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35 魔王様の隣のアレ、職務怠慢ダメ絶対!
「ん?」
今まさに曲がった先の突き当り、そこに女の人が立っているのが見えてマレクとアメルが足を止める。
「あら」
あちらも僕らの存在に気が付いたのか、大きく広がったスカートを優雅に揺らしながら笑顔で僕らの元へと歩いてきた。
「丁度良かったですわ。官吏様のお部屋にお届け物をお持ちしましたのに扉が開かなくて困っていましたの」
丁度、女の人が立っていた前のお部屋が魔王様が泊まられるお部屋だったらしくって、女の人曰く、押しても引いても扉が開かず、お屋敷で保管していた鍵を使っても開かないから困っていた、と女の人は眉を下げて言うけど……お届け物を持ってきた、っていうのに手元には何もない。
怪しい……怪しいぞ……この女の人。
そもそも、客人の為に用意したお部屋に鍵を使って勝手に入ろうとした時点でアウトでしょ。
「それはそれは、リータ嬢直々にお持ちいただくとは……。私どもの侍従に言って下さればよろしかったのに、お手数をおかけして申し訳ございません。私から官吏様にお渡ししておきましょう」
ああ! 誰かと思ったらここの領主のおじさんの娘か! なんか見覚えはあるんだけど誰だったかな~、って思ってたんだよ。
そんな貴族のお嬢様を僕らが怪しいって思う位だもん。当然、マレクとアメルも怪しいと思ったんだろうね。抱っこしていたネオをアメルに渡したマレクがリータさんの前に進み出て手を差し出す。
反対に、アメルは僕とネオを抱っこしたまま、不自然にならない程度に数歩後ろに下がって距離を取った。
「それには及びませんわ。官吏様に直接お渡ししたいので、部屋の中で待たせていただけます?」
「それは出来かねますね」
うっそりとした笑顔を浮かべて当然のように部屋に入れろ、というリータさんの言葉をマレクがバッサリと切り捨てる。
「わたくしの屋敷の部屋なのに?」
「今は官吏様がご利用されますので、ご遠慮願えますでしょうか?」
マレクは至極まっとうな事を言ってると思うんだけど、言われたリータさんは断られる意味が分からない、って顔をしてて、こっちがなんで? って感じなんだけど。
もしかして話の通じないタイプ? だとしたらヤバイ、怖い! サイコパスなのは魔族らしくて結構だけど、自分達に向けられるのはや~だぁ~!!
逃げたいけど逃げれないアメルの腕の中で、せめてもの心の安定感を求めてネオの手を握る。
そんなビビる僕の目の前で、マレクはキョトンとした顔をするリータさんに近寄ると、まるでエスコートをするかのように寄り添う。
「官吏様はいつお戻りになられるか私共も分からないので、今はご遠慮下さい。お時間をいただけるなら、後ほど私の方から受け取りに参らせていただきたく思うのですが、よろしいでしょうか?」
女の人受けしそうな笑みを浮かべたマレクが、リータさんの顔を覗き込むようにして高い背を屈ませる。
常に魔王様を見てるから気にしてなかったけど、マレクもアマルも結構顔がいい。いかつくない程度に男らしく整ってて、ゴッツイ甲冑だって格好よく着こなせちゃうくらい体型だっていいし。
そんなイケメンな騎士に甘く微笑まれて、リータさんはまんざらでもない顔ではにかんでる。
「まぁ……そこまで言うなら、それでもよろしいですけど……」
しかも、マレクったらキザっぽくリータさんの手なんか取っちゃってさ。あ~あ、リータさんってば体をくねくねさせて、すっかりマレクに対してデレデレだ。
そんなリータさんの横を、アメルが僕らを抱っこしたまま素早く通り過ぎて、魔王様のお部屋の前に移動する。
あれ!? もしかして、これってマレクが囮になってくれてる感じ!? マレクがリータさんの意識をそらして、その隙にアメルが僕らを逃がしてくれる的な?
何も言わずとも互いに連携して行動するマレクとアメルの騎士らしい機敏な格好良さに、こんな時だけど興奮しちゃう!
