転生したら『よくある魔王様の隣にいる一対の子供』アレになってた

兎卜 羊

文字の大きさ
14 / 57

9-1 魔王様の隣のアレだって走り出したい時がある

 人間界と魔界は海と時空に隔たれた隣り合った世界である。
 海を渡る事で互いの世界に行き来する事もでき、時空を渡る事で行き来する事もできる。

 海を渡る場合は海に棲む魔獣を搔い潜り、荒れる海原を越え、過酷な航海を経てやっと渡る事ができる。
 反対に、時空は一瞬で相手の世界へ渡る事ができる。
 だが、時空を渡るには熟練の魔術師の力を借りて時空の扉を開けて貰うか、自然と生まれては消える時空の渦を渡るしかない。

 この自然と生まれては消える時空の渦は、何時、何処で発生するのか。出口が何処になるのか。それらが全く分からないイレギュラーな自然災害的な物だった。
 現れるのが突然なら消えるのも突然。ほんの数分で消える事もあれば、何年もその場で発生し続ける事もある。
 そうなれば、おのずとその時空の渦を通り魔獣が人間界へ渡ってしまう事もあった。逆も然りだが、被害の度合いが違う。
 魔界の魔獣とて、か弱い種もいる。しかし、いざ強い種となると人間界のそれらとは桁が違い過ぎた。
 ライオンの胴体にサソリの尾、蝙蝠の翼を持つ人面の魔獣、マンティコア1頭人間界に迷い込んだだけで町1つくらい簡単に滅ぼしてしまうだろう。
 それは人間と魔族でも同じ事が言える。全てにおいて強さが違うのだ。

 そして、人間は恐れるのだ。魔獣を、魔族を、魔界を……
 元々、魔族は血の気が多い。気も荒ければ攻撃的で残虐性もあり、論理感も欠如していると言っても良い。
 しかし、それはあくまでも人間界と比較したうえでの話である。魔界ではそれが普通であり、魔界では魔界の論理観もあれば倫理観も礼儀も規律もある。だからこそ、人間界よりも長く繁栄しているのだ。

 だが、それを理解できない恐怖に捕らわれた人間は、時空の渦を渡り迷い込んだ魔獣を魔族が送り込んだと決めつけ更に恐怖し、受けた被害の全てを魔界の責だと怒りをぶつけて来た。
 魔界の王、魔王が人間界を侵略しようとしている。
 魔王が人間界を滅ぼそうとしている。
 そう、まことしやかに囁かれるようになり、遂に、人間達は勇者なる者を立て魔王討伐だと意気勇んで魔王城へと送り込んで来るようになった。

 だが、それで大人しく襲撃されているような魔族ではなかった。
 魔界独自の論理感を持ち合わせている魔族は、自分達より明らかに弱い者を一方的に襲う事はない。強いが故に無駄な争いはしないのだ。
 だが、一度でも敵意を見せられれば容赦はしない。血の気も多く強者としてのプライドの高い魔族は、どれだけの力の差があろうと向かって行き、問答無用で叩き潰すのだ。

 そうして幾度となく魔王は勇者に挑まれ、その度に叩き潰し薙ぎ払って来た。そして人間に何度も時空の渦の事を伝えた。こちらに侵略の意思もなければ時空の渦も魔族が作り出したモノではない、と。
 なにより、こんな貧弱な種族を滅ぼした所で魔界には何の利もない。
 それに、人間界より大きく広い広大な魔界が小さい人間界など手に入れて何になる。むしろ、手に入れた事による面倒の方が多い。
 そう根気よく切々と説明し、何代か前の人間界の王がようやっと理解を示し、停戦と相成ったのだ。

 と、いうのが僕達がお勉強で習ったのと、今、魔王様からも説明された魔界と人間界のお話なんだけど……

「なんで、また勇者が出てきたんですか?」
「さぁな。大方、人間共の小汚い欲と都合で魔界を利用したんだろ。都合の悪い時こそ都合の良い悪を欲しがる。はっ、実に小者らしい」

 魔王様は顔全体に不愉快を滲ませると、一気にお酒を呷って空になったグラスを僕に差し出してくる。それにお酒を注ぐと、魔王様は今度はゆっくりと口を付け、僕とネオに視線を向けてくる。

「今回の勇者がどういった考えの奴かは知らん。だが、人間は魔族に身勝手にも一方的な憎悪を抱いている。勇者は当然、それに追従して来ている人間にも近寄るな」
 
 今回、やって来る勇者に「わはははは~、残念だったな勇者よ~」ってやって追い払うだけって軽く考えてたけど、裏には色々な事情が絡んでたみたいで複雑な気分。
 これで、魔王様が勇者を殺すんじゃなくって追い払うって言った意味が分かった気がする。
 今殺しちゃうと、滅茶苦茶面倒くさい事になるんだな……
 穏便に帰って頂くのが得策って事かぁ………ゲームとか漫画と違って現実って世知辛~い。

