転生したら『よくある魔王様の隣にいる一対の子供』アレになってた

兎卜 羊

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9-2 魔王様の隣のアレだって走り出したい時がある

 僕達ってなに?

 魔族だとは思うんだけど、種族は分からない。
 お父さんとお母さんは? 
 ネオ以外に兄弟はいるの? 
 いつから魔王城にいるの? 
 なんで魔王城で魔王様の小姓をしてるの?

 なんで?

 ネオは知ってるの? そう思ってネオの顔を見たけど、ネオは急に僕が顔を向けた事に小首を傾げただけで、僕みたいにマレクの自己紹介で何かを思った様子もなさそう。
 そういえば人格が『僕』だけだった時は、こんな事気にもしなかったし、考えた事も無かった気がする。
 だって、お父さんやお母さんっていうモノがどういった存在なのかなんて知らなかったし、気が付いたら側には魔王様がいて、僕達のお世話はダリウス達侍従がしてくれてた。

 『僕』の中に『俺』がいるせいで気付いちゃった事に愕然としていると、ネオが心配そうに僕を引き寄せて抱きしめてくれた。
 なんでネオは僕が不安だったりすると直ぐに気が付いてくれるんだろう。ザワザワする胸を誤魔化すようにギュッとネオの背中に手を回してしがみ付く。
 僕の不安を和らげてくれようとしてるのか、トン……トン……と僕の背中を優しくネオが叩いてくれて、その温かいネオの手に泣きそうになる。
 でも、ここはお外だし、僕達以外にも人がいっぱいいる。それに直ぐ近くにはマレクもいるから泣いちゃダメだ。
 グッと奥歯を噛みしめて泣くのを我慢していると、僕が泣きそうな事に気が付いたらしいネオが僕の頭を自分の肩に押し付けるように抱きかかえてきた。そして長い袖を使って僕の顔が誰にも見えない様に覆ってくれた。
 なんなの?ネオ……『俺』の時だったらスパダリとか呼ばれる人種だよ? モテモテだよ?
 あ……ヤダ、ネオが僕以外の人に優しくしてモテモテとか絶対ヤダ。
 お父さんとかお母さんとか兄弟とか、そんなのいらないし、どうでもいい。今まで通り僕にはネオさえいればいい。

「お待たせしました! 魔王様から許可が頂けましたので今から行き、ま……しょ……兄上、これは……」
「いや……私にも、あの、セオ様。私は何かお気に触る事を言ってしまったのでしょうか」

 アメルが戻って来たのか元気な弾ませた声が聞こえた。けど、ネオにしがみ付く僕を見てか、戸惑った気配に代わる。それに、マレクもオロオロと動揺を隠せない声色で自分が何か仕出かしたのではないか、と言って焦ってるのが伝わってきて申し訳ない気持ちになってくる。
 僕が泣き虫なばっかりに皆に迷惑かけちゃって情けないよぅ。
 まだ、顔を上げれない僕の代わりにネオがマレクとアメルにかぶりを振って大丈夫だと伝えてくれてるみたいだけど、それすらも申し訳ない。

 前世で生きた17年間の僕の人生経験どこ行ったの? もう僕ポンコツじゃん。
 うえー、僕は本当にネオがいないと生きていけない。

「セオ様、ご気分が優れない訳ではないのですね?」

 アメルの声に顔をネオに擦り付けたまま頷く。
 ちょっと泣きそうだっただけで元気です~。涙目さえ何とかしたら動けるもん。

「でしたら、ドラゴンの搭乗許可も頂いておりますので、少しお空の散歩に行きませんか?」

 え? なにそれ、素敵。そんな許可まで魔王様からもぎ取って来るなんて、やっぱりアメルが真の勇者だわ。
 でも、ドラゴンか~。物凄く魅力的だしいつもなら一も二も無く頷いてたけど、でも、今は僕ネオと離れたくない。指一本でもいいから繋がってたい。ドラゴンに乗る、ってなったら絶対離れるじゃん。今離れたら僕死んじゃう。無理。
 でも……ネオは乗りたいと思う。ケートスでお外見てる時から乗りたいって言ってたもん。
 僕……お空のお散歩の間だけでも我慢、出来るかな……

 そう思って頑張って頷こうと顔を上げかけた時、耳元で「走ろ」とネオの声がして顔を覆っていた袖の布がなくなった。
 驚いて上げた視界の中でネオの金色の目が至近距離で僕を見てて。次の瞬間、僕の手を取ったネオに引っ張られて、二人で走り出した。

「ネオ様!!」
「セオ様!!」

 走る僕らの後ろから焦ったマレクとアメルの声が、甲冑のぶつかって鳴る音と一緒に聞こえてくる。けど、振り返る事なく僕とネオは手を繋いで白いお花が咲いている場所を目指して走った。

「僕、今はドラゴンよりセオとくっ付いてたかったんだ」

 マレクとアメルは追いかけて来てるけど、離れてるしきっとこの状況なら声は聞こえない。

「うん……うん。僕も、ドラゴンに乗るよりネオとくっ付いてたかった」

 きっと、ネオは乗りたかったはず。だけど、ネオと離れたくない僕の気持ちに気が付いて僕を優先してくれたんだ。
 前世を思い出す前も、思い出した後もネオはずっと僕を助けて守ってくれる。
 なんで、ネオはこんなに僕に優しいの? 優しい優しい、僕の唯一の片割れ。

