子に恐る恐る視線を上げると、そこには半笑いのような、痒みを堪えているような、なんとも難しい表情をした秋坂君がいた。

「え、な……なんなん?」
「……あ~、いや……起きたら加嶋が隣で寝てる今の状況を噛みしめてたら、なんか……さ」

 もじもじ、という表現がピッタリはまるような仕草で自分の口元を手で隠した秋坂君が珍しく僕から視線を外す。
 それを言ったら、僕だって秋坂君と一緒に朝を迎える今の状況に照れてない訳がなくって。ギリギリのところで叫び出したい衝動を抑えとったのに、秋坂君にそんな態度を取られてまうと、なんとか取り繕っとった気恥ずかしさが誤魔化せへんくなる……。

 一度意識してしまうと止めどなく湧き上がる羞恥心に、僕も秋坂君から視線を外して熱くなる頬を手の甲で隠す。

「……」
「……」

 お互い視線を外したまま気まずい沈黙が部屋に流れる。
 何か言わな……とは思うけど、元々そんなに喋るのが得意やない僕がこんな時に気の利いた事を言える訳がない。いっそ起き上がってこのベッドの上から逃げるか、と起き上がるタイミングを計って、頭の中で数を数えてみたりする。

(1、2、3で起き上がる……1、2、3で起き上がる……1……2……)

「なぁ、加嶋」
「ひぃッ!」

 起き上がるタイミングに気を注いでいる時に秋坂君に呼ばれ、ビックリしてベッドが軋む。
 でも、ベッドが軋んだのは僕の体が跳ねただけやなくて、秋坂君が僕の体の上に体重を乗せて来たのも原因やった。

「ちょっ、と……重い……」

 布団の中、体を横にして寝ていた僕の上から秋坂君が密着してくる。それに文句を言うけど、秋坂君は僕の頭に自分の頭をグリグリする付けてくるだけで、どいてくれる様子はない。
 そして、これだけ全身で密着されるとなると必然的に下半身も密着してくる訳で……。
 僕の太ももに、硬さを持った秋坂君のモノが当たっていた。

 朝なんやし、この現象は健康な男子なら致し方ない。僕も今現在、秋坂君と同じ状態やし……。
 とはいえ、それが当たっとって冷静でおれるか、と言われれば話は別や。
 ソ……とそれとなく体勢を動かして当たる秋坂君のモノから太ももを離そうとする。のに、秋坂君はそんな僕の動きを封じるように足を絡みつかせるとゴリ、と当てて来た。

「あ、秋坂君!? 何してっ」
「ん~。なんか……この状態で離れるのって、勿体なくね?」
「何が!?」

 勿体ないって、何が!?
 僕の上に乗っかっていただけの体が、抱きしめるように僕に腕を回してくる。

「ちょーっとだけ……昨日の続きが、したいなぁって」
「昨日の続きて……」

 昨日の続き、と言われて二人で夜まで遊び続けとったゲームやなんて思うほど、僕の頭はおめでたくない。

「今日、買い出しに付き合ってくれるんやなかったん?」
「勿論、荷物持ちでも何でも任せてくれていいよ。だから少しだけ……」
「……」
「キスしていい?」
「……せやから、そういうの……聞かんといて、や」

 恥ずかしさから、僕の顔を覗き込む秋坂君の目を見ずに言うのを、秋坂君が笑う。
 最近になって度々聞かれるこの手の質問。秋坂君曰く、深く反省したからや、って事らしいけど、聞かれる身としてはいささか気恥しいから止めて欲しい。

「それって、聞かなくってもしていいって事?」
「……」
「かーしーま……。黙ってたら都合よく受け取っちゃうけど、いい?」

 いい、とも駄目、とも言えず、僕はチラリ、と秋坂君を見る。目が合った瞬間の秋坂君の嬉しそうな顔がズルい。
 言葉にするのが苦手な僕は、お腹に当てられた秋坂君の手の上に自分の手を重ねる。

 外からは大型トラックでも通ったのか、重たい走行音と唸るエンジンの音が聞こえる。その音に交じって、部屋には衣擦れの音と二人分の呼吸音、それと舌を濡らす音が僕の鼓膜を震わせた。
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