君が始めた『恋人ごっこ』の終わらせ方は・・・

兎卜 羊

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39 有言実行で馬鹿正直な君

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「そう言えば……加嶋は大学いつから?」
「え? えっと……」

 イチゴの酸味を飲み込んだところで秋坂君に聞かれ、一応、スマホの中のスケジュールを確認する。

「四月の三日、やね……秋坂君は?」
「俺の所は四日。そっか~。お互い自由の身は残り少ないな」

 肘を付き、溜息を吐く秋坂君も自分のスマホを覗き、残りの休日の日数を数えて、さらに大きな溜息を吐く。

「大学……楽しみやないん?」
「楽しみだけどさ~、俺にだってそれなりに不安もある訳よ。何よりも加嶋に会えなくなるのがな……寂しいな」
「……そ、か」

 僕と会えないのが寂しい、と秋坂君は言うけど、僕はどうなんやろう。
 秋坂君の、少し寂しさを滲ませた視線にふと考える。

 僕は秋坂君の事が好きで、好きやから一緒にいるのが辛くて離れる為に大阪に来たほどや。でも、今は……?
 一緒に買い物に行って、ゲームして、食事して、会話して、キスもセックスもして、一緒に寝て。今までやった事も、やった事の無い事も、東京だと辛かった事が今は楽しい、と感じてる。
 それは、秋坂君が僕を好きやと言ってくれたからか、それとも大阪での環境がそう思わせてくれてるからかは分からんけど。一緒にケーキを食べながら、何気なく肩とか膝が触れる度にドキドキして、そのときめく事すら心地いいとさえ思ってる。

 無意識に、このほんまに恋人みたいに過ごす時間を受け入れとった自分は、この時間が終わる時、きっと寂しいと思うんやろうな。
 この先どうなるかなんて分らんねんから、そんな感情は持ったらあかん、と思うのに、人の心はままならんもんや。

「秋坂君は、いつまで大阪におんの?」

 せめて、今のこの時間の限りを知りたくて聞く。
 別に、深い意味はない。ただ、東京への帰りが高速バスにしろ新幹線にしろ、乗り場まで付いてったらな秋坂君一人ではまた梅田地下街で迷ってしまうやろうから聞いてるだけや。

「う~ん……いつまでだったらいても大丈夫な感じ?」
「え?」

 まさかの質問を質問で返され、ケーキにフォークを突き刺していた手を止める。
 
「僕は別に……入学式まで特になんもないから……。秋坂君こそ、卒業旅行に行く日取りとか、あるやろ?」
「ああ、キャンセルした」
「ええ!?」

 いつもの仲の良いメンバーで行く、って。それに、早い段階で予約も済ましてるって話やったのにキャンセル!?

「俺だけな」
「なんで……?」
「俺には加嶋がいんのに女子も来る旅行に行くのは駄目だろ。俺も行きたくないし……。それに瑞穂もいるしな……。俺がいたんじゃ楽しめないだろ。流石の俺だって気まずいわ。だから俺は行かね」

 絶対、女子は俺の悪口大会で盛り上がるんだぜ! と笑う秋坂君に僕はなんと言えばええのか。
 そうは言っても、秋坂君の性格からして絶対卒業旅行とか、ああいうイベント事大好きやろうし。イベントといえば率先して参加して騒いどったのを短い間とはいえ同じ教室で見て来て、僕は知ってる。
 せやから、僕は罪悪感のような、負い目のような、なんとも現しがたい負の感情に胸がジクジクする。

「……秋坂君は……それで、良かったん? 折角の卒業旅行やったのに」

 今、僕がそれを言った所でキャンセルしてしまったものをどうこう出来るものではないとは思う。けど、僕のせいで卒業旅行に行けへんくなったんやったら……。

「加嶋は関係ないからな。全部俺の都合だから」

 僕の感情を読んだかのように、秋坂君が僕の髪をグシャグシャッ、と乱暴に掻き回す。

「うわ、ちょっと!」
「色々理由はあるけど、それよりも加嶋のいる大阪に来たかったのが一番の理由だから。だって、隣に住んでる奴とか気になるだろ! 変な奴だったら大変だしさ。それに、あいつらは会おうと思えばいつでも会えんのに、加嶋とは会えなくなるんだぞ? だから会えるうちに会っておかないと……」

 そう話しながら、秋坂君はケーキの最後の一口を頬張る。そして、僕はボサボサにされた髪を手櫛で整えながら秋坂君を見る。
 今の秋坂君の発言で全てを納得した訳やないけど、秋坂君が本気でそう思って行動した事だけは分かる。