お部屋の扉の前、リータさんは鍵が開かないって言ってたけど、どうするんだろうと思ってると、徐にアメルが足で扉をノックする。
僕らを両手で抱っこしてるからしょうがないとはいえ、予想外に乱暴な行動にビックリしてると、直ぐに扉が中から開いて僕らは部屋の中に滑り込むようにして入った。
「大丈夫ですか? ネオ様、セオ様」
どうやらお部屋の中にはずっとダリウスがいたらしくって、僕らが部屋に入ると素早く扉を閉め、再び鍵をかける。
「まったく、不躾なお嬢様がずっと部屋の前でウロウロされるものだから参りましたよ」
床に降ろされた僕達のマントを脱がしながらダリウスがブツブツと文句を言う。
相手が領主の娘となると、ただの従者でしかないダリウスでは立場的に弱くて、命令されると断るのが難しいらしい。これが魔王様の従者だったら話は変わってくるんだろうけど、今は魔王様が官吏と身分を偽ってるからそうもいかないんだって。
そんな、なかなかに厳しい状況回避の為に、お部屋の中でひっそりと居留守をキメてたらしいダリウスには同情しちゃう。
鍵に関しては、防犯の観点からあらかじめ魔法でロックしてたらしいけど、それがなかったらと思うとゾッとするね。
もし、魔王様がお部屋に戻られた時にリータさんが部屋の中にいたら……? 想像しただけでゾォッとする!!
そんなの、絶対にお怒りになるよ! 絶対、一瞬にしてリータさん黒焦げの消し炭になっちゃうよ!! そして、その時には部屋に入れた罪で僕達まで怒られちゃうんだぁー!
やすやすと思い描ける顛末に、一気に背筋が寒くなった僕はネオにしがみ付く。
そんな僕をよしよししてくれるネオがいなきゃ、僕は今頃泣きながら廊下の巨大な壺の中に逃げ込んで、一生出てこれなくなってた!
「大丈夫ですよ、ネオ様、セオ様。この部屋の中には、わたくし達以外は入れません。それに、何かあっても魔王様もいらっしゃいますからね。」
ダリウスが怯える僕を慰めようと色々言ってくれるけど、違うんだよ~! 何かあった後の魔王様が怖いから、怯えてるんだよ!! 魔王様がいるから怖いの!
ダリウスと一緒に、先にお部屋に入っていたらしいジャッカロープが僕の足元に駆け寄ってきたのを抱き上げてギューって抱きしめる。
ああ、ジャッカロープ吸いって、恐怖で震える心を癒す効果があるんだ。凄い……
「領主には娘の迷惑行為について抗議はしますが、恐らく領主からの指示でしょうね。ハニートラップのつもりなんでしょうが、やり方が安っぽいんですよ」
廊下側の壁に背中を付けたアメルが頭の上の大きな獣のお耳をピクピクさせながら、心底面倒くさそうに呟く。
どうやら、狼のお耳で外の様子を伺ってるらしいけど、マレクは大丈夫なのかな? リータさんとお話してるとしても長くない? そんな事を考えながらアメルのピクピク動くお耳を眺めて……って、思い出した!!
マレクに魔王様のマントを預けたまんまだった!
マレクは強いから女の人相手に負ける事も傷つけられる事もないだろうけど、マントは別! 多少の事では破れたりしない特注品らしいけど、あんな無断で部屋の中で待ち構えようとする女の人なんて何をするか分かんないじゃん!?
魔王様から預かったマントを人に渡したうえに汚した、なんて事になったら僕らの小姓としての責任問題じゃないか!
ネオのよしよしとジャッカロープのもふもふには後ろ髪が引かれるけど、今はそれどころじゃない!! ってジャッカロープを床に降ろしてネオから離れると、アメルみたいに廊下側の壁に張り付く。
「セオ様?」
横から不思議そうなアメルの視線を感じるけど、構わず壁に耳をペタリとくっつける。
だってほら、僕にはアメルみたいな獣のお耳は付いてないから。古典的な方法だけど、お部屋の外の音を聞くってなったらコレだよね。
何とかして魔王様のマントの無事を確認したくて廊下の現状を知ろうと耳を澄ましてはいるけど全然聞こえない……。
場所が悪いのかな? と思ってズリズリと壁を這いながら移動するけど聞―こーえーなーいー!! こうなったら、ここはさらに古典的手法でコップを壁にあてて使う手口でいっちゃう?
お部屋の外の音を聞き取ろうと四苦八苦する僕の袖がクイクイッと引かれて振り返ると、そこにはネオがいて、何してるの? って感じで首をかしげてた。
『魔王様のマント』
口の動きと壁の向こう側へ向けて袖を振りながら指さすと、それだけでネオには僕の言いたい事が伝わったみたい。手に口を当て微かに目を見開くと、慌てた様子で僕と同じように壁に耳を当てる。
流石ネオ! たった一言で全部分かってくれるなんて……これぞ以心伝心! だね!!