 僕とネオが頷いた事でこの話は終いだ、とばかりに僕に飲みかけのグラスを渡した魔王様はローソファーに寝転がっちゃった。

「昼過ぎに野営地に到着予定だ。着いたら起こせ」

 それだけ言うと魔王様は目を閉じてしまった。
 僕達はブランケットを魔王様に掛けてから、そっと窓に寄ってまた外を眺める事にした。



 魔王様に言われた通り、昼過ぎに降り立った野営地だと言われた場所は地平線の向こうまで草原、という、只々広い大草原だった。
 今日はここで一晩過ごし、明日の朝出立し夕刻ごろネテリアに到着の予定らしい。

 ケートスから降りた所で既に待ち構えていたマレクとアメルを引き連れて僕達は野営地のお散歩に出かける。
 魔王様はお仕事があるとかで、適当に遊んでいろ、との事だったから皆の邪魔をしないように少し離れた所をネオと手を繋いでテクテク歩いて行く。

 見事なまでに草しかないその大草原にケートスとドラゴン、それにグリフォンがそれぞれのびのびと休息を取っていて、それに反して魔族達は野営の準備に奔走していて忙しそう。
 初めて見るゲルのようなテントがテキパキと組み立てられて行くのを見るのも最初は楽しかったけど、終盤になると飽きて来ちゃった。

 折角のお外なのに、いざ出てみると何をしたら良いのか分からなくて戸惑っちゃう。
 何か面白い物はないかとキョロキョロ大草原を見回してると、遠くの方に草の緑以外の色が見えた。明らかに草とは違う白っぽい何かがそこに広がってて滅茶苦茶気になる! 
 ネオの手をクイクイッて引いて遠くの白っぽい場所を指さすと、ネオも気になったみたいで身を乗り出してジーッと見る。
 何だろうアレ……行ってみたいなぁ。ネオも気になるみたいだし、行っていいかな?
 横のネオに顔を向けると、ネオも丁度僕に顔を向けてきた。これはネオも僕と一緒であそこに行ってみたいって事だね!? 
 よし!行こう!!
 僕とネオは頷き合うと、握った手をギュッと握りしめた。

 でも、ちょっと遠いし勝手に行ったら怒られそうだからマレクとアメルに聞いてみようかな。聞くと言っても僕達は話しかける事が出来ないから、これはマレクとアメルの察しの良さを期待するしかないんだけどね。
 僕達の後ろに付かず離れずで付いて来ている僕らの騎士の二人へ振り返り、ネオと一緒に白っぽい場所を指さす。
 さぁ! この無表情にただ指をさす、というジェスチャーでいったい何処まで通じるのか!!

 二人は僕らを見て、それから僕らの指先を見て、さらにその先を見て……
 遠くに見える白っぽい場所に気が付いたのか、ああ、といった顔をマレクがする。

「あの白い所ですか? あれは花です。すぐ側に川が流れていて、そのせいか、あそこだけに白い花が群生しているんですよ」

 伝わったぁ~! マレク推察能力高い! これは期待できるぞ~。あともう一押し!
 僕達は! あそこに! 行きたいの!!
 引き続き指さす僕らを見て、今度はアメルが、あれ? といった顔をする。

「もしかして、あそこに行きたいんですか?」

 そうですそうです! そのとーり!! アメル洞察力高い! 満点あげちゃう!
 うんうんと僕とネオが首を縦に振ったのを見て、アメルが「あそこまで行くとなると……」と唸った後。

「自分達だけでは判断致しかねますので、魔王様に伺って参ります。少々お待ちください」

 そう言って大きな尻尾を翻して駆けて行った。
 え? 魔王様に聞きに行くって、アメルめっちゃ勇気あるじゃん! アメルこそが勇者なんじゃ……
 僕達がアメルのフットワークの軽さに呆然と見送っていると、マレクが側に寄って来て目の前でしゃがみ込んだ。

「ネオ様、セオ様。アメルなら直ぐに戻って来ますから、ここで待っていましょうか? アメルの足は私達一族の中でも飛び抜けて早いですからね、直ぐですよ」

 へ~、そうなんだ。
 アメルの帰りを待っている間に、とマレクが「我々兄弟の事を少しお話させて頂いてもよろしいですか?」とマレクとアメルの事を教えてくれた。
 マレクとアメルは5人兄弟でマレクが次男で2歳下のアメルが三男、下には年の離れた妹が二人。両親共に軍人の家系なんだって。
 ウェアウルフだけあって獣化もでき、肉弾戦にも強いって事で重装歩兵団を推薦されていたけど、マレクとアメルは竜騎に憧れて竜騎士団に入ったらしい。
 なんという生まれながらにしての超サラブレッド! なのに、折角の竜騎士団の花形、黒帝竜騎士団に入れたのに僕達の専属騎士になんてさせられちゃって申し訳ないな。
 マレクは魔王様のご寵愛を受けている御子の専属騎士に選ばれたのは誉れ高き事だ、とかウンヌンカンヌン言ってたけど、それはどうかなぁと思う。ご寵愛も何も僕達ただの小姓だしねぇ~。