「加嶋からの信用をこれ以上なくしたくな……ん? あっ! この場合、男も駄目か!? だって俺達男同士な訳だし、俺は加嶋が他の男と旅行行ったり二人っきりになったりしたら気が気じゃねぇよ! よし、あいつ等とも距離をおくか」
「いや、なんでやねん! あかんあかん、待ってや、極端すぎるって!!」

 穏やかに微笑んでいたのが一転、急に眼を見開いたかと思ったら、随分と突飛な事を言い出した秋坂君を慌てて止めに入る。

「そんな事したら人間関係総崩れすんで!? 大体、秋坂君の友達って皆ノンケちゃうん? 間違ってもそんな……関係になりそうなん?」
「ないないないない!! アイツ等とだなんてそんな……うぇっ、気持ちわるっ……」

 僕の質問にブンブンと勢いよく頭を振った秋坂君が、物理的になのか、それとも自分の想像に気持ち悪くなったのかは分からへんけど片手で口を押える。若干、顔色も悪い気がする。
 あまりにも僕の予想の斜め上な事を言う秋坂君の発想にビックリしたけど、慌てふためく秋坂君を見ていると一周回って面白くなって来て笑ってしまう。
 やって、論理も理屈も合わへん結論で滅茶苦茶過ぎやねんもん。

「笑うなよ……俺は本気で加嶋の事を大事にしたくて――」
「せやったら、友達とは今まで通りでおってや。それに、そんな事で秋坂君が人付き合いの幅を狭めてまうんは、違うと思うし……僕は嫌や」

 女の子と……それこそ、多田さんの時みたいに接しとるところとか見たら、そりゃ……嫌っていうか、悲しくは、なってまうと思う。秋坂君を信じられへんとか言うといて勝手やとは思うけど……。
 けど、これから大学も始まって大切な時期や。そんな時に僕を理由に人との関わりに制限かけるのは止めて欲しいと思うのは、当然やろ。
 それに、僕は秋坂君を束縛したい訳やないし、そもそもそんな権利があるとも思ってへんし。

「……俺が、お前を大事にすんのは駄目なのかよ?」

 まるで拗ねた子供のようにムスっとした表情の秋坂君が、横から僕に抱きついて文句を言って来る。
 僕の肩口に顎をのせて、至近距離からの視線がこそばゆい。

「そう言う事やなくて……常識の範囲内でお願いします、て……事で」
「常識ぃ……?」
「えっと……節度を持った距離感を守る程度で……かな」

 表情までは見れへんけど肩口から聞こえる声は不満げで、苦笑いで答える。
 そんな僕の苦笑いが気に入らんかったのか、秋坂君が僕の頬を摘まんで引っ張ってくる。

「いひゃい」
「笑うからだろ。しょうがねぇから加嶋の希望通りに常識の範囲内で納めておいてやるよ」

 束縛とかするつもりはないから自由にしてくれ、って言うて、なんで偉そうに妥協してやった感を出されるのか。相も変わらずな秋坂君に呆れるような、いっそ尊敬してしまいそうや。
 理不尽にも引っ張られた頬は別に痛くはないけど、ささやかな反撃の意味を込めてこれ見よがしに手の平でさする。

「秋坂君て……凄いな」
「なんだよ急に」
「いや……馬鹿正直やなぁ……って」
「は? 俺、馬鹿にされてる?」

 旅行に行くにしても、女の子と仲良くするにしても、人間関係なんて黙っとったら分からへんのに。遠距離やったらなおさらやし、いくらでも誤魔化せんのに馬鹿正直に旅行止めたり縛りを提案したり……。
 常にクラスで騒ぐリア充で不誠実、ってイメージが強かったけど、実は滅茶苦茶真面目な性格やったんやろか。

 そんな事を考えていれば肩に乗る重みが消え、振り返ると秋坂君が眉間に皺を寄せて僕を睨んどった。
 そんな顔、以前は毎日のように見とったのに最近では久し振りやな、なんて感慨深く見てしまう。

「褒めとるよ……。言わんかったらバレへんのに……有言実行やなぁ、って……」
「ふーん……じゃ、そんな有言実行な俺に少しくらいは惚れた?」
「……どうやろな」

 惚れ直した。なんて言葉は絶対に言えへんけど、代わりにさっきのお返しにと秋坂君の頬を摘まむ。
 いつも笑っとるからか秋坂君の頬は思ったより固くて、摘まむ僕の手は直ぐに取られて体ごと秋坂君へと引っ張られてしまう。

「じゃ、これからだ」

 随分とプラス思考な事を呟く秋坂君の唇が僕の唇に触れる。
 前回は不快やった生クリームの香りのするキスが不思議と今は不快やなくて、僕は自ら舌を伸ばして甘い舌に絡めた。
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