僕と向かい合わせになって一緒に耳を澄ませるネオとの素晴らしい以心伝心に感動していると、僕らの足元にぴょこぴょこっとジャッカロープが寄ってくる。そして後ろ足で立ち上がると、壁に大きくて長いお耳とふくふくのほっぺをペタ、っとくっつけた。
何これ!? 何これ、可愛い~!! これって僕らの真似だよね? まさか声真似だけじゃなくて行動まで真似しちゃうの!? そんなの、可愛すぎる!!
ジャッカロープが小さなシッポをピルピルさせながら、心持ち神妙な顔をしている気がして、それすらもたまらなく可愛くって、今すぐなでなでして愛でたい衝動に襲われる。けど、今は我慢!
今、最優先しなくちゃいけないのは魔王様のマント! 可愛いを詰め込んだみたいなジャッカロープから涙を呑んで無理矢理視線を外し、もう一度お耳を澄ます。
『聞こえる?』
『聞こえない』
『魔王様のマント……』
『どうしよう』
ネオと僕が口の動きだけで話し合ってると「それでは、おへやまでおくっていただこうかしら~」と、まさかの足元からリータさんの声!?
咄嗟に視線を落とせば、そこには可愛らしいクリクリのおめめで僕達を見上げた……って、やっぱりジャッカロープ~!!
まさか、壁の向こう側の声まで聞こえて声真似するなんて、どれだけお耳がいいんだろ。
ここでも健在な『飛び跳ねる盗聴器』を感嘆の眼差しで見下ろしてると、僕らからの視線を浴びて、どこか誇らしげに胸を張ったジャッカロープがフフン! って鼻を鳴らしてて……も~、可愛いんだから!
こんなにも可愛いジャッカロープを早く撫でたい! 愛でたい!! その為にも早くマレク、というか魔王様のマントに帰って来てもらわないと!
さっきのジャッカロープの声真似からすると、リータさんを送って行くみたいな感じだったけど、それってマズイんじゃないのかなぁ!?
魔王様のマントは置いてって! お願いマレク!! 万が一、今、魔王様がお戻りになられたらどうすんのさ!!
これはヤバイ、ってネオと顔を合わせて内心で唸ってるのをダリウスとアメルが微笑ましそうに見てくるけど、僕達は遊んでる訳じゃないからね!!
別に、皆で真似っこごっこしてる訳じゃなんだよ! いたって真面目に魔王様のマントと魔王様のお怒り回避を考えてるの!
なのに、ダリウスもアメルも「本当に仲がよろしくて」なんて笑ってるけど、そんな暇があるならマレクが行っちゃう前に魔王様のマントを受け取りに行って来てよ~。
一か八かでジェスチャーで伝えてみるけど、アメルにもダリウスにもいまいち伝わらない。
「外? 兄上なら大丈夫ですよ。心配はいりませんよ?」
「あ! もしかして……魔王様を呼んできて欲しいのですか?」
ちっがーう!!
閃いた! って顔でとんでもない事をいうダリウスに向かってブンブン首を横に振る。
その魔王様がヤバイから、戻って来られる前にリータさんとマントを何とかしたいのに、呼んじゃったら意味ないじゃん!!
魔王様を呼ばれてはたまったもんじゃない!
僕達は大慌てでダリウスの太ももに抱きつく。一歩だって進ませないんだから!!