「一緒だね」
「いっしょ……うぇ……」

 一度は引っ込んだ涙がまた出てきちゃったけど、今は走ってるし止められない。

「セオ、今なら泣いてもバレないよ。マレクもアメルも追いかけるのに必死だもん」
「ふ……うぇぇ……ネオぉ、だいずぎぃぃぃぃ。僕、ネオだけでいい~」
「僕だってセオが大好きだし、セオさえいたらいい」
「うわぁぁぁ~ん……ずぎぃ、一生一緒にいる“ぅぅぅ」

 ネオの事が好きすぎて死ぬ。
 ネオのおかげで泣き虫な僕がやっと泣く事が出来て少し落ち着いてきた。そんなタイミングを計っていたかのようにネオが声を掛けてきた。

「セオ、涙拭いて回り見て。すっごいよ~」
「……うん」

 ネオに言われた通り、涙を袖で拭って前を向く。
 すると、今まで涙で滲んでちゃんと見えていなかった大草原が目の前に広がっていた。目の前には人も魔獣も、遮るものが何一つない一面の緑。それと空の青と雲の白だけ。
 背後から追って来ているマレクとアメルを無視すれば、ここには僕とネオしかいない世界みたいだった。

 いつも魔王城の煌びやかだけど禍々しい壁や柱ばかり見ていた時からは考えられないくらい、爽快な眺め。
 何よりも明るい! 滅茶苦茶明るい!! 魔王城のお庭も明るいんだけど、なんだろうこの違い。それに風も気持ちいいし。
 だからかな、走る足も軽く感じる。目の前の小さな岩もピョーンって軽々飛び越えられちゃう。
 ずっと魔王城にいるから、なかなか走る機会はないけど、実は僕達は走るのが好き。それにジャンプも得意。嬉しいとピョンピョン飛んだり跳ねたりしちゃうし。

「ネオ! 凄いね!!」
「凄いね! セオ!!」
「あの小っちゃい木! 飛び越えよう!」
「うん、行こう!」

 走るのが楽しくって、ついつい真っすぐ白いお花の咲いてる場所へは行かず、あっちの岩をピョーン、こっちの倒木をピョーン、なんにもないけどピョーン、って感じに蛇行しまくって、走って飛んでを繰り返して白いお花の所に着いた時にはハァハァと息が切れちゃってた。
 途中、マレクとアメルが付いて来てるのか気になって振り返って見てみたんだけど、蛇行して縦横無尽に走る僕らを追いかけるのは大変みたいで、最初よりちょっと距離が空いてた。
 でも重い甲冑着てずっと走って追いかけて来てるんだから、凄いよね。

 そうやって走って飛んで大満足で辿り着いた先は、小さな白いお花が一面に咲き広がり、白い絨毯みたいだった。
 川があると言っていたからか、所々に大小様々な木が生えていて木陰もあり最高の場所だ。
 白いお花の絨毯に走って来た勢いのままダイブしてネオと一緒に転がる。
 草がふわふわぁ~。それにこの白いお花の匂いなのかな? 凄くいい匂いがする。
 寝転がったままネオと抱き合ってクスクス笑いあう。こんなにいっぱい走って跳ねて遊んだのなんて今世で生まれて初めて。しかもネオと一緒だから凄く幸せ。

 僕が目を閉じて幸せに浸ってたらネオの唇が僕の唇に優しく触れてきて、僕は目を開けた。
 これ、悲しい時とか不安な時にする《おまじない》だ。

「セオ、もう不安な事なくなった?」
「うん、ネオが僕と一緒に走ってくれたから飛んでった」
「そっかぁ、良かった。セオ、何が不安だったの? 僕にも教えてくれる?」
「うん……」

 不安な事や悲しい事があったら今までなら全部ネオに伝えて来たけど、さっき僕が気が付いた『僕達ってなに?』って疑問はネオには言い辛かった。
 だって、ネオにいらない不安や心配をさせたくないから。気が付かないなら気が付かない方が良いような気がした。
 魔王様に聞けば教えて貰えるのかな? でも、今まで教えて貰っていなかった「それ」を聞く勇気がない僕は、逃げかも知れないけど今はこのままでいたかった。
 言い淀む僕のおでこに口づけて待つネオに、良い言い訳すら思いつかず唇をムニムニ動かしていると、甲冑の軋む音とマレクとアメルの声が近づいて来た。

「ネオ様っ! セオ様っ!! 大丈夫ですかっ!?」
「セオ様ぁ~!! どこですか!? ネオ様ぁ~!! ハァッハァ、こんなに足がお速いなんて……大丈夫か、兄上」
「ハァハァハァ……オェッ」

 切羽詰まった二人の声がおかしくて、僕らは顔を見合わせてクスクスと笑ってしまう。今は難しい事なんて考えるの止めよう。不安なのも心配なのも終わり終わり!
 僕とネオがガバッと起き上がると、お花に埋まって僕達が見えていなかったマレクとアメルが「うわぁ!」「おおお!?」と今度はおかしな叫び声をあげて飛び上がってた。
 それを見た僕らは袖で顔を隠して笑った。





 ◆次回~~お花畑での出会い?~~
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