 きっと、専属騎士になってくれたにもかかわらず、マレクとアメルの事を何も知らないままな僕達の為に自己紹介を兼ねた雑談をしてくれたんだと思う。
 だって、最初に会った日に名前だけ聞いて終わっちゃったもんね。
 反対に、マレクとアメルは僕達の名前以外で何か知ってるのかな? 声は出しちゃいけないけど、僕達も何か自己紹介した方が良いのかな? なんて考えてて、ふと思ったんだけど……

 僕達ってなに?
感想 1

あなたにおすすめの小説

ストーカーから逃げ切ったのも束の間、転移後はヤンデレ騎士団に殺されかけている現実!

由汰のらん
ファンタジー
ストーカーから逃げていたある日、ハルは異世界に召喚されてしまう。 しかし神官によれば、どうやらハルは間違って召喚された模様。さらに王子に盾ついてしまったことがきっかけで、ハルは国外追放されてしまう。さらに連行されている道中、魔族に襲われ、ハルの荷馬車は置き去りに。 そのさなか、黒い閃光を放つ騎士が、ハルに取引を持ちかけてきた。 「貴様の血を差し出せ。さすれば助けてやろう。」 やたら態度のでかい騎士は、なんとダンピールだった。しかしハルの血が特殊だと知ったダンピールはハルを連れ帰って? いっそ美味しい『血』(治癒)と『体液』(バフ)と『癒し』を与えるダンピール騎士団のセラピストを目指します!

【完結】異世界から来た鬼っ子を育てたら、ガッチリ男前に育って食べられた(性的に)

てんつぶ
BL
ある日、僕の住んでいるユノスの森に子供が一人で泣いていた。 言葉の通じないこのちいさな子と始まった共同生活。力の弱い僕を助けてくれる優しい子供はどんどん大きく育ち――― 大柄な鬼っ子(男前)×育ての親(平凡) 20201216 ランキング1位&応援ありがとうごございました!

性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000の勇者が攻めてきた!

モト
BL
異世界転生したら弱い悪魔になっていました。でも、異世界転生あるあるのスキル表を見る事が出来た俺は、自分にはとんでもない天性資質が備わっている事を知る。 その天性資質を使って、エルフちゃんと結婚したい。その為に旅に出て、強い魔物を退治していくうちに何故か魔王になってしまった。 魔王城で仕方なく引きこもり生活を送っていると、ある日勇者が攻めてきた。 その勇者のスキルは……え!? 性技Lv.99、努力Lv.10000、執着Lv.10000、愛情Max~~!?!?!?!?!?! ムーンライトノベルズにも投稿しておりすがアルファ版のほうが長編になります。

人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます

七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。 歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。 世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。 気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。

転生したら本でした~スパダリ御主人様の溺愛っぷりがすごいんです~

トモモト ヨシユキ
BL
10000回の善行を知らないうちに積んでいた俺は、SSSクラスの魂として転生することになってしまったのだが、気がつくと本だった‼️ なんだ、それ! せめて、人にしてくれよ‼️ しかも、御主人様に愛されまくりってどうよ⁉️ エブリスタ、ノベリズムにも掲載しています。

弟がガチ勢すぎて愛が重い~魔王の座をささげられたんだけど、どうしたらいい?~

マツヲ。
BL
久しぶりに会った弟は、現魔王の長兄への謀反を企てた張本人だった。 王家を恨む弟の気持ちを知る主人公は死を覚悟するものの、なぜかその弟は王の座を捧げてきて……。 というヤンデレ弟×良識派の兄の話が読みたくて書いたものです。 この先はきっと弟にめっちゃ執着されて、おいしく食われるにちがいない。

転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる

塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった! 特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。

元執着ヤンデレ夫だったので警戒しています。

くまだった
BL
 新入生の歓迎会で壇上に立つアーサー アグレンを見た時に、記憶がざっと戻った。  金髪金目のこの才色兼備の男はおれの元執着ヤンデレ夫だ。絶対この男とは関わらない!とおれは決めた。 貴族金髪金目 元執着ヤンデレ夫 先輩攻め→→→茶髪黒目童顔平凡受け ムーンさんで先行投稿してます。 感想頂けたら嬉しいです!