「ちょ! ネオ様!? セオ様!? あっ、危ないですから!! うわぁぁ、ジャッカロープまで!?」
僕らが遊んでいると思ったのか、ジャッカロープがダリウスと僕らの周りをハイテンションでグルグルと走り回って、その場は一気に大騒ぎだ。
断固、魔王様なんて呼ばせない! っていう僕らに歩行の邪魔をされ、バランスを崩しそうになるのを耐えるのに精いっぱいのダリウスと、そんな僕らを引き剝がすべきかどうか分からずオロオロするアメル。それと混乱のどさくさに紛れてアメルに蹴りを入れるジャッカロープとの攻防は、リータさんを送り届け戻ってきたマレクがお部屋に入ってくるまで続いた。
◆次回~~To be continued~~
今まさに曲がった先の突き当り、そこに女の人が立っているのが見えてマレクとアメルが足を止める。
「あら」
あちらも僕らの存在に気が付いたのか、大きく広がったスカートを優雅に揺らしながら笑顔で僕らの元へと歩いてきた。
「丁度良かったですわ。官吏様のお部屋にお届け物をお持ちしましたのに扉が開かなくて困っていましたの」
丁度、女の人が立っていた前のお部屋が魔王様が泊まられるお部屋だったらしくって、女の人曰く、押しても引いても扉が開かず、お屋敷で保管していた鍵を使っても開かないから困っていた、と女の人は眉を下げて言うけど……お届け物を持ってきた、っていうのに手元には何もない。
怪しい……怪しいぞ……この女の人。
そもそも、客人の為に用意したお部屋に鍵を使って勝手に入ろうとした時点でアウトでしょ。
「それはそれは、リータ嬢直々にお持ちいただくとは……。私どもの侍従に言って下さればよろしかったのに、お手数をおかけして申し訳ございません。私から官吏様にお渡ししておきましょう」
ああ! 誰かと思ったらここの領主のおじさんの娘か! なんか見覚えはあるんだけど誰だったかな~、って思ってたんだよ。
そんな貴族のお嬢様を僕らが怪しいって思う位だもん。当然、マレクとアメルも怪しいと思ったんだろうね。抱っこしていたネオをアメルに渡したマレクがリータさんの前に進み出て手を差し出す。
反対に、アメルは僕とネオを抱っこしたまま、不自然にならない程度に数歩後ろに下がって距離を取った。
「それには及びませんわ。官吏様に直接お渡ししたいので、部屋の中で待たせていただけます?」
「それは出来かねますね」
うっそりとした笑顔を浮かべて当然のように部屋に入れろ、というリータさんの言葉をマレクがバッサリと切り捨てる。
「わたくしの屋敷の部屋なのに?」
「今は官吏様がご利用されますので、ご遠慮願えますでしょうか?」
マレクは至極まっとうな事を言ってると思うんだけど、言われたリータさんは断られる意味が分からない、って顔をしてて、こっちがなんで? って感じなんだけど。
もしかして話の通じないタイプ? だとしたらヤバイ、怖い! サイコパスなのは魔族らしくて結構だけど、自分達に向けられるのはや~だぁ~!!
逃げたいけど逃げれないアメルの腕の中で、せめてもの心の安定感を求めてネオの手を握る。
そんなビビる僕の目の前で、マレクはキョトンとした顔をするリータさんに近寄ると、まるでエスコートをするかのように寄り添う。
「官吏様はいつお戻りになられるか私共も分からないので、今はご遠慮下さい。お時間をいただけるなら、後ほど私の方から受け取りに参らせていただきたく思うのですが、よろしいでしょうか?」
女の人受けしそうな笑みを浮かべたマレクが、リータさんの顔を覗き込むようにして高い背を屈ませる。
常に魔王様を見てるから気にしてなかったけど、マレクもアマルも結構顔がいい。いかつくない程度に男らしく整ってて、ゴッツイ甲冑だって格好よく着こなせちゃうくらい体型だっていいし。
そんなイケメンな騎士に甘く微笑まれて、リータさんはまんざらでもない顔ではにかんでる。
「まぁ……そこまで言うなら、それでもよろしいですけど……」
しかも、マレクったらキザっぽくリータさんの手なんか取っちゃってさ。あ~あ、リータさんってば体をくねくねさせて、すっかりマレクに対してデレデレだ。
そんなリータさんの横を、アメルが僕らを抱っこしたまま素早く通り過ぎて、魔王様のお部屋の前に移動する。
あれ!? もしかして、これってマレクが囮になってくれてる感じ!? マレクがリータさんの意識をそらして、その隙にアメルが僕らを逃がしてくれる的な?
何も言わずとも互いに連携して行動するマレクとアメルの騎士らしい機敏な格好良さに、こんな時だけど興奮しちゃう!
お部屋の扉の前、リータさんは鍵が開かないって言ってたけど、どうするんだろうと思ってると、徐にアメルが足で扉をノックする。
僕らを両手で抱っこしてるからしょうがないとはいえ、予想外に乱暴な行動にビックリしてると、直ぐに扉が中から開いて僕らは部屋の中に滑り込むようにして入った。
「大丈夫ですか? ネオ様、セオ様」
どうやらお部屋の中にはずっとダリウスがいたらしくって、僕らが部屋に入ると素早く扉を閉め、再び鍵をかける。
「まったく、不躾なお嬢様がずっと部屋の前でウロウロされるものだから参りましたよ」
床に降ろされた僕達のマントを脱がしながらダリウスがブツブツと文句を言う。
相手が領主の娘となると、ただの従者でしかないダリウスでは立場的に弱くて、命令されると断るのが難しいらしい。これが魔王様の従者だったら話は変わってくるんだろうけど、今は魔王様が官吏と身分を偽ってるからそうもいかないんだって。
そんな、なかなかに厳しい状況回避の為に、お部屋の中でひっそりと居留守をキメてたらしいダリウスには同情しちゃう。
鍵に関しては、防犯の観点からあらかじめ魔法でロックしてたらしいけど、それがなかったらと思うとゾッとするね。
もし、魔王様がお部屋に戻られた時にリータさんが部屋の中にいたら……? 想像しただけでゾォッとする!!
そんなの、絶対にお怒りになるよ! 絶対、一瞬にしてリータさん黒焦げの消し炭になっちゃうよ!! そして、その時には部屋に入れた罪で僕達まで怒られちゃうんだぁー!
やすやすと思い描ける顛末に、一気に背筋が寒くなった僕はネオにしがみ付く。
そんな僕をよしよししてくれるネオがいなきゃ、僕は今頃泣きながら廊下の巨大な壺の中に逃げ込んで、一生出てこれなくなってた!
「大丈夫ですよ、ネオ様、セオ様。この部屋の中には、わたくし達以外は入れません。それに、何かあっても魔王様もいらっしゃいますからね。」
ダリウスが怯える僕を慰めようと色々言ってくれるけど、違うんだよ~! 何かあった後の魔王様が怖いから、怯えてるんだよ!! 魔王様がいるから怖いの!
ダリウスと一緒に、先にお部屋に入っていたらしいジャッカロープが僕の足元に駆け寄ってきたのを抱き上げてギューって抱きしめる。
ああ、ジャッカロープ吸いって、恐怖で震える心を癒す効果があるんだ。凄い……
「領主には娘の迷惑行為について抗議はしますが、恐らく領主からの指示でしょうね。ハニートラップのつもりなんでしょうが、やり方が安っぽいんですよ」
廊下側の壁に背中を付けたアメルが頭の上の大きな獣のお耳をピクピクさせながら、心底面倒くさそうに呟く。
どうやら、狼のお耳で外の様子を伺ってるらしいけど、マレクは大丈夫なのかな? リータさんとお話してるとしても長くない? そんな事を考えながらアメルのピクピク動くお耳を眺めて……って、思い出した!!
マレクに魔王様のマントを預けたまんまだった!
マレクは強いから女の人相手に負ける事も傷つけられる事もないだろうけど、マントは別! 多少の事では破れたりしない特注品らしいけど、あんな無断で部屋の中で待ち構えようとする女の人なんて何をするか分かんないじゃん!?
魔王様から預かったマントを人に渡したうえに汚した、なんて事になったら僕らの小姓としての責任問題じゃないか!
ネオのよしよしとジャッカロープのもふもふには後ろ髪が引かれるけど、今はそれどころじゃない!! ってジャッカロープを床に降ろしてネオから離れると、アメルみたいに廊下側の壁に張り付く。
「セオ様?」
横から不思議そうなアメルの視線を感じるけど、構わず壁に耳をペタリとくっつける。
だってほら、僕にはアメルみたいな獣のお耳は付いてないから。古典的な方法だけど、お部屋の外の音を聞くってなったらコレだよね。
何とかして魔王様のマントの無事を確認したくて廊下の現状を知ろうと耳を澄ましてはいるけど全然聞こえない……。
場所が悪いのかな? と思ってズリズリと壁を這いながら移動するけど聞―こーえーなーいー!! こうなったら、ここはさらに古典的手法でコップを壁にあてて使う手口でいっちゃう?
お部屋の外の音を聞き取ろうと四苦八苦する僕の袖がクイクイッと引かれて振り返ると、そこにはネオがいて、何してるの? って感じで首をかしげてた。
『魔王様のマント』
口の動きと壁の向こう側へ向けて袖を振りながら指さすと、それだけでネオには僕の言いたい事が伝わったみたい。手に口を当て微かに目を見開くと、慌てた様子で僕と同じように壁に耳を当てる。
流石ネオ! たった一言で全部分かってくれるなんて……これぞ以心伝心! だね!!
僕と向かい合わせになって一緒に耳を澄ませるネオとの素晴らしい以心伝心に感動していると、僕らの足元にぴょこぴょこっとジャッカロープが寄ってくる。そして後ろ足で立ち上がると、壁に大きくて長いお耳とふくふくのほっぺをペタ、っとくっつけた。
何これ!? 何これ、可愛い~!! これって僕らの真似だよね? まさか声真似だけじゃなくて行動まで真似しちゃうの!? そんなの、可愛すぎる!!
ジャッカロープが小さなシッポをピルピルさせながら、心持ち神妙な顔をしている気がして、それすらもたまらなく可愛くって、今すぐなでなでして愛でたい衝動に襲われる。けど、今は我慢!
今、最優先しなくちゃいけないのは魔王様のマント! 可愛いを詰め込んだみたいなジャッカロープから涙を呑んで無理矢理視線を外し、もう一度お耳を澄ます。
『聞こえる?』
『聞こえない』
『魔王様のマント……』
『どうしよう』
ネオと僕が口の動きだけで話し合ってると「それでは、おへやまでおくっていただこうかしら~」と、まさかの足元からリータさんの声!?
咄嗟に視線を落とせば、そこには可愛らしいクリクリのおめめで僕達を見上げた……って、やっぱりジャッカロープ~!!
まさか、壁の向こう側の声まで聞こえて声真似するなんて、どれだけお耳がいいんだろ。
ここでも健在な『飛び跳ねる盗聴器』を感嘆の眼差しで見下ろしてると、僕らからの視線を浴びて、どこか誇らしげに胸を張ったジャッカロープがフフン! って鼻を鳴らしてて……も~、可愛いんだから!
こんなにも可愛いジャッカロープを早く撫でたい! 愛でたい!! その為にも早くマレク、というか魔王様のマントに帰って来てもらわないと!
さっきのジャッカロープの声真似からすると、リータさんを送って行くみたいな感じだったけど、それってマズイんじゃないのかなぁ!?
魔王様のマントは置いてって! お願いマレク!! 万が一、今、魔王様がお戻りになられたらどうすんのさ!!
これはヤバイ、ってネオと顔を合わせて内心で唸ってるのをダリウスとアメルが微笑ましそうに見てくるけど、僕達は遊んでる訳じゃないからね!!
別に、皆で真似っこごっこしてる訳じゃなんだよ! いたって真面目に魔王様のマントと魔王様のお怒り回避を考えてるの!
なのに、ダリウスもアメルも「本当に仲がよろしくて」なんて笑ってるけど、そんな暇があるならマレクが行っちゃう前に魔王様のマントを受け取りに行って来てよ~。
一か八かでジェスチャーで伝えてみるけど、アメルにもダリウスにもいまいち伝わらない。
「外? 兄上なら大丈夫ですよ。心配はいりませんよ?」
「あ! もしかして……魔王様を呼んできて欲しいのですか?」
ちっがーう!!
閃いた! って顔でとんでもない事をいうダリウスに向かってブンブン首を横に振る。
その魔王様がヤバイから、戻って来られる前にリータさんとマントを何とかしたいのに、呼んじゃったら意味ないじゃん!!
魔王様を呼ばれてはたまったもんじゃない!
僕達は大慌てでダリウスの太ももに抱きつく。一歩だって進ませないんだから!!
「ちょ! ネオ様!? セオ様!? あっ、危ないですから!! うわぁぁ、ジャッカロープまで!?」
僕らが遊んでいると思ったのか、ジャッカロープがダリウスと僕らの周りをハイテンションでグルグルと走り回って、その場は一気に大騒ぎだ。
断固、魔王様なんて呼ばせない! っていう僕らに歩行の邪魔をされ、バランスを崩しそうになるのを耐えるのに精いっぱいのダリウスと、そんな僕らを引き剝がすべきかどうか分からずオロオロするアメル。それと混乱のどさくさに紛れてアメルに蹴りを入れるジャッカロープとの攻防は、リータさんを送り届け戻ってきたマレクがお部屋に入ってくるまで続いた。
◆次回~~To be continued~~
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※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。
ののよのやんたさん
感想ありがとうございます
いくら可愛くても、そこはどっぷりと・・・なので自分達に害がない限りは容赦なかったりするんですw
引き続き、魔王様の隣のアレをよろしくお願いします!